王宮主催の舞踏会ーー軽い食事
今年もよろしくお願いします。
ダンスフロアから抜けたアナスタシアとロンバルトはマティスを探して移動する。
立ち止まると声をかけられそうだ。
歩きながら視線を走らせマティスを探す。
「アナ、いた」
「どこ?」
「あそこだ」
ロンバルトの視線の先でマティスがこちらに軽く手を上げている。
その様子から困ったことにはなっていないようだとわかってほっとする。
よく見ればマティスの周りはぽっかりと空いていた。
みんながマティスの傍に寄るのを避けたのだろう。
その輪の外側からマティスのほうをちらちら見るご令嬢たちの姿もある。
マティスに誘われたいのか、話してみたいのに近づけないのか。
ただマティスは彼女たちには全く興味はなさそうに見える。
それに何故かほっとする。
ロンバルトの巧みなリードでアナスタシアは声をかけられることなくマティスのもとまで辿り着いた。
「マティス、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
苦笑とともに言葉が返ってくる。
「二人ともダンス良かったよ。息ぴったりだった」
「ありがとう。一緒に踊るの慣れているもの」
むしろ他の人と踊るほうが慣れていない。
この先大丈夫かと、ふと不安になった。
「マティスとも行ってくるか?」
「いや、今は人が多い。もう少し後にしよう」
マティスがダンスホールを見て言う。
アナスタシアもダンスホールのほうを見る。
結構盛況だ。
色とりどりのドレスが翻り、綺麗だ。
「そうみたいだな」
ロンバルトもダンスホールのほうを確認している。
ロンバルトの視線がアナスタシアとマティスに戻る。
「何か食べるか?」
「そうだね。今のうちに食べておいたほうがいいかも。アナはお腹空いてない?」
「そうね。少し摘まみたいわ」
「今ならまだ空いているだろうしな」
「うん。行こう」
三人で食事スペースへと向かう。
同じような考えなのか、食事スペースのほうに向かう者がちらほらと散見する。
これならアナスタシアたちが目立つことはないだろう。
ただ代わりに人の少ない辺りを狙うしかない。
「大丈夫だ、アナ。アナとマティスを壁際に置いて俺が取りに行くこともできる」
「あ、そうね」
ロンバルトに負担はかかるが、そのほうが周りにとってはいいだろう。
「いざとなったら頼むよ、ロン」
「ああ、任せておけ」
「お願いね」
「ああ」
そんなやりとりをしているうちに食事スペースに辿り着く。
食事スペースのところにはちらほらと人がいた。
「どこかの"会"が動いたか?」
「かもね」
「"会"?」
「あー、ほら食事が好きな人の集まりとかがあるだろう、と」
「やっぱりそういう"会"があるのね」
「まあ、"会"には本当にいろんなのがあるからな」
なるほどとアナスタシアは頷く。
やはり探すならそちら方面の"会"がいいだろう。
頭の片隅にメモをし、どんな料理があるのかしら、とわくわくした気持ちでテーブルに視線を走らせた。
さすが王宮の料理だ。どれも美味しそうだ。
アナスタシアの視線がデザートのほうに向くとすかさずロンバルトが言う。
「デザートは後にしろよ」
「わ、わかっているわ」
「後でヴィクトリア嬢と一緒に食べたらどうかな?」
「そうだな。そのほうがいいだろう」
「そうね。そうするわ」
スイーツはヴィクトリアと食べたほうが絶対に美味しい。
「食べたいものを取ってそっちに行こう」
マティスがそっちと壁際に置かれた椅子を示す。
休憩用のそれは場所からして座って食べたい者たち用に用意されたものでもあるだろう。
アナスタシアとロンバルトは頷いた。
各々給仕に頼んで料理を皿に取ってもらい、そちらに移動する。
紳士らしくマティスが皿を持ってくれ、アナスタシアは椅子に座った。
アナスタシアを挟む形でマティスとロンバルトも座る。
「はい、アナ、こぼさないように気をつけて」
「ありがとう」
マティスから皿を受け取る。
早速フォークで皿の上の料理を一口取って食べる。
「美味しい!」
ぱっと笑顔になる。
その声が届いたのか、ちらほらと近くにいた紳士淑女を初め、王宮の使用人までもが微笑ましげな微笑を浮かべる。
マティスとロンバルトは顔を見合わせてやれやれと微笑う。
「マティス? ロン? 美味しいわよ?」
「うん。僕もいただくとするよ」
「俺も」
マティスとロンバルトも皿の料理を食べ始める。
「本当に美味しいね」
「さすが王宮の料理だな」
「そうね」
適度に会話しつつもアナスタシアたちは存外夢中で食べていた。
三人で仲良く食べているのをにこにこと周囲に見守られていることにアナスタシアは気づかなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。




