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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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兄たちの懸念

「マティス、少し」

「うん」


兄がマティスを部屋の隅に引っ張っていく。

アナスタシアはそれを見送ることなく頬が少し赤いヴィクトリアに声をかける。


「ヴィー、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」

「少し風に当たる?」

「ええ、そうさせてもらおうかしら」


侍女が素早く動いて庭につながる窓を開けた。


「ヴィー、行きましょう」

「ええ」


アナスタシアとヴィクトリアは立ち上がり、庭へと出た。

そよりと吹く風が気持ちいい。

ふぅと息をついたヴィクトリアに声をかける。


「ヴィー、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。私よりセスラン様は大丈夫かしら?」


ちらりと心配そうにヴィクトリアがサンルームのほうを見る。


「大丈夫よ。お兄様は慣れているもの」

「そう。なら、大丈夫ね」


アナスタシアとしては兄よりヴィクトリアのほうが心配だ。

じっと見る。

外の風に当たったからか顔色は悪くない。

ほっとする。


「そうそう、アナ、ドレスと装飾品のお礼に舞踏会の後に刺繍したハンカチを贈るのが慣例よ」

「そうなのね。教えてくれてありがとう」


本当にアナスタシアの知らないことばかりだ。

ヴィクトリアにはお世話になりっぱなしだ。


「アナ、相談に乗ってくれる?」

「もちろんよ」

「ありがとう。アナ、一緒にハンカチに刺繍しましょうよ」

「ええ」


ヴィクトリアと一緒なら心強いし、きっと楽しいだろう。



*



セスランとマティスはアナスタシアたちが外に出たことを確認してから声を(ひそ)めて話す。


「本格的に奴らが動くかもしれない」

「王宮舞踏会なんて絶好の機会だからね」

「パートナーからの、特別な関係だという周知、か」


セスランは頭痛を(こら)えるかのように頭に手をやる。

アナスタシアなんか簡単に()められそうである。

だから招待状が届いてすぐにマティスは訪れたのだろう。


あれだけマティスのパートナーはアナスタシアだと言っておいても、顔見知りにパートナーの申し込みをされたら受けかねない。

いろいろ自覚が足りないし、脇も甘い。

この先社交界でやっていけるか心配になる。


マティスやロンバルトができるだけ目を光らせてくれているが、彼らの目の届かないことは多々ある。

ヴィクトリアも気にかけてくれてはいるがやはり限界はある。


アナスタシアはふらふらと一人で歩き回ってしまう。

アナスタシア自身がいまいち危険性を理解していないのが困りものだ。

かといってあまり脅しすぎるのもよくない。

アナスタシアを萎縮させたいわけではないのだ。


だからこそ具体的な注意はできずに一人でふらふら歩き回らないことと言う言い方になってしまう。

それではアナスタシアは危機感を持ちにくい。

わかっているのだがどうしても言えない。


「僕とロンはなるべくアナと一緒にいるよ」

「ああ、そうしてくれ。気苦労をかけるな」

「ううん、これくらいは当然だ」


アナスタシアに変な虫はいらない。

徹底的に出会わないように追い払わなければ。


これはマティスの我が(まま)でもある。

その自覚はある。


友人を作りたいアナスタシアにとっては迷惑なことかもしれない。

でも本当にアナスタシアに近づいてくる者の中には絶対に関わらせたくない(やから)もいるのだ。


アナスタシアはクーパー家とバレリ家の領地でのんびりと過ごしていたため、少し、人を見る目が甘い。

優しくされればいい人、と思ってしまうだろう。

上辺だけの優しさを持つ残忍な人間がいるということはわかっていても、目の前の人物がそうかもしれないとは疑わない。


それに好意を寄せていればどんな人間でもいいというわけではない。

そんな人間をアナスタシアに絶対に近づけたくないし、彼女にどんな想いを持っているかも知られたくない。


これを好機と仕掛けてくる輩を排除するためにマティスはこれまで以上にアナスタシアの傍にいることに決めた。

マティスが傍にいればそれなりに牽制になるだろう。

だだ漏れの色気でも武器になるものは何でも使うつもりだ。


「さてじゃあ僕は帰るよ」


そろそろセスランが限界だろうとマティスは帰ることにした。

今日はアナスタシアと約束したわけでもなかったし、ヴィクトリアもいるので長居はできない。


「ああ」

「アナたちには挨拶しないで帰るから二人によろしく」

「わかった」


来た時とは対照的に足早にマティスは部屋を出ていった。

扉の脇に控えていた執事がついていったので見送ってくれるだろう。


できれば情けない姿は見せたくなかったが、もう限界だ。

セスランは力なくソファに座り込むと背もたれに身を預けた。



読んでいただき、ありがとうございました。

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