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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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親しき仲にも礼儀あり

その日、マティスは機嫌が悪かったのだろう。

いきなりアナスタシアたちに暴言を吐いた。


「僕の色気にくらっとこないアナとロンはにぶにぶのツートップだね」


にっこり笑顔で言ったマティスにアナスタシアとロンバルトは無言になる。

それからにこやかな笑顔をお互いに向けた。


「アナ、変なことを言っているマティスは放っておいて二人でお茶しないか?」

「ええ、そうね」


自由恋愛推奨の今、婚約者でもない男女が二人でカフェでお茶を飲むくらいで眉をひそめられることがないのは有り難い。


「えっ、待って!!」


マティスが慌てるが二人はにこやかに無視する。


「では行こうか?」

「ええ」


エスコートのために差し出された腕にアナスタシアは手を軽く添える。

そのままマティスを置いて二人で歩き出した。






ロンバルトと二人で学園にあるカフェに入る。

ここは学生たちの健全な交流の場として使われることを目的に設置されたものだ。

街中のカフェに行くよりよほど安全だし、男女で入っても後々(のちのち)後ろ指を指されることはない。


マティスが勝手についてきているが、店員にきっぱりと二人だと告げる。後ろの彼は連れではないと。

たまにマティスと三人で利用しているので、店員は一瞬動揺を見せたが、すぐに冷静な顔になり席に案内してくれる。


マティスは隣の席に案内されていた。

ここの席は隣の席と近い設置になっている場所だ。


恐らく、いや、十中八九店側のマティスへの配慮だろう。

喧嘩でもしたのかと心配されたのと同時にマティス一人を野放しにしないでくれということなのだろう。


そして、周りの席には誰もいない。

今日は色気が一段と強い、とみな席を移ってしまったのだ。


紅茶とケーキを頼んでロンバルトと談笑する。

途中でマティスが口を挟んできたが、ロンバルトと二人で流した。

今日は二人で来たのだ。隣の席からの横槍はないものとしていい。


そうやって談笑していると不意にテーブルに影が落ちた。

顔を上げると、メイナー伯爵令嬢が仁王立ちをしていた。


「ちょっと、クーパー様、ダラス様も、そんなふうにバレリ様を無視したらお可哀想ではありませんか!」

「まあ、メイナー様、ごきげんよう。今日はマティスは一緒ではないんですよ。ですから、そちらは空いていますよ」


マティスの向かいの席を示す。

彼女はマティスのことがたぶん好きなのだろうし、マティスの色気にも多少は抵抗力がありそうだし、少しおしゃべりするくらいは大丈夫だろう。


親切心のつもりだったが、メイナー伯爵令嬢は顔を真っ赤にして怒る。


「よ、余計なお世話ですわ。それよりも、喧嘩したのなら早目に仲直りなさることね!」

「喧嘩なんてしていませんよ」

「そうだな、喧嘩はしていない。マティスが八つ当たりしてきただけで、俺たちはただ茶を飲んでいるだけだ」

「大人げないですわ。八つ当たりされたからって仲間外れになさるなんて」

「親しき仲にも礼儀あり、ですよ」

「そうだ。いくら親しくても言ってはいけないことはある」

「そうだね、僕が悪い。メイナー伯爵令嬢、ありがとう。でも、これは僕たちの問題だ」

「わ、わたくしは別に……。ただ見ていて苛立たしかっただけですから! それでは失礼しますわね!」


メイナー伯爵令嬢はさっと去っていった。自分の席に戻るのだろう。


マティスが店員を呼んで手早くメイナー伯爵令嬢にケーキを出してくれるよう頼む。

マティスは店員を見ないようにしていたが、それでもくらりときていた。しかし、ふらっとした身体を何とか持ち(こた)え、「かしこまりました」と一礼して店員が足早にメイナー伯爵令嬢を追っていった。


それを見送ることなくマティスがアナスタシアとロンバルトを見た。


「アナ、ロン、ごめん。ちょっと嫌なことがあって八つ当たりした」


アナスタシアとロンバルトは顔を見合わせ、仕方ないなと微笑(わら)う。


「いいわ、許してあげる」

「ああ、許してやる。こっちに来るか?」

「ありがとう。そっちに移らせてもらう」


話を聞いていたのだろう、店員が素早く寄ってきて、マティスの紅茶とケーキをアナスタシアたちのテーブルに移し、素早く離れていった。


マティスに何があったのか、本人が話したくないなら聞かない。

ただ紅茶を飲み終わるまでたわいもない話をしていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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