庭の散歩
マティスとともに庭をゆっくりと歩く。
もちろん、少し離れた後ろからは侍女がついてきている。
友人同士とはいえ婚約者でもない未婚の男女だ。
その辺りはきちんとしておかなければならない。
「綺麗な庭だね」
マティスの言葉にアナスタシアは小さく首を傾げた。
「あら? マティスはうちの庭を歩いたことがなかったかしら?」
「こうやってゆっくり見たことはないよ。僕が王都に来たのは学園に入学する直前だからね」
「ああ、そうだったわね。ごめんなさい」
「うん? アナが謝ることは何もないよ」
「でも……」
「本当に気にしないで。それよりアナのお薦めは? どこが自慢?」
マティスに気を遣わせてしまった。
これ以上気を遣わせるわけにはいかない。
「こっちよ」
アナスタシアは一番お気に入りの場所に案内することにする。
行くまでも庭の説明をしながら歩いた。
マティスは穏やかに微笑んでアナスタシアの説明を聞いていた。
時折、マティスが足を止めて花を眺めていたので、アナスタシアも隣で一緒に花を眺めた。
そうやってのんびりと歩を進めて辿り着いたのは日当たり抜群の一角だ。
「ここが私が一番気に入っている場所よ」
どうかしら? と少し首を傾げて微笑う。
ここはアナスタシアのお気に入りであると同時に自慢の場所だ。
四季折々に花が咲くように植える花や樹を選んでいる。
残念ながら今は晩春で花が少し少ない。
マティスがゆっくりと視線を巡らせる。
「うん、綺麗だ。僕もここは好きだな」
マティスの言葉に思わず笑顔になる。
「ありがとう、マティス。嬉しいわ」
それから少しだけ胸を張る。
「王都邸の庭は私に任されているの。もちろん世話をしてくれるのは庭師だけど。彼らと話し合ってどんな庭にするか決めているのよ」
「アナ自慢の庭だね」
「ええ!」
「僕は好きだな。まるでアナみたいだ」
「私?」
アナスタシアはきょとんとする。
「明るくて優しくて、見ているだけで癒される」
マティスは目を細めて微笑っている。
「私、そんなに立派な人間じゃないわよ?」
「立派とか立派じゃないとかじゃくて、僕にとってのアナがそういう存在ってこと」
そんなことを真っ正面から言われてしまうと照れてしまう。
「あ、ありがとう。そう思ってくれているなら、嬉しいわ」
マティスの笑みが深くなる。
それからまた庭のほうに視線を向けた。
アナスタシアも同じように植えられた花々に目をやる。
しばらくそのまま二人で並んで庭を眺めていた。
しばらくそうして穏やかな時間を過ごしていると、すっと侍女が一人近寄ってきてアナスタシアに耳打ちする。
「四阿のほうにお茶の用意ができてございます」
アナスタシアは小さく頷いた。
「わかったわ。ありがとう」
来た時よりも足早に侍女は下がっていく。
「マティス、喉が渇かない? 四阿のほうにお茶の準備をしてくれたみたいなの。どう?」
「いただこうかな」
「わかったわ。行きましょう?」
「うん」
二人並んで歩き出した。
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