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voice  作者: 惣山沙樹
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039 原点

 どこもかしこもクリスマスムードだ。まだ十二月に入っていないというのに。恋人のいる同級生は、プレゼントをどうするか、なんてことを話しており、それが羨ましかった。

 僕が櫻井さんにできるクリスマスプレゼントといえば、オリフェスを成功させることだろう。本当はアクセサリーでも贈りたいけど、僕はただの後輩。重いことはしたくない。

 スタジオ練習を重ね、四曲はかなり仕上がってきた。問題は五曲目だ。櫻井さんの歌詞はまだできていなかった。


「もう! あと一ヶ月切りましたよ!」


 練習の後、ファミレスで大城さんが言った。


「わかっとうって。今までの歌詞みたいに感情に任せて書くわけにはいかんのやって」


 櫻井さんは頭をガシガシとかいた。澄さんが言った。


「困るのは瑠偉くんなんですからね……頼みますよ……」

「わー! わかっとうからぁ!」


 僕も急かしたかったが、ここで追撃するのは良くないだろう。優しく声をかけた。


「じっくり考えてええもん作って下さい。僕は大丈夫ですから」

「瑠偉くぅん……」


 そうは言ったものの、他の四曲も実はたまに間違えていた。オリジナル曲だから、観客にはわからないかもしれないが、僕はきちんと櫻井さんの歌詞を届けたい。大城さんが言った。


「最悪、四曲だけでやりましょうか。時間オーバーするのはダメですけど短くなるんは大丈夫でしょうし」

「いや、絶対に五曲やりたい! 俺頑張るからぁ……」


 櫻井さんを責めてほしくなかった僕は、大城さんに話を振った。


「就活、どんな感じですか?」

「企業研究とか自己分析とかしとうけど、わけわからんくなってきたな。なぁなぁ、瑠偉くんから見てあたしってどんな印象?」

「そうですね……第一印象は強引、でしたけど。きちんと周りのこと見てらっしゃいますし、細かい調整も得意ですし、器用な人でもあるなぁって思ってます」

「わっ……めっちゃ褒められた」


 澄さんが言った。


「器用……? この前のグラタンは何ですか」

「あれでも頑張ったんやって!」

「チーズが皿にこびりついて取るの大変だったんですからね……」


 大城さんは料理下手、と。今度は澄さんに尋ねた。


「澄さんは料理するんですか?」

「多少は……卵かけごはんとか……」

「それ……料理ですか?」

「料理だよ……」


 澄さんも得意ではないようだ。まあ、カップ麺しか作れない僕が言えたことでもないのだが。大城さんが言った。


「最近は瑠偉くん、櫻井さんの手料理ばっかり食べてるみたいやけど?」

「まあ……そうですね。バイトの日以外は」


 櫻井さんのレパートリーは広い。特に和食が得意なようで、前日は肉じゃがをごちそうになっていた。櫻井さんが僕の頬をぷにっとつついた。


「瑠偉くんに作るん楽しいんよなぁ。ペロッと残さず食べてくれるから。まあ、瑠偉くんの好き嫌い把握したんもあるけどな」


 そんな僕たちの様子を見て大城さんはニヤニヤし始めた。


「ほんまに二人、息合ってきましたねぇ。バンドとしては理想的なんでええんですけど」


 澄さんも言った。


「瑠偉くんって……演奏中は櫻井さんばっかり見てるよね……」

「その、心細くなっても櫻井さん見たら安心できるんで」


 櫻井さんが僕の肩に腕を回してきた。


「ほんまぁ? 嬉しいなぁ!」


 大城さんは苦笑いになった。


「ちょっと、こんなとこでいちゃつかんでくれます?」


 それでも櫻井さんは僕にくっついたままだった。その夜は、泊まりに行くことにした。


「瑠偉くん……わかってきた?」

「はい……何となく……」


 僕の身体は櫻井さんの指を受け入れられるようになっていた。会えない日も自分でするようになったし、準備は着々と進んでいた。


「今日はこの辺にしとこか。見せたいもんもあるし」

「へぇ、何ですか?」


 櫻井さんは何冊かノートを取り出してきた。乱雑な字で、読むのに苦労したが、歌詞のようだった。


「高校の時のやつ。ここからあの四曲作ってん」

「へぇ……櫻井さんの原点ですか」

「せやね。見せるん恥ずかしいねんけど、瑠偉くんやったらええかと思って」


 そこには「恋人」の元になったであろうものもあった。


「櫻井さんかてこの頃からタバコ吸うてたんやないですか」

「あっ、バレたか」

「櫻井さんも悪い子ですね」


 入学式の日。喫煙所に立ち寄らなければ、今のような関係にはならなかったかもしれない。


「タバコ以外の恋人は居なかったんですか?」

「うん。当時はそんなん作る気すらなかったわ」


 僕はノートを閉じて櫻井さんの瞳を見つめた。


「もっかい……しましょう。泊まりですし」

「欲しがりやなぁ、もう」


 本当に欲しいのは櫻井さんの気持ちだ。けれど、きっと叶うことはないから。

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