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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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王宮舞踏会のパートナー

「ご歓談中失礼致します。マティス様がいらっしゃいましたがいかが致しましょう?」


執事が扉の脇に立ち、告げる。

本来客人がいる場合は客人に聞こえないように主人に耳打ちするのが正しいのだが、ある意味緊急事態であり、またヴィクトリアはアナスタシアの親友だから告げても大丈夫と判断したのだろうか?


兄とヴィクトリアの視線がアナスタシアに向く。


「約束していたのか?」

「いいえ」


急な訪問に驚いているのはアナスタシアも同じだった。


「ええっと、ヴィー、ここに呼んでもいい?」


ヴィクトリアが難色を示せばちょっと抜けて会ってくればいい。


「いいわよ。用件も何となく見当がつくもの」

「ありがとう、ヴィー」


アナスタシアは執事にここに通すように頼む。


「承知しました」


一礼して執事が出ていく。

その間に侍女がてきぱきと椅子を運んできて一人分の席を作る。

それほど待たないうちに執事がマティスを案内してきた。


「やあ、アナ。ヴィクトリア嬢、邪魔をして申し訳ない。セスラン、お邪魔するよ」

「マティス様、お気になさらないでください」

「マティスいらっしゃい。今日はどうしたの?」


マティスがゆっくりと近づいてくる。

ゆっくりなのはヴィクトリアや兄への配慮だろう。

アナスタシアはその隙にヴィクトリアに声をかける。


「ヴィー、つらければソファで休んでいていいわ」


マティスが来る前にサンルームの片隅にソファが運び込まれていた。


「いえ、大丈夫よ」

「無理はしないでね。駄目だと思ったらすぐに言ってね」

「ええ、ありがとう」


マティスが慎重に兄とヴィクトリアの様子を見ながら用意された椅子に座った。

アナスタシアの真っ正面の席だ。

隣より真正面のほうが色気を浴びやすいのでこの席順になる。


「それでマティス、今日はどうしたの?」


なるべく早くマティスから用件を聞いたほうがいいだろう。

それはマティスも同意見なのだろう。すぐに用件を告げてきた。


「アナ、王宮主催の舞踏会の招待状、届いた?」

「ええ。もう参加の返事を出したわ」

「よかった。僕のパートナーになってくれる?」

「ええ、勿論よ」


マティスがほっとしたように微笑(わら)う。


「よかった」


マティスは断られるとでも思っていたのだろうか?


「……他に誰かに申し込まれなかった?」

「さっき返事をしたばかりだもの。それに私に申し込む人はいないわ」


途端に三人から何とも言い難い目を向けられる。

アナスタシアは首を傾げるが誰も答えてはくれなかった。

マティスが話題を()らすように言う。


「アナ、ドレスはもちろん僕のほうで贈らせてもらうよ」

「え、でも、どのみち私も参加する必要があるものだから大丈夫よ」


友人にそこまでしてもらう必要はない。


「ううん、是非贈らせて。僕がパートナーをお願いしたんだから」

「アナ、よっぽど嫌な相手ではない限り、こういう申し出は断ってはならない。もらっておけ」


兄が口を挟む。


「そうよ、アナ。男性の甲斐性を疑われるわ」


ヴィクトリアにも(たしな)められる。


「そういう、もの?」

「そういうものだ」


兄が頷く。


「これは、まあ、練習も兼ねているからな」

「練習?」

「そうだ。学園に入学してから初めての王宮主催の舞踏会だろう? 毎年、この舞踏会は新入生の練習のために開かれるんだ。周りからアドバイスなどを受けながら舞踏会の作法の実践の場となる。だからよほど大きな失敗でなければ目こぼしされる」


なるほどとアナスタシアが頷くと兄が続けた。


「それには男性側からのドレスや装飾品を贈ることも含まれる。それらが贈られないとケチだの貧乏だのと噂されることになる」

「そうなのね」


なかなか厳しい暗黙のルールがあるようだ。

安易に断ってはマティスに恥をかかせるところだった。


「納得したなら、受け取ってくれるね?」

「ええ。ありがとう」

「どういたしまして」

「アナはパートナーが決まったが、私はどうするか」


兄が悩ましげに言う。

あ、と思ってアナスタシアはヴィクトリアを見る。

兄はそれで察したようだ。


「アナ、何も言うな。ヴィクトリア嬢はお相手はいるだろうか?」

「いいえ。それで、困っておりますの」

「そうか。それならば、私のパートナーになってくれないだろうか?」

「まあ、セスラン様、ありがとうございます。是非お願いします」

「ドレス等は贈らせていただく」

「ありがとうございます」


無事に兄とヴィクトリアのパートナーも決まったようだ。


「じゃあアナ、後で行きつけの仕立て屋を教えてね」

「ヴィクトリア嬢も。いや、一緒に行ってもらえるか?」

「ええ、もちろんですわ」

「ああ、そうか。アナ、一緒に行こう?」

「ええ」


ふと兄が何かに気づいた顔になった。


「ヴィクトリア嬢、よければうちで使っている仕立て屋で仕立てるのはどうだろう? アナと一緒の日に行けば、少しは気が楽ではないだろうか?」

「お気遣いをありがとうございます。アナとマティス様がよければ是非そうさせてください」

「私は構わないけど、マティスは?」


アナスタシアはマティスに視線を向ける。


「僕も別に構わないよ」

「ではお願いします」


仕立て屋にも連絡を取って予定を合わせることにした。

兄が一応、こちらに来てもらえないかと訊いてみると言ってくれた。

マティスがいるのならそのほうがいいだろう。

忙しくなければ応じてくれるだろうが、一斉に招待状が送られている今だとどうだろう?

こればかりは祈るしかない。


「アナを着飾らせられるのは楽しみだな」

「えっと、似合うものにしてね?」


ないと思うが大人っぽいものは本当に似合わない。

かと言って子供っぽいものも嫌だ。

マティスならわかってくれていると思うが。


「大丈夫。女性に恥をかかすなーー紳士教育で一番初めに言われる言葉だよ」


令嬢に淑女教育があるように、令息には紳士教育というものがある。

アナスタシアも詳しくは知らないが、女性の扱いも学ぶようだ。


「そうなのね」

「だから安心して」

「ええ」


兄がヴィクトリアに向き直る。


「ヴィクトリア嬢も。貴女に恥を()かせないように努力する」

「はい。セスラン様を信じていますわ」

「ありがとう」


兄は何だか嬉しそうだ。

それをマティスが含みのある微笑()みで見ているのが気になる。

少し首を傾げたところでマティスがアナスタシアを見て微笑む。


「楽しみだね」

「ええ」


すぐにまあいいか、と思い、アナスタシアも微笑み返した。


読んでいただき、ありがとうございました。

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