メイナー伯爵令嬢の忠告
短めですが、区切りを考えてここで切ります。
週が開けたら王宮舞踏会のことで持ちきりだった。
早々とパートナーが決まっている者たちは男女問わずドレスやアクセサリーの話で持ちきりだし、パートナーがまだ決まっていない者は、早く決めなければと焦っている者と、まだ日にちがあるからとのんびりしている者とに分かれている。
「いいですか、クーパー様、今は一人になってはいけませんよ。必ず誰かといるのですよ」
真剣な顔でメイナー伯爵令嬢は言う。
アナスタシアはただ困惑した。
マティスもロンバルトも、ヴィクトリアですら同じことを言っていた。
何故なのか誰も教えてくれない。
メイナー伯爵令嬢は授業が一緒の時は授業が終わった後にわざわざヴィクトリアのところか、マティスやロンバルトのところまで送ってくれた。
そうやってアナスタシアが一人にならないようにしてくれた。
そして今日は何故かヴィクトリアとメイナー伯爵令嬢と三人で昼食を取ることになった。
「モワ様はパートナーの方は決まりまして?」
「ええ。アナのお兄様のセスラン様が誘ってくださったので」
「それはよかったですね」
「ええ。メイナー様は決まりましたか?」
「ええ。兄が友人の方に頼んでくれましたの」
「よかったですね。特定の方がいないとパートナーを探すのが大変と聞きますから」
アナスタシアが言うとメイナー伯爵令嬢が頷く。
「本当に幸運でした。クーパー様は、当然バレリ様ですわよね?」
「ええ、そうですね。マティスが誘ってくれました」
マティスに想いを寄せているメイナー伯爵令嬢の前では言いにくい。
だがメイナー伯爵令嬢は特に気にした様子もなく頷いた。
「バレリ様は早速動いたのですね。よかったですわ」
どういうことだろう?
アナスタシアは首を傾げるがメイナー伯爵令嬢は直接は答えずに忠告してきた。
「逆に意中の方にアプローチする好機と捉える方もいますからね。お二人ともお気をつけくださいね」
ヴィクトリアはともかくアナスタシアには縁のない話だ。
「他人事のような顔をされていますがクーパー様、貴女もですからね」
アナスタシアはきょとんとする。
「私になんて誰も声をかけてきたりはしませんよ」
「……ここまで無自覚というのはある意味凄いですわ」
ぽつりと呟かれた言葉はアナスタシアにはよく聞き取れなかった。
「バレリ様とダラス様も苦労されますわ」
それにヴィクトリアが深々と頷く。
「ヴィー? メイナー様?」
アナスタシアに向かって口を開きかけたメイナー伯爵令嬢だったが、やはりと言うように口を閉じて首を振った。
「メイナー様?」
「きっと知らないことが幸せなこともありますわ。ですから、クーパー様は絶対に一人になってはいけませんよ。わかりましたね?」
強い口調と瞳で念を押され、アナスタシアは思わず頷いた。
読んでいただき、ありがとうございました。




