0.黒い喫茶店 開店
注意!
この作品には流血表現が多く含まれます。流血表現やホラーが苦手な方は読むことを控えることをお勧めします。
なんの変哲もない、ただ退屈な一日がまた始まった。
本当に、そう思った。
僕はクズニートのトウマ。二十歳。
今日も、のんびり平凡な、何もしない一日が始まる。
今日は久しぶりに吾妻商店街に来た。
まだ夏本番だというのにも関わらず、暑さに勝とうと足を動かす。
家にいようとしたものの、久しぶりに家に来た双子の妹に「食料補充したらどう?」と家を出さされた。
頭の中は「暑い」の二文字だけ。
「カップ麺は~どこに売っている~」
その二文字をどうにか誤魔化そうと、変な歌を歌って歩いていたところだった。
新しくなった散髪屋と商店街が始まって以来ずっとある花屋の間に真っ黒な店があった。
前からあったっけ?と気になったが、誰もそこには近づこうとしない。
まるで自分にしか見えていないかのように。
ま、少し不気味なオーラを出しているせいだろう。
ちなみに僕の家にはテレビもなければスマホもない。
そのため、こんな店ができたとか、あの店が潰れたとか、そういう些細なことは一切耳に入って来ない。
そしてついに、何かが僕を手繰り寄せる。こっちに来い、と。
「入ってみるか」
ズボンのポケットには全財産が入っている。
お金を言われたらこれで済ませようと思い、黒いドアを開けた。
あぁそうだ。もう一度言おう。
なんの変哲もない、ただ退屈な一日がまた始まった。本当に、そう思った。
店の中はレトロな喫茶店のような綺麗な場所だった。
赤いカウンターテーブルに黒い椅子が十個、赤いテーブルに黒い椅子のテーブル席が二つあった。
壁や天井は黒く、天井から吊り下げられる簡易照明は薄暗く光っていた。
そして店の中の客は案の定、僕一人だけだった。
「いらっしゃいませ」
突然声をかけられ、驚いたその先、カウンターの奥に老人がいた。
黒色のエプロンを身につけ、黒マスクをした銀髪の人だった。
「どうぞおかけください」
どうやら店主のみたいだった。
僕は言われたままにカウンターの黒い椅子に座った。
赤い机は上から赤い絵の具がついた様なシミがついていたが、あまり気にしなかった。
店の中はあまり涼しくはなかった。だからこそ冷たい飲み物がすごく飲みたい。
「お飲み物は何に致しましょう?」
そう、老主が告げる。
僕は『冷たい飲み物』と言おうとした、が。
「おまかせで」
『僕は決めるのも面倒だったから、おまかせでお願いした』
(違う、、!)
「かしこまりました」
(違うんだ!なんで話せない、、)
まるで口枷を付けたように、本音を告げられなくなる。
そう僕じゃない誰かが老主に言うと、老主はカウンターから出ていき、一本の瓶を持ってきた。
「これは、、?」
今度は話せた。
(さっきのはなんだったんだ、、?)
すると老主ニコニコしながら言った。
「赤ワインです」
「ちょちょちょっと待ってください!」
僕は、自分の持っているお金が気になり、尋ねてみた。
「それって何円かかります?」
金銭的余裕はざっと千円。正確に言うと、財布の中は千四百二十円しかない。
なのにこんな高級なもの、、。と考えていたが、老主は静かに言った。
「こちらではお金はいただきませんよ」
「は?」
驚いた拍子に変な声が出てしまった。『代金をとらない』。そんな店、聞いたことも入ったこともなかった。
少しの動揺と不安を抱きながら、目線は老主に向けられた。
「まぁまぁ、この店ではお金はいただきませんので、ご安心を」
「そ、それはどうも、、」
にこやかにこちらを見る目は、少し濁っている気がした。
「でも、六時には閉店なので、それまでにはお帰りください」
「うい」
(六時ね、、六時、、はいはい。)
「では、どうぞ」
そう言うと、老主はワイングラスに入った真っ赤なワインと一冊の本を手渡して来た。
もちろん訳のわからない僕は尋ねる。
「あぁ、申し遅れました。こちら、閉店までに飲み干し、読み切ってください」
「はぁ、え、なんで?」
「代金をいただかない代わりです」
絶対何かある。と思いつつ、さっさと済ませようと軽い返事をする。
「あーね。了解」
「では、ごゆっくりどうぞ」
そう言って、老主はカウンターから姿を消した。
(まぁ、読むか、、)そう思い、表紙を見た。
「なんだこれ?『最期の物語 ~十四もの尊き命~』?」
誰が書いた本なんだ、、?と僕は作者不明の本を見つめる。
(妹は何をしてるんだろう?もう実家に帰ったのか?汚い部屋だ。居心地も悪いはず。でもあの優しい性格だ。洗濯とか、掃除とか少しでもしてくれたり、、ないか。今は十七時。太陽はまだ傾き出したばかりだ。本はあまり読まない。小さい文字は嫌いだ。教科書よりマシなのだったら頑張って読もう。論文だったら老主に相談しよう。よし、読み切って、久しぶりにワイン飲んで帰る!以上!)
そして考えることをやめて、僕は表紙をめくった。
ここからはその本の内容を語っていく。
読み終わったらまた会おう。
感想を語り合えたらいいな、、
次の第1話からは流血表現が含まれます。ご自身の判断で読み進めてください。