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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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お茶会おまけ

「マティス、こんにちは」

「いらっしゃい、アナ」


マティスが玄関まで出迎えて部屋に案内してくれる。


「よぉ、アナ」

「ロンも来ていたのね」

「ああ」

「一緒に課題をしていたんだ」

「そう」


アナスタシアは一人がけのソファに座った。


「邪魔してしまった?」

「いや、区切りはついた」

「そう。よかった」

「それでアナはどうしたの? 今日は約束してなかったよね?」


一応昨日のうちに連絡はしておいたのだが迷惑だっただろうか?


「ごめんなさい、迷惑だった?」

「まさか。アナならいつだって歓迎だよ」


マティスの大袈裟な物言いにアナスタシアは微笑(わら)う。


「それでどうしたんだ?」


ロンバルトの問いにアナスタシアは持っていた袋を掲げる。


「昨日のお茶会のクッキーを持ってきたの」


だからクッキーを出す皿も用意してもらったのだ。


「お前、またこっそり持ち帰ってきたのか?」


ロンバルトが呆れたようにアナスタシアを見る。


「違うわ。昨日のお茶会ではお土産に、ってみんなに配られたのよ」


マティスとロンバルトが素早く視線を交わした。

それには気づかずにアナスタシアはクッキーを盛り終え微笑(わら)う。


「美味しかったのよ。二人ともどうぞ?」


ようやく念願のマティスにお茶会のお菓子をお裾分けができてアナスタシアはにこにこ顔だ。


「うん、ありがとう」

「遠慮なく」


マティスとロンバルトがクッキーに手を伸ばす。

アナスタシアは食べるのを我慢して二人がクッキーを食べるのを見守る。


「うん、美味しいね」

「そうだな。悪くない」


ロンバルトの悪くないはそこそこいい、だ。

女性の口に合うように作られたクッキーは彼の舌には甘いのかもしれない。

だがもういらないとは言わないからそれなりには気に入ったのだろう。

マティスは気に入ったようだし、それならいいかとアナスタシアは結論を出す。


それから自分もクッキーを齧る。

うん、やっぱり美味しい。

アナスタシアの頬が緩む。


「昨日はどんな茶会だったんだ?」


クッキーを()まみつつロンバルトが訊いた。


「侯爵夫人のお茶会。女性ばかりだったけど、けっこう人がいたわ」

「それで?」

「え、普通のお茶会よ」

「具体的には?」

「え? 女性ばかりのお茶会の様子が知りたいの?」


こういうことはあまり男性には興味ないことだと思っていた。


「僕は知りたいかな」

「俺も今回のは知りたいぞ」


ロンバルトまで興味を引く何かがあっただろうか?

心当たりがない。


「何か興味を引くことがあったかしら?」


ロンバルトはクッキーを()まみ上げる。


「こうやってお菓子が全員にお土産として配られるとはあまり聞かないからな」

「それはそうね」


お土産として配られていれば幼い頃にこっそりと持ち帰ったりはしなくて済んだのだから。


秘密の話はもちろん話さないのが礼儀だがそれ以外なら情報として話すことは普通にみんながやっていることだ。

アナスタシアはかいつまんでお茶会の様子を話した。


「みんなマティスと話してみたいって」

「そうかな。みんなさほど僕には興味ないよ」


興味なさそうにマティスが言う。


「そんなことないわ。だって言っていたもの」

「アナ、具体的にはどんなふうに言っていたんだ?」


アナスタシアは思い出し思い出し告げる。


「色気に当てられてしまうけれど、一度くらいゆっくり話してみたいって」

「それで?」

「それで?」


アナスタシアは首を傾げる。


「続きがあるんじゃないか?」


ロンバルトに訊かれて思わずちらりとマティスを見る。

ん? とマティスが首を傾げる。


「えっと……」

「別に僕は何を言われても傷つかないよ」

「アナ、言ってしまえ」


ロンバルトまで言う。

二人ともアナスタシアが話すまで退く気はなさそうだ。

まあここにはロンバルトもいるしマティスが落ち込んだら二人で慰めればいいかとアナスタシアは話すことを決める。


「えっと、どんな人か知りたいって。でも、恋愛的な意味ではないって言っていたわ」


何故それを安心してという顔で言われたのか、アナスタシアにはいまだにわからない。

だがマティスもロンバルトも納得したように頷いている。


そっとマティスの表情を観察する。

別段傷ついた様子もない。

本当に傷ついていないのかしら?

アナスタシアの視線にマティスが気づいた。

マティスは微笑(わら)う。


「別に何とも思ってないよ」

「え、本当に?」

「本当だよ」


じっと見てみるが本当に気にしている様子はない。

あら?

アナスタシアは首を傾げる。

マティスは何てことないように言う。


「色気がなければ逆に僕には興味を持たないよ」

「そんなことないわよ」

「僕にはアナとロンがいればいいよ。あとセスランも」


マティスの人間関係は極端に狭い。

そうでなければ自分を守れないのだから仕方ない面はある。

だけどーー


思いかけて、やめる。

それは踏み込み過ぎだ。

仲のいい幼馴染みの友人でしかないアナスタシアにはそれ以上踏み込む権利はない。


「まあ、それでいいんじゃないか」


ロンバルトがあっさりと賛成する。

ええーっと驚きアナスタシアは思わずロンバルトを見た。


「いいじゃないか。ちゃんと信頼できる奴がいるんだぞ? それ以上何を求めるんだ?」


ロンバルトの言葉にマティスも頷く。


「うん、僕には十分だよ。だってもしかしたら一人の友人もできない人生だったかもしれないんだから」

「それはそうかもしれないけど……」

「アナ、いいんだよ。余計な人間はいらない。疲れるだけだから」


その言葉にはっとする。

他人がいればマティスは常に警戒して緊張を()いられる。

それは、とても疲れることだろう。


「ごめんなさい、マティス。考えなしだったわ」

「いや、大丈夫だよ」


マティスは笑って許してくれたが、気をつけよう。

あまり踏み込んでもいけない。

間違っても、婚約者探しはどうするの、だなんて訊いてはいけない。


それを訊かずに済むと思うと何故かアナスタシアはほっとした。

本当に何故かはわからないけれど。

読んでいただき、ありがとうございました。

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