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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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お礼のハンカチと乙女の悩み

「ヴィー、そろそろ休憩しない?」


区切りをつけたアナスタシアはヴィクトリアの区切りがよさそうな辺りで声をかける。

今日はヴィクトリアとお礼のハンカチの刺繍をしているのだ。


二人とも何枚か刺して出来のいいものを贈る予定だ。

メイナー伯爵令嬢のように得手(えて)であれば一枚刺せば十分だろうが、人並みの腕しかないアナスタシアやヴィクトリアでは何枚か刺して出来のいいものを渡すほうが安全だ。


「ちょっと待って。あと数針刺せば区切りがいいわ」

「わかったわ」


その間にアナスタシアは侍女にお茶の用意を頼む。

少ししてヴィクトリアは針を置いた。


「お待たせ、アナ」

「大丈夫よ。お茶にしましょう」

「ええ」


二人でテーブルの上を片づけると侍女がお茶の支度を調えてくれる。

お茶を飲んでほっと息をつく。


「ヴィー、刺繍はどんな感じ?」

「まだ納得いくものが出来てはいないわ。アナは?」

「私も。人に贈るものってやっぱり緊張するわね。それに何枚刺しても納得できないわ」

「わかるわ。私もこんなもの渡せないって思ってしまうもの」


二人でうんうん頷く。

それを侍女たちが微笑ましそうに見ている。

真剣な二人はまるで気づいていないが。

いいことを思いついたとばかりにヴィクトリアが目を輝かせてアナスタシアに提案する。


「ねぇアナ、渡す前に刺したハンカチを持ち寄ってどれがいいか二人で検討しない?」

「ヴィー! それはいい考えね!」


自分では決めあぐねても、二人で相談すれば一番いいものを選べるに違いない。


「なら決まりね」

「ええ。ヴィーが一緒に選んでくれるなら心強いわ」

「私もよ。アナが一緒に選んでくれればセスラン様が気に入ってくださるものをきっと選べるはずだわ」

「私、頑張るわね」

「ええ、頼りにしているわ。もちろん、私も頑張るわ」

「ええ」


一口お茶を飲んでお菓子に手を伸ばす。

今日のクッキーは口の中でほろほろと崩れるタイプのクッキーだ。

美味しさに笑み崩れる。

ヴィクトリアも同じようにお茶を飲み、クッキーを食べる。


「あら、口の中で消えたわ。美味しいわね」

「ヴィー、気に入った?」

「ええ」

「よかった」


難点は崩れやすいところで、それが懸念点だったが問題なかったようだ。

しばしお茶とお菓子を堪能する。


「王宮主催の舞踏会までもう少しね」


ふと思い出したようにヴィクトリアが言った。


「そうね。ドレスは届いた?」

「ええ、先日届いたわ」

「どうだった?」


ヴィクトリアがふわりと微笑(わら)う。


「とても素敵なものが出来上がったわ。ふふ、あのドレスを身につけたらセスラン様の隣にいても見劣りしないと思うわ」

「ヴィーは普段から素敵よ?」

「ふふ、ありがとう」


ヴィクトリアは嬉しそうに微笑んだが、ふっとその瞳に憂いが浮かぶ。


「でも、セスラン様は年上の立派な成人男性でしょう? だから少しでも釣り合うようでありたいのよ」


アナスタシアから見ればヴィクトリアは大人びている。

だが年齢差はどうにもならない。

セスランとは七歳離れているのだ。


貴族なら珍しい年齢差ではないが、今の年代だと子供と大人の差くらいには感じられる年齢差ではある。

いくらデビュタントを済ませているとはいえ、ヴィクトリアは入学したての一年生、兄は卒業して働いている立派な大人だ。


ヴィクトリアが気負うのも理解できる。

アナスタシアは背伸びしなくても十分魅力的だと思うのだが。


「そうなのね」

「アナのパートナーはマティス様だからあまり実感はわかないのかもしれないわね」


確かにマティスのほうが年上だが一歳しか違わない。普段はそんな年齢差すら忘れている。


「そうかもしれないわね。私はマティスとの間に年齢差なんて感じたことはないもの」


幼馴染みでずっと一緒に成長してきたというのもあるのだろう。

ヴィクトリアが兄のセスランに会ったのは学園に入学する少し前だ。

ヴィクトリアからしたら大人の男性に見えたのかもしれない。


よく考えればアナスタシアからしても兄の友人は"大人"だ。

並ぶこともないが、あの方々の隣に並ぶことになったら、やはり外見を含めた年齢差を気にするかもしれない。


「貴族なんて年齢差があることも珍しくはないけど、やっぱり釣り合いたいとは思うじゃない?」

「そうね」

「でもあの衣装なら大丈夫な気がするの」


きゅっと拳を握ってヴィクトリアが力強く言う。


「そうなのね。あのデザイン、とても素敵だったもの。きっと大丈夫よ。私もヴィーがあのドレスを着ている姿を見るのを楽しみにしているわね」

「ありがとう。私もアナのドレス姿が楽しみだわ。結局どういうものにしたのか知らないもの」


アナスタシアはちょっとだけ考えて悪戯っぽく微笑(わら)う。


「なら当日を楽しみにしていて。マティスと合わせた衣装がとても素敵なの」

「まあ! では楽しみにしているわね」


二人でくすくすと微笑(わら)い合う。

そうやって楽しい時間は過ぎていった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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