同居人
「入れ」
大柄の男に連れられ、自分の部屋に到着した俺は言われた通り中に入る。金属の格子に囲まれた、檻のような部屋だ。中には簡素なベッドが二つ置いてある。
「大人しくしてろよ」
そう言い残して去っていく大柄の男。部屋に残された俺に声がかかる。
「よう、俺は龍之介。お前の同居人だ、よろしくな」
そう話しかけてきたのは二つあるベッドのうちの一つに腰掛けている青年。歳は同じぐらいだろうか、明るい茶色の髪の毛に整った目鼻立ち。目を惹くのは、日本人のような名前に反した青く透き通った目だろう。
「俺は弥太郎だ。なんだお前、異人か?」
「母が外国人でね」
そう聞かれて、首をすくめながら答えてる龍之介。
「しかし、久しぶりの新入りだな。この部屋は俺一人で寂しかったんだよ。ところでお前は…何やったんだ?」
人懐っこい笑みを浮かべながら話しかけてくる同居人、しかし最後の問いの瞬間、空気が引き締まるのを感じる。ここは懲役100年以上の囚人を集めた浅草監獄、目の前の男も例外ではない。
「まあ、偽札造りってとこだ」
「へぇ、偽札かあ。ずいぶんとめずらしいな。それでここにくるってことは相当いろいろやったんだろうね」
眼を細めながらこちらを眺めてくる龍之介。色々と考えているのだろう。
「そっちはどうなんだ、ここにいるってことはお前も何かしらやったんだろう」
「いやぁ、僕はみんなで集まって話をしていただけなんだけどね。運悪く捕まってしまって気づいたらここだよ」
バツが悪そうな顔で頭を掻いている男からさっきの緊張感は感じなかった。ただ世間話をしていただけでここにいるはずはないのだが、全て言うつもりはないのだろう。いずれわかるだろうと納得し、気になっていたことを聞く。
「それで龍之介、同室の先輩に質問なんだがこの施設は一体なんなんだ?」
「先輩か、いい響きだね。僕が知ってることでよかったら教えるよ」
嬉しそうに笑みを浮かべながらそういう龍之介が続ける。
「君も烏丸さんとは話しただろう?」
「ああ、さっき一応の説明は受けた」
「それならある程度わかっていると思うけれど、ここは浅草監獄という特別な刑務所だ。一般に公開されている刑務所とは別に、懲役100年以上の囚人を集めた特別な刑務所、『A級監獄』と呼ばれる刑務所が日本各地にある。浅草監獄はその一つだ」
「へえ、日本中にこんなものがあったのか」
「まあ悪いやつなんてごまんといるからね」
「そしてこの浅草監獄をとりまとめているのが、さっき弥太郎が話した烏丸さんだ。聞くところによると軍部の中でもかなり上の役職についているらしい。」
「あの優男、あんな雰囲気でかなりのやり手なのかよ」
「まあね、腐っても懲役三桁の囚人をまとめているんだ。一癖も二癖もある人物だよ。そして今この浅草監獄には五人の囚人がいる。もちろん一人は僕で、もう一人は君だよ」
「へえ、あと三人しかいないのか。少ないな」
「まあ、あんまり多くても管理できないしね」
「残りの奴らはどんなやつなんだ?」
そう聞くと龍之介は少し考えた後、笑いながら言った。
「それは後のお楽しみだよ」
こうして浅草監獄一日目は終わった。