お茶会に向かう馬車の中で
アナスタシアは今、伯母とその娘で従姉のイザベルと馬車に揺られている。
朝方、屋敷に突撃されてそのままスタン侯爵家王都邸に連れていかれた。
今日は付き合いのある家からお茶会に招待されており、伯母とイザベルも招待されているからと一緒に行くことになっていた。
朝からアナスタシアは着せ替え人形と化していた。
彼女たちは昔からアナスタシアを着せ替え人形にするのが好きで、いつでもその機会を虎視眈々と狙っているのだ。
だから普段なら誘われてもアナスタシアは絶対にスタン家には行かない。
だが今日は逃げられなかった。
お茶会の主催者は伯母と懇意にしている方で、どのような服装を好むか伯母のほうが知っていたためだ。
結局はいつもよりもリボンもレースも多い、ベビーピンク色のふわふわとしたドレスと同色のレースのリボンが髪に結ばれている。髪型はいつも通りのツインテールだ。
お茶会の時間が決まっているので延々と着せ替え人形にされなかった。それだけが幸いだ。
「今年からアナも王宮主催の催しには出てくるのね」
「そうね」
「ふふふ、楽しみね」
「イザベルお姉様の手を煩わせるつもりはないわ」
むしろ全力で辞退したい。
「あら、遠慮しなくていいわよ」
「いいえ、大丈夫よ」
「ふふふ、楽しみね」
これは、やる気だ。全力で対策を立てなければならない。
その話題で記憶が刺激されたのかイザベルが思い出したように言う。
「そういえば王宮主催の舞踏会の招待状が届いていたわね。今回もセスランに頼もうかしら」
アナスタシアはそれに待ったをかける。
「お兄様はすでにパートナーが決まっているわ」
「何ですって?」
イザベルが身を乗り出してくる。
「本当なの、それは?」
「ええ、本当よ」
イザベルは溜め息をついた。
「セスランを頼りにしていたのに。誰か探さなくちゃならないわ」
面倒だと言わんばかりだ。
だがイザベルなら問題ないだろう。すぐに相手が見つかるに違いない。
毎回兄に頼むわけではないのだから、相手はいるはずだ。
イザベルは見た目もいい。
色彩は茶色の髪に琥珀色の瞳と平凡だが、造作は綺麗だ。ぷっくりとした唇は妖艶だし、切れ長の瞳は知的さを感じさせる。
「イザベルお姉様ならすぐにお相手が見つかるでしょう」
「そうでもないわ」
「イザベルお姉様、もてそうなのに」
「そういうことじゃないのよ、アナ。いろいろ面倒なのよ。まだまだお子様なアナにはわからないかもね」
からかうようにイザベルが言う。
お子様扱いされてむぅとアナスタシアは口を尖らせる。
「そういうところが子供だと言っているのよ?」
アナスタシアは慌てて微笑みを浮かべる。
その様子に伯母とイザベルが声を上げて笑った。
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