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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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王宮主催の舞踏会ーー予定外の来訪

家族の居間にあるソファに座っていると執事長が近寄ってきた。


「お嬢様、マティス様がお見えです」

「え?」


アナスタシアは目をぱちくりさせた。


「マティスが?」


マティスとは直接会場で落ち合うことになっていたはずだが何かあったのだろうか?


「はい。玄関ホールでお待ちです」

「わかったわ。ありがとう」


執事長に礼を言って玄関ホールに向かった。






玄関ホールに佇むマティスは落ち着いていて何かあったようには見えない。


今日は駆け寄るわけにはいかない。

楚々として歩み寄る。


「マティス。会場で待ち合わせじゃなかったかしら?」


振り向いたマティスがぽかんと口を開ける。


「マティス?」


首を傾げながら名を呼べば我に返ったようだ。


「ああ、ごめん。アナ、凄い可愛いよ」

「ありがとう。マティスもとても素敵よ。絵本の王子様みたい」


マティスも今日は華やかな夜会服だ。

全体はマティスの瞳の色と同じ紫だ。そこに銀糸で刺繍が入っている。

刺繍の模様はお揃いだ。

カフスボタンはアナスタシアの瞳の色に近いオレンジサファイアが使われているようだ。

タイはアナスタシアのドレスの共布に銀糸で刺繍が施してある。

婚約者ならば共布はタイではなく上着とズボンにしたのに、とクロエが何故か悔しがっていた。


マティスに似合っていて本当に素敵だ。


ふわりとマティスが微笑(わら)う。


「ありがとう」


使用人たちが素早く遠くに下がっていく。

マティスの色気が増大したのだろう。

この辺は手慣れてきた。

マティスがこの家に来るようになったのは、学園に通うために王都に来た今年の春からだったが、クーパー家の使用人たちの順応対力が凄い。


思わず使用人たちの動きを目で追ってしまったアナスタシアはマティスに視線を戻した。

そして改めて訊く。


「それで何かあったの?」

「別に何もないよ。ただ早くアナのドレス姿を見たくなっただけ」

「ん? それだけ?」

「重要なことだよ」


マティスは真面目な顔で言うが、アナスタシアは首を傾げてしまう。

そこへ兄が玄関ホールに現れた。


「アナ、支度は終わったようだな」

「ええ、終わったわ。お兄様、マティスが……」

「ああ、来るとは思っていた」


アナスタシアは目を(またた)いた。


「お兄様、わかっていたの?」

「そんな気がしていただけだ」

「さすがセスラン」

「褒められてもな」

「別に褒めてない」

「そうか」


兄が溜め息混じりに言った。

いつものやりとりだ。


兄がアナスタシアの全身に目をやる。

そして目を細めて微笑んだ。


「アナ、よく似合っている」

「ありがとう。お兄様も素敵だわ」

「ありがとう」


マティスが不思議そうに訊く。


「セスランも見ていなかったの?」

「一応、パートナーのマティスが最初に見るべきかと思って遠慮した」


兄は本当にマティスが来ると思っていたのだろう。


「ありがとう、セスラン」

「いや」


兄は何てことないような様子だ。

身内には優しい兄なのだ。

身内以外にはどういう態度かは知らないが。


「さてここからは別々だからな? アナは私と一緒にヴィクトリア嬢を迎えに行くんだからな?」


兄が念を押す。


「もちろんわかっているよ」


にっこりと微笑(わら)ってマティスは言う。


「でも、馬車まではエスコートさせて?」


それくらいならばいいだろう、とアナスタシアは頷いた。


「馬車の用意はできております」


すかさず執事長が告げる。

兄は溜め息をついた。


「アナ、準備はできているか?」

「ええ、大丈夫よ」


すでに準備を終えて兄を待っていたのだ。


「では行くか」

「ええ」


すっと手が出される。


「お手をどうぞ」

「ありがとう」


澄ました表情を作り、その手に手を乗せる。


その様子を見ていた兄が「まあいいんじゃないか」と評価をくれる。

兄も年長者なので初めて舞踏会に参加するアナスタシアたちに必要なら助言をくれるつもりだったのだろう。

それはマティスもわかったのだろう。


お互いに微笑みを()わして歩き出した。

読んでいただき、ありがとうございました。

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