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自己紹介がてらの小話 3.ロンバルト

アナスタシアはマティスとロンバルトと一緒に学園の図書室に来ていた。

図書()と言ってはいるが、実際は校舎とは別に一棟まるまる建っている。


ロンバルトもマティス同様一歳年上だ。

だけど二人とも一年遅れでアナスタシアと一緒に学園に入学した。


学園は基本的に十三歳になる年に入学し、十七歳になる年に(何事もなければ)卒業することになっている。

だがそこには例外もある。

怪我や病気など理由があれば入学の時期を後ろにずらすことは可能だ。前にずらすことはない。


それは学園通いがお見合い的な側面も持っているためだ。

昔は年の差夫婦も多かったが、昨今はなるべく歳が近い者同士で結婚させるのが主流となっているのだ。


話が少しずれたが、マティスとロンバルトもこの例外が適用されたのだ。

アナスタシアと入学を合わせるために。


アナスタシアとロンバルトにはマティスのサポートが期待されているのだ。何も言われてはいないがそうなのだと思う。

授業面での融通が暗にそれを示していた。


何かを組んでやらなければならない時ーーお見合い的側面もあるので二人一組、四人一組とか組ませてやることは意外と多いーーはまず間違いなくアナスタシアかロンバルトがマティスと組む。二人一組でも例外的に三人にされることすらある。ちなみに四人一組の時はヴィクトリアが入ってくれる。


一番はやはりダンスの授業はアナスタシアはマティスとパートナーだ。他の皆は曲ごとにパートナーを変えているが、アナスタシアはずっとマティスとだ。最後の一曲だけは他の誰かとも踊っておくべきという名目でーーマティスと踊りたい令嬢たちの直談判があったそうだーー別の人と踊ることになるのだが。


今回もまさに、二人一組で課題が出され、アナスタシアたちは三人で一つの組にされた。

その課題のために三人で図書室に来ているのだ。


周りには同じように課題を出された面々がお互いのパートナーと協力して課題にあたっている。


「この本は違ったみたい。返して違う本を取ってくるね」

「わかった。もし本が取れなかったら呼んで」

「ええ」


小柄なアナスタシアでは上のほうの本は手が届かない。

一応そのための踏み台もあるのだが、基本令嬢は使わない代物(しろもの)だ。


ただ、アナスタシアは他の令嬢たちに比べても小柄なので、自分で手に取れる棚が一般的な他の令嬢より一段低いのだ。

他の令嬢たちが自分の届かない棚の本を手を伸ばして取っているのを見ると、低い踏み台くらいには乗って自分で取ってもいいのではないかという誘惑に駆られることもあるのは事実だ。


マティスに知られれば笑顔で圧力をかけられるだろう。

ロンバルトはいいんじゃないかと言うだけだろうが。


アナスタシアは本を持って席を立った。




よいしょと背伸びをして本を取ろうとしていると、後ろからひょいっと取られる。

慌てて振り向くとそこにいたのはロンバルトだ。


「マティスがいたら危ないって注意されていたな」

「私にだって届くかと思ったんだけど」


ロンバルトは無言でアナスタシアを見下ろす。

言葉にしないだけで無理に決まっているだろう、とその表情が語っていた。


「ちょっと挑戦してみただけよ」

「そうか」


そういうことにしておいてくれるようだ。

ほら、と渡された本を素直に受け取る。


「ありがとう」


よく見るとロンバルトの手にも本がある。


「ロンは本は見つかった?」


ひらひらと手に持った本を振るところから見ても本を見つけた後だったようだ。


「戻りましょう」

あまりマティスを一人にしておくのも心配だ。

図書館だから、とは安心できないのだ。

頷いたロンバルトとともにマティスのいる三人で使っている机へと急いだ。



が。



少し離れた場所で二人して思わず足を止める。

そこに広がる光景を眺めてしまう。


顔を伏せ気味にして本を読むマティスがいる。

周りではやはり、色気が……とよろよろとしている令嬢や令息たちがころごろといた。

だが二人が目を留めたのはそんな光景ではもちろんない。


アナスタシアとロンバルトはこそこそと話す。


「色気うんぬんはわからないが、絵にはなるな」

「うん。色気はわからないけど、光が降ってきて一幅(いっぷく)の絵みたいね」


色気でみんなきちんとマティスの顔を認識できていないのだろうが、実はけっこう綺麗な顔をしているのだ。

みんな損をしているような気もするが、知られなくていいとも思ってしまう。

知っているのはアナスタシアたち色気に惑わされない者の特権だ。


何となく二人でそのまましばらく眺めてしまう。

じっと見ていたからだろうか、マティスが不意に本から顔を上げて二人を見た。


アナスタシアとロンバルトは素知らぬふりでマティスのもとに戻る。


「二人とも本は見つかった?」

「ええ」

「ああ」

「それで、すぐに戻ってこなかった理由はなんだい?」


どうやらしばらくあそこで立っていたのには気づいていたようだ。

アナスタシアはロンバルトと顔を見合わせた。


「少し話をしていただけよ」

「ああ。お前が集中していたから邪魔にならないところで話していただけだ」


二人でしれっと言う。


「気にしなくていいのに」

「何を言う。お前がしっかりレポートをまとめてくれないと困る」

「ええ。邪魔をするわけにはいかないわ」


別にマティスに全て任せているわけでも、マティス一人が優秀だったり遅れているわけでもない。


「それは二人にも言えることなんだけど」


ただ単に三人でレポートを仕上げられなければ教師に提出できないだけだ。

通常二人一組のところを三人でやっているため、課題も他に比べれば面倒くさいものになっている。


「俺たちは少し息抜きしていただけだ」


ロンバルトがしれっと言うのにアナスタシアも頷く。


「息抜きって、まだそんなに進んでないのに」

「どうせ近くに陣取っているのは大して進んでないんだろうから、多少息抜きしていても問題ないだろう」

「それなら僕も交ぜてほしいな」


マティスはその特殊体質のせいで孤独には慣れているが、実は寂しがり屋なのだ。

アナスタシアの目には寂しげに耳を伏せている犬のようにしか見えないのだが、周囲には違うようで。


「ああ、色気が……!」

「その目を伏せるのはまずい……」

「ああ、わたくしがその憂いを取り去って差し上げたい」

「色気が凄すぎて、くらくらする……」


阿鼻叫喚の様相を(てい)していた。


「……一旦休憩にするか」

「……そうね。マティス、場所を替えましょうか」

「……うん」


一度荷物をまとめ、しっかりと本も持ち、その場を離れたのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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