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お茶会と王宮舞踏会の話

お茶を飲み、ふと気づいたというように兄が言う。


「学園に入学したということはアナもヴィクトリア嬢も王宮主催の舞踏会に参加することになるんだな」


王宮主催の舞踏会は学園に入学して初めて出られるようになる。


「王宮主催の舞踏会って、お兄様が毎回パートナー探しに苦労している、あの?」


兄が話題に出した王宮主催の舞踏会というのは未婚の年若い令息令嬢に参加義務があり、出会いの場であるのでお目付け役の親世代は出席しない。間違いが起きないように、人員が多く配備されているという話だ。

親世代が参加しないので婚約者がいない者は年の近い身内や友人の兄弟姉妹など伝手(つて)を使ってパートナーを探さなければならないのだ。


王宮では普通の舞踏会も行われているのだがそちらは王族の誰かが主催者となっており、王宮主催の、となれば未婚の若い令息令嬢の参加義務のある舞踏会を指す。


「確かにそうだが、少しは言い方を考えてくれ」

「取り(つくろ)いようがないわ」

「頑張って考えてくれ」

「でももう言ってしまったわ。今さら遅いと思うわ」


兄は深く溜め息をついた。


「次からは言う前にもう少し考えてくれ」

「ええ、気をつけるわ」

「セスラン様はお相手になりそうな方はいらっしゃらないのですか?」


不思議そうにヴィクトリアが訊く。


「ええ、お恥ずかしながら。舞踏会に出られる親戚は従姉がいるのですが、毎回頼むわけにもいきませんし」


従姉は父の姉の娘で兄の一歳歳上だが、いまだに婚約者はいない。

今は王宮で働いている。詳しくは知らない。

アナスタシアはこの従姉が苦手でできるだけ会わないようにしているのだ。

だが従姉のほうはアナスタシアを構うのが大好きなので見つかれば必ず寄ってくる。


「そうなのですね」


ヴィクトリアはどことなくほっとしているように見える。


「普通は妹が出られるようになればパートナー探しに苦労することも減るはずなのにお前のパートナーはマティスだろうからな」


少し恨みがましい目で見られる。


基本的にほとんどのお茶会やら夜会やらを欠席できるマティスでもいくつかの催しは参加しなくてはならないのだ。

学園主催のお茶会しかり、話題に出た王宮舞踏会もその一つだ。

パートナー必須の王宮舞踏会なら、マティスのパートナーは必然的にアナスタシアだ。


「そうね。たぶん」


マティスに婚約者ができるか、アナスタシアに婚約者ができるまではそうだろう。


「たぶんって、アナ以外にマティスのパートナーは務まらないだろう」

「でも私かマティスに婚約者ができれば別だわ」

「それは、そうだが……」


兄は何故か歯切れが悪い。

アナスタシアは至極真っ当なことしか言っていない。

アナスタシアは首を傾げる。


「まあ、今はどちらも婚約者がいないのだから当分はアナがマティスのパートナーだろう」

「それはそうね」


それには頷く。

今の時点でマティスのパートナーを務められるのはアナスタシアだけだ。

学園のダンスの授業でも一曲マティスのパートナーを務められた令嬢はいまだにいない。


いつかは現れるといいとは思っている。

嘘ではない。

だけど、それを想像すると胸がもやもやする。

とりあえず、今のマティスのパートナーはアナスタシアなのだ。

兄のように誰かいないかと頭を抱える必要は今のところない。


「ヴィクトリアは?」

「ア、アナ、私はまだお相手がいないと先程言ったわ」

「親戚の方は?」

「いないわけではないけど、ほとんどの方が婚約者がいたり結婚したりしているし、毎回頼むわけにはいかないわね」

「お兄様と同じなのね」

「えっと、そうなる、わね」

「ヴィクトリア嬢は素敵な女性なのですぐにお相手が見つかると思う」

「まあ、ありがとうございます」


ヴィクトリアはどことなく悲しそうに見える。

兄は(あせ)ったようだ。


「ヴィクトリア嬢が素敵な女性だと言いたいだけで他に他意はっ……!」

「あっ、ありがとう、ございます……」


ヴィクトリアは恥ずかしそうにうつむいている。

兄はどう声をかけようか迷っているように見える。


そのままアナスタシアはじっと兄とヴィクトリアを観察する。

ヴィクトリアに相手がいなければ兄のパートナーになってもらえばいいのではないだろうか?


名案のような気がするのだが、先程侍女に叱られたばかりだ。

そっと侍女を窺うと首を横に振られた。


何も言っていないが何を考えたのかはわかったようだ。

言わないほうがいいようだ。

名案のような気がしたが口に出さないことにする。


アナスタシアは侍女にこくりと頷いた。

侍女は正解ですというように微笑んだ。

口に出す前に確認してよかったとほっとする。


「アナは何をやっているんだ?」


兄に不思議そうに訊かれて慌てて視線を戻すと、兄とヴィクトリア二人に見られていた。


「何でもないわ」


アナスタシアは誤魔化すためにできるだけ優雅に微笑んで見せたのだった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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