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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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お礼のハンカチ

アナスタシアとヴィクトリアは刺した刺繍入りのハンカチを持ち寄り、どれがいいかを散々悩み、最終的に侍女たちまで巻き込んでようやく決めた。

決めてからもヴィクトリアはセスラン様は気に入ってくれるかしら、とそわそわとしていた。

そんなヴィクトリアを侍女たちが微笑ましそうに見ていた。


ヴィクトリアは用事があって出掛けていた兄が帰ってくるのを待って兄にハンカチを渡した。

兄は驚いた様子だったが、照れながら受け取っていた。

その様子を見守る侍女たちはまた微笑ましそうだった。








アナスタシアは学園でマティスに会った時にハンカチを入れた紙袋を差し出した。


「マティス、これをもらってくれないかしら?」

「うん? これは?」

「王宮主催の舞踏会のお礼のハンカチよ。素敵なエスコートをしてくれてありがとう、という気持ちを込めて渡すものだそうよ。マティス、ありがとう」


マティスが嬉しそうに微笑(わら)って受け取ってくれた。


「アナ、ありがとう。見てもいい?」

「ええ、もちろん」


マティスは楽しそうに紙袋からハンカチを取り出した。


「あ、あのね、そんなにうまくないの。ごめんね」


マティスが期待に目を輝かせているのでアナスタシアは先に白状してしまう。

マティスがふわりと微笑(わら)う。


「僕はアナが僕のために心を込めて刺繍してくれたのが嬉しい」

「ええ、感謝の気持ちはいっぱい込めたわ」

「うん、そっか。感謝、でも嬉しい」


うん?

何か引っ掛かるような言い方をした気がする。


マティスはハンカチを広げた。

ヴィクトリアや侍女たちと悩みに悩んで選んだハンカチは、イニシャルと銀色の毛と紫色の瞳を持つ狼を一角に刺した白地のものだ。

頑張って刺してはみたものの狼の迫力に欠けてしまう。


まじまじとその刺繍を見たマティスはやがて笑み崩れた。


「可愛いね。もしかしてこの狼が僕のイメージかな?」

「ええ。本当はもう少し格好よく刺すはずだったの」


アナスタシアの腕ではこれが限界だった。

マティスの笑みが深くなる。


「もっと格好よく刺してくれるはずだったの?」

「そうなの。でも、どことなく犬みたいでしょう? マティスはよく狼ってわかったわね」


最初に出来上がった時、アナスタシアは犬かも、と思った。

ヴィクトリアや侍女たちはアナスタシアが何の図案を刺していたか知っていたのでそれには触れないでいてくれた。


「うん? 僕には犬には見えなかったよ」

「本当?」

「本当だよ。狼かぁって嬉しくなった」

「そう。よかったわ」


アナスタシアにとってはマティスはやはり犬のイメージなのだが、図案を見た時にマティスっぽいと思って決めたのだ。


「うん。アナ、ありがとう。大事にするね」

「ええ」


マティスが気に入ってくれてよかった。

ほっとしてアナスタシアは微笑んだ。


読んでいただき、ありがとうございました。

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