男同士の会話ーー王宮主催の舞踏会前日
ロンバルトはマティスの屋敷に来ていた。
今日はアナスタシアは来る予定はない。
今頃明日の準備で忙しくしているだろう。
「明日、大丈夫なのか?」
「まあなるようにしかならないかな」
気が重くて仕方ないが、出席義務があるので諦めるしかない。
「俺もなるべく傍にはいてやる」
「有り難いけど、ロンはロンの社交を優先していいから」
「まあ、必要な社交はやるけどな」
「それでいいから」
いくら今回の王宮主催の舞踏会が練習の場としての趣が強いとはいえ、一応社交的なものもある。
ただしマティスには求められていない。
セスランも参加するし、パートナーはマティスなのでアナスタシアも求められることはないだろう。
二人で適当に踊った後は仲良く壁の花になっていても問題はない。
だからそうするつもりだ。
それでも囲まれたら、と思うと気が重くなる。
壁際となると、囲まれたら逆に逃げ場がないということだ。
その辺りも注意して見ておかなければならない。
囲まれる前にアナスタシアを連れて逃げなければならない。
アナスタシアも警戒してはいるだろうが、抜けているところがあるからマティスがしっかりしていないと。
「本当に無理だと思ったら休憩室に行けばいい。最初のうちに顔を出しておけば問題はないだろう」
「そうするよ」
「休憩室ではアナと二人きりにはなるなよ?」
「まあ、なるべくは?」
ロンバルトは呆れたような視線をマティスに向ける。
不可抗力というものはあるので仕方ない。
「……アナの不名誉になることは避けろよ?」
「それはもちろん」
アナスタシアの名誉を傷つけたいわけではない。
だからそこのところの配慮は厳守だ。
「絶対だからな」
念を押されて頷く。
明日のことを考えれば考えるほど気が重くなる。
「はぁ。気が重い」
できれば屋敷に閉じ籠っていたい。
そうすればこんな心配もしなくていいのに。
「こればかりは不参加にはできないからな」
マティスは溜め息をつく。
「アナの正装を見られるのだけを楽しみに乗り切ることにするよ」
マティスにしたらアナスタシアの正装なんてなかなか見られるものではない。
普段公式の場に出ることはほとんどないのだから。
今回はさらにアナスタシアのパートナーだ。
ずっと引っ付いていても誰にも文句は言えない。
セスランだってアナスタシアを守るために文句など言わないだろう。
特に今は幼女趣味がアナスタシアに群がっている状態だ。
パートナーになれなかったから次はダンスを狙ってくるはずだ。
誘われてしまえば断ることは難しい。
だから誘われる前に回避しなければならない。
同じ心配に辿り着いたのだろう、すっとロンバルトが真面目な顔になる。
「アナの傍を離れるなよ?」
「わかっているよ。一秒だって離れるつもりはない」
まだまだ油断はできない。
マティスが傍にいてもダンスに誘ってこようとする連中はいるだろう。
マティスが傍にいてもアナスタシアに告白してくる者もいたのだから。
そう簡単に諦めるはずがない。
マティスが傍にいてもダンスの申し込みに来るだろう。
できるだけ阻むつもりではあるがどれだけ阻めるか。
アナスタシアにもほいほいダンスを受けてはならないと釘を刺しておかないと。
ならいっそのこと動き回っていたほうが安全だろうか?
それは様子を見ながら決めたほうがいいか。
マティスも舞踏会への参加は初めてだ。
基本的によほどのものでなければ欠席できるので、舞踏会会場がどうなっているのかも想像できない。
行ってみないとわからないのだ。
不安ではあるが行かないという選択肢が取れない以上は腹を括るしかない。
「……まあ、離れる時は誰かにアナを預けろよ?」
「うん」
離れるつもりはないが、離れざる事態というのはあるだろう。
その場合はセスランかヴィクトリアかロンバルトか、ああメイナー伯爵令嬢も大丈夫か。
ずっと領地で過ごしており、出かける先はだいたいマティスのところだったアナスタシアには信頼できる顔見知りは少ない。
だからアナスタシアはもっと友人が欲しいと言うのだろう。
だけどもう充分なのではないかと思う。
マティスなんてもっと少ない。
アナスタシアとロンバルトとセスランだけだ。
マティスにとってはそれで充分だ。
「どうかしたか?」
「んー? 別に。ちょっと明日のことを考えていた」
「あんまり考えすぎるなよ」
「うん」
なるようにしかならない。
マティスは腹を括って明日に臨むことに決めた。
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