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無色の闇

勇者と黒姫は戦慄していた。

嬉々として目の前に並べられていく料理に。

「さあ、どうぞ。わたくしだってやればできるのですわ。だてに毎日タダ飯を食らっていたわけでないのですわよ?」

自信満々な白姫はそう言い放つ。

「いや、なんでそんなに自信有り気になれるんだよ。 まず聞いていいか? …味見とか、したのか?」

「なぜですの? わたくしが自らの手を使って誠心誠意つくったのですわよ? 美味しくてしかるべきですわ」

「えぇ…だって、なんかこれ、臭うぞ…」

そう、まず臭い。なんだこの匂い。臭い。匂いだけでエグい。

「それに…少し食べてみたけどえぐみがすごい、こんなにすごいえぐみは始めてだぞ…いや、そもそもこんな味になるはずないのに…何か変なもの入れたのか?」

「失礼な。用意された食材以外に何も入れるはずありませんわ。まったく。厳選に厳選を重ねた最高の食材たちですわ。あなたもそれは知っているでしょう?」

「まあうん、それならちょっと詳しく調理工程を聞いていいか?」

「仕方ありませんわね」

食材をきる、混ぜる、調味料をあわせる。焼く、煮る、蒸す。

確かに聞く限りでは変なことをしていない。


「そして最後に、隠し味としてわたくしの愛情を…こう」

淡い光が料理に注がれていた。


「それだそれ! なんだそれ!! いま何を入れたんだ?!」

「何って、わたくしの魔力ですわよ?」

「ですわよ? じゃないんだよ。何でそんなもの入れたんだ? いや、そもそも入れようするんだ?! 普通魔力入れないだろ? 入れようと考えないだろ?」

「ふふん、わたくし、回復魔法が得意でしょう? それと、知っての通り各種補助魔法も使えますの」

「それで?」

「強化魔法を施したんですわ。わたくしの愛情を込めて」

「…強化魔法を? 料理に?」

「…ああ、なるほど、つまりそれで食材が持っていたえぐみやら本来気になるものでもなかった匂いなんかを強化してしまったわけだ」

「ふふん、さすがでしょう?」

「いや彼は褒めてないから。全然褒めてるわけじゃないから…なんで余計なことをするんだ…これだから普段料理をしないやつはダメなんだ…」

「さあさあ、あったかいうちに頂きましょう?」

「何で今の流れでそんなに笑顔で言えるんだよ…」

「…覚悟を決めるしかないな」

「…はぁ…」

少しずつ食べ進んでいく。味と匂いはともかく、確かに栄養価は高いような気がする。


「おっす、へぇ、本当にここにいたんだな。匂いを覚えておいてよかったぜ。おっと、やっぱり食事中だったのか、悪りぃ。出直そうか?」

魔王の側近の獣人が顔を見せる。

「うわ、お前、一体何しにきたんだ?」

「おいおい、そう邪険にするなよ。何も戦いにきたとか、そういうんじゃねぇから」

「せっかくなんだ、用があるみたいだから入ってもらおう」

「料理が冷めてしまいますわ、手短にお願いしますわよ?」

「お邪魔するぜ。おう、勇者にもう一人の姫さん、白姫だっけ? 元気そうだな。ん? 妙な気配がするな…ゴーストか?」

「…こんにちは」

「おう、それで、まあ、なんだ。用事ってのはほかでもない、この前のことでな、まあ魔王様本人がくるつもりだったんだが、何しろ忙しい身の上でな。それで俺が変わりにきたってわけだ」

「魔王が何か用事でもあったのかな?」

「いやこの前の、何つーか、戦い? いきなり一方的に襲ったことを謝罪したいってね。まあ一国の王様でもあるわけだし、大陸の安定を成し遂げてる身の上からも、まあ俺は難しい事はわからねぇんだけどな。つまりは変わりに謝罪に来たってわけだ。この通りに」

深々と頭を下げる。

「今更謝罪を求めようなんて思ってもいないし、気にする事はないと伝えてくれていいよ」

「…俺もそう思ってたんだけど、それはまあ色々、都合があるんだろうな。んで、何かないか?」

「何か?」

「いや、魔王様から、謝罪と、それから何かできることがあれば聞いてきて欲しいと頼まれていてな。願い事とか、何でも良いぜ? つってもできない事もあるけどな!」

「んん、何かと言っても、特には、ないなぁ。何かある?」

「別に何もないぞ」

「わたくしも特には」

「…えっ? 私もですか? …特にないですね…」

それぞれが顔を合わせながらそう言う。

「あ、そうだ、この料理食べてっていいぞ。残すのは勿体無いからな」

「おいおい、いいのか? それだと願いを聞くというよりただのおもてなしじゃねェか」

「いいからいいから、な? 獣人なら匂いには強いだろ」

「? まあそこまで言うなら頂いていくぜ。ちょうど腹も減ってたしな」

獣人はペロリと平らげた。

ありがとう。


「独特の味っつーか、野趣溢れる感じで悪くなかったぜ。それじゃあ、何かあったら言ってくれよな。俺もしばらくはこの町に滞在しているし、場所だけ教えておくぜ」

「わかったよ、その時はいくよ、ただ、そんなに気にしないでいいから」

「ああ、そん時はそん時だ。魔王様にそう言っとく。それじゃあな。ああ、ごちそうさん」


「全部食べられてしまいましたわ」

「…そうだね」

「それじゃあ、また今度…「料理は僕に任せてよね!」

その提案は食い気味に黒姫が遮った。


とある平原にて。

少女が一人、佇んでいた。

「…」

少女は自分がどうしてここにいるのかわからなかった。

いつからここにいたのかもわからなかった。

何のためにここにいて、何をしたいのかもわからなかった。

「…」

ただ、ひどく、空腹だった。

何か食べないといけない。

何か…何でも。

何でもいい。

食べ物を…食べられるモノだったら、ナンデモイイ…

「…オナカ、スイタ」

少女は食べ物を求めてさまよい歩き始めた。

その目の先には、魔物がうつっていた。

「…オナカスイタ…タベル…」

ナンデモイイ…

少女は魔物に向かって歩き始めた。


勇者は朝食後の散歩の道中、どういうわけか言い知れぬ気配を感じて平原へと足を運んだ。

あるいは虫の知らせだったのかもしれない。

その気配の先、平原に一人でいる少女を目にして急いで近づいた。少女が魔物に向かって歩いていたからだ。

「こんなところに一人で、どうしたの? 迷子になっちゃったのかな?」

「…オナカ…スイタ…」

クゥぅぅ、と、少女のお腹がなっていた。

「うん、それならちょっと待ってて、ああ、いや…」

こんなところに少女を一人にしてはいけない、そう思った。

いや、それ以上に、この子を一人にしたらいけない、なぜだかそう思った。

勇者は少女の手を取る。

「これから一緒にご飯を食べに行こう」

「…ウン…」

少女はされるがままに着いていくことにした。


連れ立って歩いていて、勇者は体の違和感に気づいた。

…体力、あるいは魔力を吸われている?

「…?」

少女に自覚はないようだった。

本人に自覚があるのかないのか、実際はわからないが、少なくとも今はそう思えた。

「君は…ええと、名前、なんて言うの?」

握った手を離さずに聞く。

「…ナマエ?」

「…お家はどこかわかる?」

「…オウチ?」

「…うん」

記憶喪失だろうか? それとも…なんだかまるで、自分と似ているかのような…

「…オナカ…」

「ああそうだったね。続きはご飯食べてからにしようか」

「…ウン…」

すぐにでも食べたそうだ、ひとまず朝の屋台で何か買おう。

適当に見繕って渡す。

「はい、どうぞ。食べられる?」

「…ウン」

手は離さないままで。

なぜだか、手を離してはいけない気がしていた。

この子を、今は離してはいけない。


食事を終えると、少女は少し落ち着いたようだった。

やはり、少しずつではあるが、体力、魔力を吸い取っている。

「…」

「さて、これからどうしようね?」

「…ネ?」

少女は首を傾げている。

ああ、そうだ、せっかくだからあの獣人のところへ行ってみるか。

もしかしたら魔族の類なのかもしれない。


「こんにちは〜」

「…ニチハ」

少女を連れたまま手渡された部屋を叩く。

「おう、何だ随分早かったな。まあ入っていいぜ」

「お邪魔します」

「…シマス」

「って、ん? 誰だそのちっこいの…ん? んん? 何だ?」

急に距離を取る獣人。

「どうした?」

「…?」

その様子を不思議そうにみる二人。

「あ、ああ、いや。悪い。何でもねぇ。うん。何でも無い、はず」

獣人にも理由がわからなかった。

少女を見たとき、全身の毛が逆立ち、肌が粟だった。

本能が警笛を鳴らしていた。 …冷や汗が止まらない。


「どうしたんだ? そんなに警戒して」

「…シテ」

「んん、いや。何でも、何でもねぇ。しかし、何なんだ。俺も良くわかんねぇ。こんなのはじめてだぜ。その、悪りぃな」

獣人はアナライズを行う。

そして戦慄する。

「…色がねぇ。ありえねぇだろこんなこと」

「色? 何の話だ? お前が今使った探知魔法の類の話か?」

「…イロ?」

「…いや、まあ、普通は魔力に色なんて見えねぇんだけど、本来はそれぞれに色がついてんだよ。俺にはそれがわかるっつーか…」

「特殊技能みたいなものか」

「まあそう思ってもらってもいいぜ。で、問題は魔力があるのに色がない。無色なんだよ。全くの無色。無色が見えるってのも変な話かもしれないけどよ…だから余計に…いや、でも属性で言えば闇? のはず…それなのに…いや、闇じゃないのか? …わからねぇ…全然…」

「…無色の魔力ねぇ」

「…ネェ?」

「あと、お前は気づいてるだろうけど、魔力というか生命力というか、ずっと持ってかれているぞ?」

「ああ、それはまあ、気づいていたよ。どちらも自然回復量に及ばないから、まあこのままでいいかなって」

理由はそれだけではないけども。

「…?」

首を傾げる少女。


「お前も大概バケモンだなおい。まあ確かにお前自身がいいならそれでいいけどよ」

「おそらく、だけど、手を離したらすごい勢いでこの子のお腹がすくんじゃないかな。 …試してもいいけど」

「…いや、お前のいう通りだと思うぜ。何しろお前の力も取り込んで無色に変わっていってるからな。その魔力は止まっていると言うより常に流動していて、生きている感じだ。消費、とはまた違うんだろうが…吸い込まれている? 何に? わかんねぇ、なんか底なしの穴に吸い込まれてるみてぇだな。まあ、取られる量としたらそこまで問題じゃないだろうけど、でも、ずっとだろ? 本当に平気なのかよ?」

「これぐらいの量だったら、大丈夫だと思うよ。ただ、かと言って、ずっと手を繋いでいるわけにもいかないからね。何かないか? こう、うまいこと力を分け与えられるようなアイテム。マジックアイテムとかでも。都合が良すぎるかな?」

「…カナ?」

「…どうだろうな。ううん、どちらかと言うと呪いの道具にあたるかもしれねぇな。魔王城に戻って聞いて回りゃ、何か情報がつかめるかもしれねぇけど…そう言うのに詳しい奴もいるしな…」

「それなら頼むよ。それがお詫びってことでいい。魔王にもそう言っておいて」

「…わかった。探ってみるぜ。急いだほうがいいだろ?」

「いいのか? それならこちらとしても助かる」

「いいぜ、なんか俺もほっとけないしな。お前たち見てると」

「ああ、よろしく頼む」

「…タノム…」

「…それじゃあ早速帰るぜ、何かわかったらすぐ連絡する。もしそのブツが見つかったらすぐ届けてやるよ」

「ありがとう」

「…アリガトウ」


少女の手を引いてこれからのことを考える。

ひとまずは、情報待ち、になるか。

それからのことは、それから考えるとしよう。

「お腹は空いてない?」

「…ウン」

「…それじゃあ一緒に行こうか」

美味しいものを食べさせないと。体に良くないものは、きっと、良くないだろうから。

できるだけ、良いものを、たくさん。たとえ美味しくなくても、ね。

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