パートナーの申し込み
再び王宮主催の舞踏会の招待状が届いた次の日、マティスがクーパー家を訪ねてきた。
マティスは心底煩わしいという顔で愚痴る。
「何でこんなにすぐに次の参加義務のある夜会があるかな」
「学んだことを忘れないためだな」
兄があっさりと言う。
「……新入生の参加義務さえなければ欠席できるのに」
先日の王宮主催の舞踏会はやはりマティスにとっては負担が大きかったのだろう。
アナスタシアも次の日にはぐったりと疲れていた。
アナスタシアよりも気を張っていたであろうマティスはもっと疲れたはずだ。
兄が慰めるような顔で言う。
「こればかりは諦めろ」
マティスはじとりとした目を兄に向ける。
「……セスランは? またヴィクトリア嬢にパートナーを頼むの?」
「うん? ああ。今日屋敷のほうにパートナーを申し込む旨の手紙を送らせてもらった」
「さすが、行動が早いね」
「こういうものは早いほうがいい」
「確かに」
マティスの視線がアナスタシアに向く。
「アナ、パートナーを頼めるかい?」
「ええ、もちろんよ」
「よかった。ありがとう。となると、またドレスを頼む必要があるんだね」
「いや。マティス、今回は手持ちのドレスで大丈夫だ。アナ、入学するにあたっていくつか作ってあっただろう?」
「ええ。お兄様に話を聞いて侍女たちとドレスを確認したわ」
今回は手持ちのドレスで構わないと聞いていたので相応しいドレスがあるかきちんと確認したのだ。
「そうか。偉いな」
「それくらい当然よ」
少し考える素振りを見せたマティスが「アナ」と呼びかける。
「せめて髪飾りくらいは贈らせて」
アナスタシアは兄のほうを見る。
兄が頷いた。
「まあそのくらいはいいんじゃないか」
「じゃあ今度一緒に買いに行こうか」
「……商会を我が家に呼ぼう」
「そう? じゃあ頼むよ、セスラン」
「ああ。ヴィクトリア嬢が了承してくれたら私も髪飾りくらいは贈りたい」
どうやら兄もパートナーに何か贈りたいと思っていたようだ。
マティスのアナスタシアへの提案はいいきっかけだったようだ。
「ふーん、いいんじゃないかな」
「……言っておくが、」
「言わなくていいよ。わかっているから」
「そ、そうか」
アナスタシアにはさっぱりだが兄とマティスで通じ合っている。
きっと男同士の何かなのだろう。
時々、兄やマティスやロンバルトがやっている。
寂しくないと言ったら嘘になるが、アナスタシアもヴィクトリアと女同士の内緒話はやるのでそれと一緒だろう。
それならば訊くのはよくないということはわかっている。
だから気にしないことにしている。
マティスの視線がアナスタシアに向く。
「だからアナ、着ていくドレスが決まったらどんなドレスか見せてね」
「わかったわ」
なるべく早くドレスを決めよう、とアナスタシアは決意した。
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