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セイメイの誕生

その世界は、魑魅魍魎ちみもうりょうたちが跋扈ばっこしていた。

その世界での人間たちはずっと、あくまでも彼ら彼女らの添えものでしかない。

あるいはただの食事でしかない。

妖や鬼たちに見つからないよう、夜などは特に…

その身を出来る限り小さくしながら、隠れて静かに暮らしていた。

ある島国の、一つの国。

その名を京の国と呼ぶ、

そこで一人の赤子が産声をあげた。

驚くべきことに、その赤子は生まれながらにして光を纏って産まれてきたと言う。

しかし、その両親はどちらも不明。

ただ、光を伴って誕生していたと言うことだけは、

生まれて間もないその赤子を発見した京の国の人の記憶にしっかりと刻まれていた。

生まれながらにして幾重もの、光り輝く結界をその身に纏っていた。

それを見た国の陰陽道士たちは、その結界の強靭さと練り込まれた構成に愕然とし、希望を見出した。

それを見た妖たちの半分は自然と頭を垂れた。自らの意思で。

陰陽道士と自らの意思で付き従う妖たちによって赤子のセイメイは護られていた。

護られる必要はなかったのだが。

六つになった時。

セイメイは自らの意思で行動を始めた。

従う妖はそのままに、そうではない残り半数の妖を、調伏ちょうぶくするために…

セイメイは旅立った。

セイメイの力を知った妖の多くは、その自らの意思で従うことを決めた。

残りは全て、間も無くして消滅した。

セイメイの手によって。

夜に、世に、世界に平和が訪れた。

その下にはセイメイがいた、そしてその上にもまたセイメイが在る。

天上にも、天下にも、そこにはセイメイの姿が不変的に存在していたのだった。

世界にセイメイが誕生した。

その時にはもうすでに、この世界の全てがセイメイのモノだったのである。

セイメイは自由に、縛られず、何物をも縛らず、自由にさせ過ごした。

時に人々の声を聞き、悪さをした妖や鬼を懲らしめ。

しかし静かに平穏に、平安に暮らしていたのであった…



「儂の金棒を弾くか。確かにセイメイ様の言う通りだった…面白い男よ。 …で、あるならば」

鬼の手が巨大化する。

赤く、黒く、変化していく。

「この手で、相手をせねば無礼というもの」

明らかに先ほどよりも威圧感が増した。

勇者は再び構える。

「受けるか…ふむ、面白い。やってみせるがいい」

鬼が大地を蹴る。

先ほどよりも、ずっと力強く。

勇者もまた、その体に雷を纏う。

より速く、より重く。

肥大化した鬼の手と、勇者の横薙ぎが衝突する。

二人を中心に、大地が裂けた。

波動と振動が空間を破裂させる。


「…このわしの手すら止める…愉快、実に愉快」

鬼が楽しそうに嗤う。

勇者もまたつられて少し笑っていた。


「うん素晴らしい。素晴らしい力だ。ああ、実に、美しいモノを見ている気分だね」

セイメイは手を合わせる。


陰陽道術 あやかしの段

ー ユキメ ー


イバラギが消え、その代わりに白い服の女性が立つ。

「…セイメイ様」

「うん、手加減は無用だ。思うままにやっていい」

「かしこまりました。では」


あたりを吹雪が包む。

会場の気温があっという間に氷点下へと下がった。

「…雪の妖、か」

勇者はかつての雪娘を思い出す。

成長したらこのようになるのだろうか。

「戦いの最中に考え事とは、随分と、余裕ですね」

ユキメの放つ無数の氷柱つららが勇者を襲う。

勇者はその全てを切り落とし、自身もその手に魔力を集中させていく。

…この戦いに、加減は無用。

ー 氷魔法 極大 ー

勇者の放つ極点の氷がユキメを包む。

巨大な氷塊が出来上がっていた。

その中には、ユキメの姿。

その表情は悔しさか口惜しさか、頬を染めて歪んでいた。


「あっはっは。ユキメを凍らせるか。くくく。面白い、実に面白いよ。でも気をつけた方がいい。妖はそれはそれは嫉妬深い、執念深いからね。そんなことをして、これから大変だと思うねぇ。 …でもまあ、それも自らが招いたことだ。ふふふ、ああ、面白いねぇ。ユキメの表情も、初めて見る表情かおだ」

セイメイはユキメの氷塊を見て実に楽しそうに笑っていた。

そして再び手を合わせた。


陰陽道術 ゆうの段 

ー ウシワカ ー


「セイメイ様、私をお呼びですか。となれば、あのモノを斬れば良いのですね?」

「そうだね。好きに斬っていい。思うままにやるといいよ」

「嬉しいです!! すぐに!!」


ウシワカは武器を構える。

手にしている獲物はオキタの持つカタナと非常に似通っていた。

「では、早速」

姿が消える。

右。いや、左。

稲妻の如き疾さ、その姿が複数にすら見える。

左右から同時。

差のない斬撃が勇者を襲う。

初撃を左に受ける、

同時に右からも斬撃がくる。

「!」

間に合わない。

上体を強引に逸らしてかわすも、右腕を掠める。

「掠っただけ。やりますね」

勇者の右腕から一筋の血が流れた。


「流石に無傷、とはいかないね。うん。良くやったよ」


セイメイのその声を聞いてウシワカの顔が綻ぶ。

「褒められた。セイメイ様に褒められた。嬉しい」


「今のウシワカでも傷を負った、ということは、次はどうなるかな?」


陰陽道術 進

ー ヨシツネ ー


ウシワカの纏う気が、嵐のように変わる。

その姿も成長し、大人びた青年へと変わった。

「…それでは、参りましょうか」

構える。

その気迫は、先ほどとはうって変わって落ち着いている。

静かで、重々しく、しかし洗練され、美しくすらあった。

勇者もまた、剣を構える。

あの疾さ、以上であるのなら。

勇者は極大の雷を纏った。

暴れ回る雷撃が舞台上に散る。


「素晴らしい力。 …本当に、素晴らしい力だね。ああ、なんと、力強く、猛々しくも完全な…完璧な光のなるかみだろうか…」

セイメイはただただ見惚れていた。


二人の姿が消える。

舞台上に音だけが鳴った。

時折その姿が交差して現れる。

刹那の時を共有していた。

剣とカタナがぶつかり合うたび、

舞台上に残像と、火花だけが散っていた。


姿が現れた時、

勇者の左肩にヨシツネのカタナが刺さっていた。


「…捉えました」

「…っ」


「…お見事」

セイメイはヨシツネを称賛した。


「!」

勇者は左手でカタナを掴み、

すぐさま雷を流す。

ー 雷魔法 極大 ー

暴れ狂う雷がヨシツネを包んだ。

「…ああ、油断、私もまだまだ未熟ですね」

ヨシツネは微かに笑って消えた。


「肉を切らせて骨を断つ…見事だね。でも、その傷は浅くはないのだろうね?」


「…」

流れ出る血が地面に滴る。

勇者は左肩に回復魔法をかけた。

自己再生だけでは、少し時間がかかるだろう。


「…では、次は」

瞬間、

勇者が目の前に現れる。

剣を構え、

「おっと。いいね。それもまた正解だ。元を断つ、とは良く言ったもの」

構える勇者を見てもセイメイは動かない。

振り下ろされる剣、

しかしその身には届かず、悉く弾かれていた。

何枚もの強靭な膜に遮られたかのように、

「…結界?」


「うん。結構強力な結界でね。 …今まで、誰にも破られたことはないんだ。生まれてからずっと、ね」


セイメイは実に穏やかに、ただ、ただ静かにそう口にした。


「でも…そうだね。そろそろ私も」

静かに、ただ静かに。

セイメイはゆっくりと、その身からあるものを取り出す。

それは黒く、短いカタナのようだった。

小刀の短い刀身は不自然に揺らいで見える。

「私たちの国、世界では道力と呼んでいる。君たちで言うところの魔力になるのかな。まあ時に呪力、なんて呼ぶ時もあるけど。どちらでも同じことでね。私はどうやらそれが人よりもだいぶ多いようだ。うん、もちろん最初からその自覚はあったよ。それでその私の道力をこの小刀が吸っていてね、大抵は壊れてしまうんだけど、この子だけは大丈夫だったんだよね。だからそれからずっと愛用している。 …これに傷をつけられると、ひどく治りが遅くなる。妖だろうと、鬼だろうと、なんであろうと、ね」

小刀を構える。

勇者もまた、続けて構えた。

「では、」

セイメイの動きは特段に速いわけではない、

ただ、その動きは、まるで太刀を持った舞踏。

剣術ではなく、剣の舞い。

洗練され無駄のない動きに、勇者は翻弄される。

小刀が黒く揺らぐ。

剣線が揺らぎ、その先が正しく読めない。

つかめない。

力強いわけでも、速いわけでもない。

それでも、次第に勇者は防戦一方になっていった。

強引な剣戟は結界に悉く弾かれる。

腕、頬、肩、と、次第に傷が増えていった。

小さい傷がより深く、大きく…

勇者の持つ自己再生の回復ですら追いつかなくなっていく。

「…このまま追い詰められてしまうのかな?」

セイメイの表情にはまだ、余裕があった。


「その身に宿る力をもっと表には出さないのかい? 勿体無いよ」

「生憎と、セイメイのような召喚術は使えないんだ」

「ああ…それは実に、実に勿体無いことだね」


二人の剣の舞踏は激しさを増して続いていく…

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