マティスの仕立て事情
部屋に入ってすぐのところで立ち止まったマティスはクロエと助手たちの様子を見てから足早にアナスタシアの元に来た。
「ちょうどいいわね。お兄様たちの打ち合わせがちょうど終わったところよ」
「ああ、じゃあ本当にいいタイミングだったね」
「そうね」
ざっと周りを見回してマティスはアナスタシアの隣に座った。
話し合いながらデザインを決めていくならこの席が妥当だろう。
兄とヴィクトリアは同じソファの隣同士ではなく角を挟んで隣同士に座っている。
こちらは友人より少し離れた関係だからだ。
友人同士ならこういう時は隣同士に座っていても問題はない、はずだ。
マティスがクロエに視線を向ける。
「申し遅れました、この度服を仕立てさせていただきます、クロエ・オームルスと申します。以後お見知り置きくださいませ」
「マティス・バレリ。今回はよろしくね」
素っ気なくマティスは言う。
心許していない他人にはこんなものだ。
「はい、精一杯努めさせていただきます。ええっと、まず、採寸させていただいても?」
怖々と覚悟を決めた顔で店主がマティスに声をかける。
だがマティスは首を振る。
「僕のサイズを測る必要はないよ。書いてきた」
「え、マティス、どうやって測ったの?」
「ロンに頼んだ」
確かにロンバルトならマティスの色気は感じないだろうが、素人が測ったもので大丈夫なのだろうか?
その疑問がたぶん顔に出ていたのだろう、マティスが重ねて言う。
「いつもこういう時は頼んでいるんだ」
「そうだったのね」
「うん。だからこのサイズで頼みたい」
マティスの差し出したメモは兄経由でクロエの元に渡る。
クロエがメモを確認する。
「確かに必要なデータはあるようです」
「だからそれで頼むね」
「承知しました。ただ出来上がりましたら微調整はさせてくださいませ」
「うん」
メモに落としっぱなしだったクロエの視線がアナスタシアに向く。
「アナスタシア様の採寸は後ほどさせていただくとして、先にデザインを決めてしまいましょう」
「うん」
「ええ」
店主がカタログをマティスに差し出す。
「どのようなものをお考えですか?」
マティスがカタログを受け取って開く。
「女性のドレスを頼むのは初めてだからまずはこれを見させてもらっていいかい?」
「ええ、もちろんです」
「ありがとう。なんなら僕がこのカタログを見ている間にアナの採寸をしてきたらどうかな? みんなで行ってきて構わないよ」
クロエと助手たちは顔を見合わせた。
「それではお言葉に甘えましょう。アナスタシア様、別室で採寸させていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
アナスタシアは立ち上がる。
「じゃあマティス、少し席を外すわね」
「うん」
軽く手を振られたので振り返して、案内役の侍女とクロエと助手たちを連れて部屋を出た。
読んでいただき、ありがとうございました。




