お茶会と令嬢たちの興味
席が動き、今アナスタシアは同年代の令嬢たちと座っている。
「もうパートナーの方は決まりました?」
「ええ、決まりましたわ」
「私はまだなんです」
話題は先日招待状の届いた王宮主催の舞踏会のことだ。
やはり今一番気になる話題となるとこれになる。
今はアナスタシアと同年代の令嬢たちしかこのテーブルにはいない。
当然ながらその話題で持ちきりになる。
パートナーが決まっていたりまだだったり、と人それぞれのようだ。
「クーパー様はいかがです?」
「あ、私は決まっています」
兄の苦労を見てきただけにマティスには感謝している。
「やはりバレリ様ですか?」
「ええ」
やはり、というからには世間的にもマティスのパートナーはアナスタシアで決まっている、と思われているのだろう。
これはマティスの婚活を邪魔していることになるの、かしら?
世間的にはマティスにはアナスタシアがいる、という認識になるのだろうか?
それとも、ただ一緒にいても大丈夫な幼馴染み、という認識だろうか?
マティスがアナスタシアをパートナーにしたのは、自分の色気を感じないからだろう。
きっとそれだけだ。
あれだけすぐに申し込みに来たのも、アナスタシアに他にパートナーができたら困るからだ。
心配しなくてもアナスタシアにパートナーを申し込むような相手は他にいない。
少しだけ、気分が沈む。
それでも表面上は和やかな笑みを浮かべている。
アナスタシアだって淑女教育を受けているのだ。それくらいはできる。
一人の令嬢がおずおずとした様子で訊いた。
「あの、クーパー様は本当にバレリ様の色気にくらっと来ないのですか?」
同じテーブルについているご令嬢たちの視線が一斉に集まる。
アナスタシアは穏やかに微笑う。
「ええ、私にはその色気というものがわからないんです」
「まあ!」
「本当ですの?」
「はい」
令嬢たちが「まあ」と声を上げる。
「ほんの少しも感じられないのですか?」
「ええ」
頷けば驚かれる。
本当にそんなことが可能なのかと疑われているのかもしれない。
だが本当のことだ。
何の証明もできないけれど。
恐る恐るといった様子でさらに問いが重ねられる。
「ダラス様も?」
「そう聞いています」
ロンバルトが実際どのように感じているのか、感じていないのかはアナスタシアにもわからない。
ただアナスタシアにしろロンバルトにしろ、マティスの傍にいても平気だということは共通している。
だからこそ二人ともマティスの友人として一緒にいられるのだ。
ほぅっと頬に手を当て皆が溜め息をつく。
「どうしてもバレリ様の色気に当てられてしまって……」
「わたくしもです」
「一度くらいゆっくりとお話してみたいのですが」
「ええ、本当に」
やっぱりマティスと話したい人はたくさんいるんだ。
あの色気さえ克服してしまえば、マティスと気軽に話せる人が増えればきっとマティスの周りには人が集まる。
何故か少し、そうほんの少し胸がもやもやする。
気づけばうつむいているアナスタシアに周りの令嬢たちは案じるような視線を向ける。
「ですが、ええ、もちろんバレリ様と恋仲になりたいなどとは思っておりません」
アナスタシアは顔を上げた。
ん? とアナスタシアは首を傾げる。
「わたくしもですわ。少しお話してみたいだけですの」
んん?
「ええ、ええ、どんな方か知りたいだけですわ。もちろん、恋愛的な意味ではございません」
んんん?
アナスタシアの頭の中には疑問符が乱れ飛んだ。
周りのご令嬢方はだから安心なさって、とばかりの笑みを浮かべている。
みんなマティスと話したいと言っていたのにこれはどういうことだろう?
アナスタシアが首を傾げてもふふ、と微笑うばかり。
誰もアナスタシアの疑問に答えてくれそうになかった。
意地悪、ではないとは思う。
悪意は感じられない。
たぶん。
だけどこの状況は何なのだろう?
マティスと話してみたいと言うがそこに恋愛感情はないという。
それをわざわざアナスタシアに伝えている。
マティスには興味があるが、恋愛関係はちょっと御免、ということだろうか?
わからない。
本当にこういうことは苦手だ。
誰かきっぱりはっきりと教えてくれないだろうか?
だけど誰もアナスタシアの気持ちを汲んで教えてくれることはない。
「そ、そうなんですね」
にっこりとアナスタシアも微笑み返した。
「ええ」
「大丈夫ですからね」
「心配なさらないでくださいね」
にっこりにっこり。
他意はありません、という笑顔だ。
「はい」
アナスタシアは辛うじて頷いた。
やっぱりアナスタシアはご令嬢方の中ではうまく振る舞えない。
そうひしひしと感じながら。
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