気乗りしないお茶会とマティスの憂鬱1
憂鬱だわ。
鏡に写る自分の姿を見ながらアナスタシアは溜め息を堪えた。
今日は叔母に伴われてお茶会に行くことになっている。
叔母は昨日のうちにドレスやアクセサリーを置いていった。
有無を言わせなかった。
このドレスも髪を飾るリボンやアクセサリーも全て叔母の好みだ。
決してアナスタシアの好みではない。
お茶会といっても小規模なものだ。
叔母の友人が親しい者を招いてのいわば内輪の集まりだという。
そこに社交の練習と顔継ぎのために連れていってくれるとのことだ。
実はその叔母の友人が主催する今回のような集まりには何回か出席している。
別に意地悪されるわけではない。
だけど憂鬱なのだ。
もう一度鏡に写る自分を見る。
フリルやリボンのたくさんついたお茶会用のドレスが大変よく似合っている。
大変遺憾だが本当によく似合っている。
もうそれだけで精神がごりごりと削られる。
このような格好で出掛けるお茶会だ。
どうにも実年齢より下に見られているような気がする。
叔母にアナスタシアの年齢は聞いているはずだろうからさすがにそれはない、と思いたい。
思わず溜め息が漏れた。
そこへ執事長がやってくる。
「お嬢様、ブレル夫人がお越しになりました」
ブレル夫人とは叔母のことだ。父の妹にあたる。
「今行くわ」
「すぐ出るとのことで玄関ホールでお待ちです」
「わかったわ」
アナスタシアもすぐに出掛けられるようにして部屋を出た。
歩む速度が自然と遅くなってしまうのはもう仕方ないだろう。
先導する執事長はアナスタシアの歩調に合わせてくれる。
気持ちを察してくれているのだろう。
それでも玄関ホールに着いてしまう。
アナスタシアの姿を見た叔母ははしゃいだ声を出す。
「まあまあアナ、可愛いじゃないの。私の見立ては正しかったわね」
「ごきげんよう、叔母様」
まずは挨拶だ。
この格好を褒められて正直複雑だ。
「さあ行くわよ、アナ」
にこにこと上機嫌に微笑う叔母はアナスタシアの心情には気づかない。
意気揚々と玄関を出ていく。
アナスタシアは溜め息を堪えて後に続いた。
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