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空(くう)の勇者

勇者のファンである受付嬢は今日も仕事に励んでいた。

それにしても前の試合は素晴らしかった。

本当に何回見ても飽きることがない。

血だらけになりながらもそれでも立ち上がる勇者の姿に興奮した。

そう、この受付嬢は少し歪んだ面も持ち合わせていたのである。

「あ〜、少しいいかな? 白黒勇者選手の部屋を教えてもらいたいんだけど」

「すみません、ファンの方は立ち入りを…て、オキタ選手!」

「はは、まあ、ファンと言えばそうかもしれないね。この前の試合、本当に面白かったなぁ」

「わかります! 素晴らしい試合でしたよね!」

「そうそう、まあ、用事は別にあるんだけど。それで、教えてもらっていいかな? 選手同士は、確か争わない限りは何も問題ないんだよね?」

「あ、はい。少々お待ちください。 …はい、こちらです。腕輪の反応によりますと、部屋にいる様子です」

「腕輪を置いていなければ、ね。まあ留守なら留守で、その時はまたあらためるよ。それじゃあありがとう」

にこやかに立ち去っていくオキタ。

その様子を見たもう一人の受付嬢は。

「…あ〜、やっぱりカッコいい…私、前からずっとファンなの…」

「そうだったの? それなら話しかければいいのに。あなたが対応すればよかったじゃない」

「無理無理! 絶対に無理! 見るだけで満足だから。それ以上なんて…私にはとても無理」

「いや、仕事しなさいよ。仕事放棄じゃないのそれ」

「…はぁ、後ろ姿もほんと素敵…目に焼き付けておかないと…」

「…聞いちゃいねぇ。仕事しろ」



「やあ、こんにちわ」

突然の訪問客はオキタ選手だった。

「君がオキタ選手」

「オキタでいいよ。それと、タイガーショップの羊羹ありがとう。僕、本当に大好物なんだよね。限定品って買えないことも多いから。本当に嬉しくてさ。直接お礼が言いたくて」

「え? それでわざわざ。メッセージか何かでも構わないのに」

「それじゃあ僕の今のこの気持ちが君に伝わらないだろう? だから直接伝えに来たんだよ」

「まあ中に、何か頼もうか?」

「気を使わなくてもいいよ。それと、この前の試合見たよ。素晴らしいね。本当に面白い試合だった」

「ああ、まあ、うん。ありがとう」

「あの雷の魔法? すごいねあれ。多分あれを受けて無事でいられる人はいないんじゃないかな」

「そうかな? でも、制御が難しいから、今は危なっかしくて、そうそう使えないけどね」

「ふ〜ん、でもそれを自在に使いこなせるようになったら、きっと君がここでナンバーワンになれるね」

「どうだろう。色々な勇者がいるみたいだし。まだ知らないような能力を持っているだろうからね」

「ふふ、慎重だね。それもまた素晴らしいよ。僕は君のファンだから」

「え?」

「そんなに驚かないでよ。羊羹をもらって気になって、それで直接見てみたくて、この前の試合で初めて君を見た時。うん、電流が走るとはこのことだね。それでもう一気にファンになっちゃったんだ」

「あの雷を受けた訳じゃないよね?」

「ん〜、どうかな? そうかもね? はは。冗談。でも、君と話していると楽しいな」

「確かに、何かこう、気兼ねなく話せる気がする」

「本当? 嬉しいな。じゃあ僕と友達になってくれる?」

「それはもちろん、喜んで」

「ああ、本当に嬉しいな。僕、体調が悪くなる時も多いからさ。それで自由な時間も、あまりないし」

「今度どこか一緒に行こうか。この施設内でも、いろいろあるから。娯楽施設も多いし」

「わぁ、いいね。楽しみだな〜」

「あ、そうそう。今更だけど、不戦勝しちゃって、何かごめん」

「いいよいいよ。全然。僕にとってはよくあることだから。まあ本当に、嘘でもなんでもなく二回に一回はやっちゃうからね」

「それで勝率が50%なんだね」

「ははは、恥ずかしいなぁ。そうなんだよ。でも多分次はちゃんと戦えそうな気がしているから、見に来てくれると嬉しいな」

「もちろん行くよ」

「本当? わぁ…よし。これはちゃんと出ないといけないな。気合い入るね。うん。あ、もうこんな時間か。楽しいと過ぎるのも早いんだね。お茶ありがとう。このクッキーも美味しかった。それじゃあね、勝つから見にきてね!」

「わかった。でも、体調が悪かったら無理はしないように」

「それは大丈夫。慣れてるからね」

オキタは軽やかに帰っていった。


「随分と親しそうでしたわね」

「出てきてもいいのに」

「いや、なんか邪魔できない雰囲気だったぞ」

「黒姫まで? まあ、確かに初めてとは思えないくらい親しみを覚えたけど」

「気が合ったのでしょうね。わたくしと黒姫さんとは違って」

「それ言う必要あるか?」

「二人は別に仲が悪いわけではないでしょ?」

「今は悪いですわ。黒姫さんが黙ってわたくしの秘蔵のクッキーを貪り食べたので」

「いや普通に置いてあったら普通に食べるぞ。ここは白姫だけの部屋じゃないんだから」

「まあそしてその最後を今あなたがオキタさんにあげてしまったのですけれど」

「あ〜、うん。ごめん。後で頼もうか」

「いいえ、構いません。注文はもうしてありますので。限定品も買えましたし、あとはただ待つのみですわ」

「…そう」

そういえばオキタは誰と対戦するんだろう…調べてみよう。


天才剣士 オキタ 対 くうの勇者 リメス


「…くうの勇者? なんだそれ?」

「少々お待ちください、え〜っと…どうやら空間を斬るようですわね」

「…なんだそれ?」

「ですから、空間を斬るようですわ。後は、ええっと、武器は刀身の無い剣、距離の長短関係なくあらゆる空間を切り裂く。 …ようですわね」

「よくわかんないな。つまりなんでも切っちゃうってことか?」

「まあそうみたいですわね」

「なんか何気にすごい能力な気がするぞ」

「実際にすごいことだよそれ。空間を斬る、とか。まあ見てみないと実感はわかないけど。くうの勇者か…」

「何気にこの方も負けなしですわね。勝率は現在100%ですわ」

「もう二人目? あ、でも時の勇者はこの前の試合で100では無くなってたね」

「それで随分ファンにメッセージをいただいたけどね」

…そしてそれは今も続いているけども。

「スポンサー絡みで賞金はまた随分とお高いですわ。次はこの方にしましょうか?」

「お金で決めるのは良くない。まあ、いずれは戦うかもしれないけど。でも、その前にオキタの対戦相手だからね」

空の勇者、リメス。手練れには間違いないだろう。

オキタ、大丈夫だろうか。



試合当日。

勇者は選手専用の観覧席にいた。

果たしてオキタは無事に試合に出られるのだろうか。

今日送った応援のメッセージには、

任せて

と返信があったから大丈夫だとは思うけど。



会場がにわかに騒がしくなっていく。

審判が舞台に現れる。

「さぁさぁさぁ、今日のカードは好カード間違いなし!! これは間違いねぇ!! なんてったって、あの天才剣士と、これまたとんでもねぇ空の勇者の対戦なんだぜ? コイツァたまんねぇってもんだ!」

観客たちの歓声が響きわたった。

「それじゃあ、まずは〜、無敗の勝者、空の勇者、リメスの登場だぁ〜!」


「…勝利は約束されたもの。 …相手が誰であっても。私に斬れないモノなどありはしない」


刀身の無い獲物を持った優美な姿。

その姿が現れると黄色い歓声が鳴り響いた。

「きゃ〜、リメス様〜、こっち向いて〜」

「勝利を〜、私のために勝利を〜」

「無敗の王の力を見せてくれ〜」


「よぉしそれじゃあ、次は〜。うお〜!! 今日は体調万全宣言、出場した試合は全て勝利をおさめている、天才剣士 オキタぁ〜〜〜!!」


「…ふぅ、良かった。今日は大丈夫そう」


黄色い歓声が上書きされる。

「ギャァあああああ!!! オ”キ”タ”さ”ま”ぁ”〜”〜”〜”〜”」

「私”を”見”て”ぇ”〜”抱”い”て”ぇ”〜”」

「ああ、でも見ないでぇ〜、あなたに見つめられたら死んでしまう〜」

「じゃあどうしろってんだよ」


「両者、並んで」


「…体調は大丈夫なのかい?」

「ええ、今日はすこぶる快調です。大切な友達も観戦に来てくれているので」

「そうかい。でも残念だね。君は初めて本当に負けることになるのだから」

「ええ、楽しみです」

不敵に笑うリメスと、朗らかに笑う対照的なオキタ。

しかし構える姿はどちらも決して相手を侮ってはいない。

本気を垣間見せる立ち姿であった。


「それじゃあ、試合〜、開始だゼェ〜〜〜〜!!!」


まず動いたのは空の勇者、リメス。

刀身の無い剣を振るうと、

舞台が裂けた。

「っと、危ない」

リメスの手にした柄の動きから斬撃の先を読んでかわすオキタ。

「…ほう、流石だね。これで終わると思っていたよ」

「ははは、いくらなんでも見くびりすぎですよ〜。じゃあ、次は僕から行きますね」

オキタの姿が消える。

六尺以上ある間合いを一足飛びで超える。

「む」

しかしリメスはその先にすでにいない。

「あらら、速いですね。空間移動ですか?」

「ふふ、君も速いね。それにまだ、本気では無いのだろう?」

「お互い様ですよ」

「…ああ、それもそうだね」

不敵に笑うリメスと、楽しそうに笑うオキタ。

舞台上には対照的な笑顔が対峙していた。

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