自称勇者(本物)
白の城、黒の城、白の姫、黒の姫。自称勇者(本物勇者)のラブコメ。
眼が覚めると見知らぬ宿屋にいた。
「ぐっすり眠れましたか? ありがとうございました〜」
慣れたように懐に入っていた金貨を差し出す。
どうやら多すぎたようだ。
「…」
いい空。青い空だ。
天気は文句なし。街の活気も文句なし。
ただ…
「どこだ? この街…」
見覚えが全くと言っていいほどない。
いや、そもそも自分はどうしてこんなところに…
待て、自分は? あれ?
「…誰だっけ…」
記憶がない。
うっすらと、確か自分は勇者だったような気がしている。
勇者で、冒険していて、その目的を…果たした? のだったような…
だめだ、思い出せない。
霞がかかっているかのような、どこか薄ぼんやりとしていて何も…
さっきまで寝ていたからだろうか…
「体でも動かすか」
街を歩く。
道ゆく人々は元気一杯だ。
食べ物なんかも売っている。
それにしても広い街だな。端から恥に行くだけでも結構な距離だ。
そして圧巻なのが遠くに見える景色、というか、城だ。
ここから一段高いところには二つの城が見えている。
白い城と、黒い城。
お互いの距離はけっこう近いように見えるが、その間には何もない。
道は互いに逆方向に伸びていっている感じだ。
普通に別々に行くしかなさそうか。あるいは…
というよりも、浮いてる? どっちも浮いていないか?
歩きならが体の調子を調べる。
力、はそれなりにありそうだ。
魔力、というか、ぼんやりとしているが、火、氷、雷あたりはだせそうな感じがする。
どのくらいまで出せるのかは試すしかないが、問題はなさそうに思える。
自分に何ができて何ができないのかは試しながらいくしかないな…
「いらっしゃーせー、そこのお兄いさん、どうですかい?」
パブ、居酒屋か。こんな朝から元気なものだ。
しかし、情報も必要だと思い直し、入ることにする。
「適当な飲み物を、アルコールはなしで」
「あいよ」
流石に客はそれほど多くもない…
それでも朝から元気に飲んでいる人たちもいる。
話し声もよく聞こえてくる。
聞き耳をたてていると、オーナーが話しかけてきた。
「お兄さんも冒険者だろう? 白の城に行くのかい? それとも黒の城に行くのかい?」
「城に行くと何かあるのですか?」
「ああ、お兄さんもしかしてここに来たばっかりかい?」
「ええ、そうですね」
「それなら自分で見に行くのもいいだろな。どっちを攻めるのか、それともどっちを守るのか」
「…」
「何か聞きたいことはあるかい?」
「そうですね…」
…なるほど、オーナーに聞いた話、周りで話していた客たちの話を整理しよう。
この街、最初の街を挟んで東に行ったところに白の城。西に行ったところに黒の城がある。
そのどちらにも姫がいて、そのお互いがお互いに争いを続けている。
自分のような冒険者たちは白の城か黒の城を守るために戦うか、あるいは攻めるために戦うかを選べる。
自分も冒険者である以上は、まあ、そうするべきか。
「見てみるしかないな」
西へと向かう。
向かう先は黒の城。
なんとなく、本当に、ただ、何となくだ。
「キシャ~」
道中魔物と何匹も出会ったが、まあ特に何も問題はない。
何故か最初に持っていた剣でも特に困りそうなことはない。
これなら装備を整える必要もなさそうだ。
道すがら試した魔法も、特に問題ない。
力を込めた分、威力が上がる感じがする。
どのくらいまで込められるのかはまだ試していないが、どうやらそこまでする必要はなさそうだ。
「貴様白の兵だなぁ!」
城門は空いていたので入ると、すぐ近くにいる人物に声をかけられた。
正直に言ったものかどうか。
「いや違う、が、黒の兵でもないな…」
「何をごちゃごちゃと、死ねぇ」
「…」
とりあえず気絶させてさらに進む。
なるほど、ずっと争いあっているだけあって至る所で戦いが行われている。
それぞれの兵士が、それぞれの姫のために戦っているのだろう。
相手にするのも面倒だな…
できる限り見つからないように先に進むか。
「城壁を登った方がはやいか…」
意外といけそうだな。
とっかかりさえあれば…
うん、問題ない。
あとは落ちないように気をつけながら進もう。
とある一室、最上階ではないが、広い場所に出る。
争いは混迷を極めていた。
「ボクの力をみるがいい、お前たちなど敵ではない」
そう言いながら少し大きめなハンマーを手にして戦っている一人、黒のゴシック衣装とでもいうのか、
まあ間違いなく黒の姫だろうな。
「ぐわぁ〜」
「さすが姫様です、どんどんいきましょう」
「ボクにまかせるがいい、有象無象の兵たちよ!」
「ぐわぁ〜」
強いな。確かに。周りとは比べ物にならないくらいだ。
と言うより、ハンマーでやられた兵たち、動きがおかしい…寝返っている?
…洗脳効果か? それは厄介だな…
「…そこにいるお前! 何者だ!」
「…見つかったか」
けっこう距離をとったのに、仕方ない。
話しがわからないようなら、少し戦うしかないか…
飛び降りながら近づく。
これでようやくお互いの顔がハッキリとわかる。
なるほど、戦ってさえいなければ見目麗しい姫としてもてはやされたことだろうに。
まあ、戦っていたとしてもそれは何も変わらないか。
「ボクをとりにきたか、だがボクはそう簡単には…」
黒姫の言葉が詰まる。
ただじっとこちらを見ている。
「…どうした?」
流石に沈黙が長い。
「お前、ボクのものになれ!」
「…」
「お前、ボクのものになれ!!」
「…聞こえている」
「だったら、ボクのものになれ!!!」
「…」
まるで壊れたかのように繰り返す。顔を真っ赤にしながら。
「姫様、とりあえずはそのハンマーで一度叩いてしまいましょう、いうことを聞かせるのはそれからでも」
「…むぅ」
「…逃すよりはその方がいいかと」
「…仕方ない…そう、するか」
ハンマーを構える。
それに応じてこちらも剣を構える。
それからの動きはお互いに速かった。
「お前…強いっ」
「お互い様にね」
困ったな、考えてみれば戦う必要もなかったのでは…
「後ろ、もらう!」
「…」
「っ?! お前、見えて」
「勘」
「ふざけてっ」
「いないよ」
雷魔法、弱。
「!!!!」
「あれ、これだと弱すぎか」
思った以上に加減が難しいな。
「姫様! こちらに!」
「問題ない、少しビリっとしただけ。でも困った。思ってた以上に強い」
「そのようですな、やはりいつものように」
「ダメ、ボクだけでやる! ボクだけのものにしたい!!」
「いやいや、わがまま言っている場合ではないですぞ。万が一でも姫が破れるようなことになったら、あちらの姫君の勝利となってしまうのですぞ」
「…それは嫌だ。あいつに負けるのは嫌だ」
「いつものようにわしらも魔法で援護いたします、姫様はその隙をついてくだされ」
「…わかった、いやだけどわかった」
話はついたみたいだ。
周りにいた兵たちの取り囲むような陣形…視線、構え。
まあ、魔法だろうね。
「いきますゾッ!」
「これで終わりにする!」
波状攻撃、四方八方からの炎、氷、水、風…
あらゆる属性の魔法が飛んでくる。
それも姫には当てないよう注意深く、よく連携されている。想像以上に手練れている。
ただ、
「まだまだ」
ひとつひとつの魔法に威力はない。
これなら剣でも捌き切れる。
「剣で魔法をっ?!」
「なんじゃとっ!!」
驚愕を尻目に捌ききる。
姫のハンマーも同じように捌く。
「…想像以上ですじゃ、姫! 威力を上げますぞ!」
「構わない、やって!」
魔力の高まりを感じる。
剣で捌くのは、無理か?
なら。こちらも。
相手の魔法発動直前に。
「少し揺れるよ」
「っ!?」
雷魔法、中。
ードゴォオオオオォオォォォ…ー
地響きと地鳴りが襲う。
「…加減が難しいな」
土埃が舞う中、立っているのは自分と、もう一人。
「お前、何ものなんだ? その力、今までのやつと比べ物にならない、お前は一体」
「っ危ない!」
姫の上空、岩が崩れてきた。
振動で魔法が逸れたのか、流石にまずい。
「!!」
「あ!」
「姫様、今ですじゃ!」
敵に背中を見せるとどうなるか、それはまあ、そうなるよ。
ーコツンー
洗脳ハンマーで頭を叩かれていた。
まあよくあるファンタジーラブコメですね。