学園のカリキュラム 1.別々の授業1
学園には個々人のカリキュラムがあり、生徒たちはそれに合わせて授業を受けている。
必修科目、複数の教科の中から選んで受ける選択科目(何かしらは選択しなければならない)、生徒や親がこれだけは受けたいという要望を出す希望科目(ある者のみ)の三種類の科目を本人や家から希望を聞き、学園がカリキュラムを組む。
それは出会いを推進させるための措置であり、必要な知識や技能を確実に身につけさせるための手段であった。
好き勝手に授業を取っていれば、下手したら異性との関わりが少なかったり、知識や技能の偏重をもたらすことになりかねない。
それでは学園としても困るのだ。
だが何事にも例外というものは存在する。
アナスタシアとロンバルトはマティスのお目付け役でもあるので、どちらかは必ずマティスと一緒で、大抵は三人一緒だ。
誰かにとって必要のない授業や興味のない授業でもだ。
令嬢のみ、令息のみの授業も多少はあり、その時はもちろんアナスタシアはマティスたちとは別行動になる。
そんな時ヴィクトリアと一緒ならまだいいが、ヴィクトリアがいないとアナスタシアはぼっちになる。
友達がほとんどいないからだ。
別に人見知りというわけではないのだが、友達作りはうまくいかない。
そもそも遠巻きにされて話しかけることもできない。
だから普通に話しかけてくれるメイナー伯爵令嬢は実は貴重な存在だった。
アナスタシアが一人の時は悪態をつきながらも隣に座ってくれたりする。
一応感謝はしている。
本人に受け取るつもりはなさそうだが。
今はその少ないマティスと一緒ではない科目だ。
内容は刺繍。さすがに基本的には令嬢しか受けない授業だ。
この授業はヴィクトリアと一緒だった。
実はメイナー伯爵令嬢も一緒だ。
席に着きながらアナスタシアとヴィクトリアは挨拶を交わす。
「おはよう、アナ」
「おはよう、ヴィー」
「おはようございます、クーパー様、モワ様」
「おはようございます、メイナー様」
「……おはようございます、メイナー様」
にこやかに挨拶を返すヴィクトリアに続いてアナスタシアも挨拶を返す。
「今日は何を刺繍するのでしょうね?」
そう言いながらメイナー伯爵令嬢は同じテーブルについた。
「そろそろ大きな作品を作ったりするかもしれませんね」
ヴィクトリアはにこやかにメイナー伯爵令嬢と言葉を交わす。
「ああ、確かにそろそろ大きな作品を作ってもおかしくはありませんね。先輩方の話では例年今頃は大きな作品を作っていたそうですから」
どうやらメイナー伯爵令嬢の人脈は広いようだ。
しっかりと先輩方から情報をもらってきている。
「まあ、そうなんですね」
「そのうち合作なんてこともするようですわ」
「まあ。その時は一緒にやりましょうね、アナ」
「うん」
「わたくしも是非」
メイナー伯爵令嬢まで何故か名乗り出てくる。
「ええっと、メイナー様は別に私たちとではなくてもいいのではないですか?」
「あら、クーパー様はわたくしと一緒ではお嫌ですか?」
「いえ、そういうわけではなくて、とてもお上手なので同じレベルの方たちと組んだほうがいいんじゃないんですか?」
アナスタシアとヴィクトリアはあくまでも人並みな刺繍のレベルだ。
それに比べメイナー伯爵令嬢はかなりの腕前だ。
神様はどれだけのものを彼女に与えるのだろうか。
もちろん、彼女自身の努力の結果でもあるのだろう。
「わ、わたくしは、そ、それほど上手いわけではありませんわ」
何故か動揺している。
「え、上手いですよ。ね、ヴィー?」
ヴィクトリアは何故か苦笑して頷く。
「ええ、お上手だと思いますよ。私たち爪の垢を煎じて飲みたいくらいですわ」
「こ、これくらい貴女たちだって練習をすればできるようになりますわ」
つんとそっぽを向いてメイナー伯爵令嬢は言った。その耳が少し赤い。
「私たちも頑張らないとね、アナ」
「そうね。私たちじゃまだメイナー様の努力の足元にも及ばないもの」
ついにぱたりとメイナー伯爵令嬢は机に突っ伏した。
「あ、貴女という人は本当に……!」
メイナー伯爵令嬢の反応がアナスタシアにはさっぱりわからない。
首を傾げるアナスタシアにヴィクトリアは苦笑する。
「ヴィー?」
「そっとしておいてあげましょう」
「う、うん」
メイナー伯爵令嬢の様子を見ながらアナスタシアは頷いた。
結局、メイナー伯爵令嬢は授業が始まるまでそのまま顔を上げなかった。
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