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お菓子と学園主催のお茶会の話

「どうぞ」


兄に促され、アナスタシアとヴィクトリアは同時に一口食べた。


「美味しいですわ、セスラン様」


ふわりと花が(ほころ)ぶようにヴィクトリアが微笑(わら)う。


「お口に合ったようでよかった」


兄の顔も綻ぶ。

二人が微笑(わら)い合っているのを眺めながらアナスタシアはもう一口食べて紅茶を飲んだ。

美味しくて顔が綻ぶ。

もう一口、二口と食べていると、二人の視線が自分に向いているのに気がついた。


「アナに合う会はどう考えてもお菓子好きなご令嬢の集まる会だろうな」


からかうように兄が言う。


「ふふ、それもいいわね」

「……太るぞ」

「お兄様! それは禁句よ!」

「言われたくなかったら少しはお菓子を自重しろ」

「学園内を歩いているから大丈夫よ」

「まさかとは思うが一人でか?」

「ひ、一人の時もあるわ」

「ア~ナ~」

「大丈夫よ。誰も私になんか声をかけてこないわ」

「それはたまたまそうなっただけだ。危ないだろう」

「大丈夫よ」

「お前はまったく。いい加減危機感を持て」


くすくすとヴィクトリアが笑う。


「お二人は仲がよろしいですね」


兄が照れたように頭を()く。


「あー、変なところをお見せして申し訳ない」

「いいえ。お二人が仲が良いのを見ていると微笑ましい気持ちになります」


好意的なヴィクトリアの微笑みに兄はほっとしたようだった。

何故か兄は気にしたようだがアナスタシアはヴィクトリアに見られても気にしない。別に普通のことだ。


それとも見られたら恥ずかしいことなのだろうか?


マティスもロンバルトも特に何も言わないが。

マティスはともかくロンバルトは常識から外れれば注意してくれるのだが。

小さい頃からこんなやりとりをしているので見慣れている、ということもあるかもしれない。


うん、と首を傾げるが、兄もヴィクトリアも気づかない。

まあいいか、とアナスタシアは気にしないことにした。


そしてふと、アナスタシアは惨敗だったがヴィクトリアはどうだったのだろう、と気になった。


「そういえば、ヴィーはお茶会はどうだったの? いい人いた?」

「ア、アナ!」


アナスタシアにはヴィクトリアがどうして慌てているのかわからない。


「うん?」


首を傾げると、何故かヴィクトリアはちらちらと兄を見ながら答える。


「いいえ、いなかったわ。うちのテーブルはみんな終始当たり障りのない会話をしていたわ」

「そうなのね。残念だったわね」

「アナ、私はまだ一年生だからそんなに焦っていないわ。家からも特に言われていないのよ」

「マティスやロンも同じことを言っていたわ」


兄が呆れたような視線をアナスタシアに向けた。


「何だマティスやロンにも訊いたのか?」

「だって二人とも乗り気じゃなかったのよ? 二人とも一人っ子なんだから結婚相手は必要でしょう?」

「それはそうだがな」


兄は何故か歯の奥に物が詰まったような様子だ。


「ロンはともかく、マティスにはひどいな。まあ、アナだから仕方ないが」


口の中で呟かれた言葉はアナスタシアにもヴィクトリアにも届かない。


「お兄様?」


アナスタシアを見た兄は緩く首を振る。


「いや、何でもない」


アナスタシアはヴィクトリアと顔を見合わせる。


「家から言われていないのであればゆっくり探すのもいいと思いますよ」


兄が優しくヴィクトリアに言う。


「お兄様はのんびりし過ぎだと思うわ」


兄が()せる。


「大丈夫ですか!?」


ヴィクトリアが驚いて声をかける。


「ああ、大丈夫です。失礼しました」


それからヴィクトリアをちらちら見ながらアナスタシアに言う。


「アナ、私だってちゃんと考えている」

「でもお兄様はすでに学園を卒業してしまったし。それでもお相手がいないなんて心配になるわ」

「アナ、セスラン様は大丈夫よ。こんなに素敵な方だもの」

「ありがとう、ヴィクトリア嬢。気を遣わせてしまったな」

「いいえ、本当のことですから」

「それはなんと言うか……ありがとう。嬉しい」

「いえっ……」


二人の気がアナスタシアから()れている内にとすすっと静かに侍女がアナスタシアの傍らに寄ってくる。

どうしたのかと視線をやると侍女は声を落としてアナスタシアにだけ聞こえるように言う。


「お嬢様いけません。それは繊細なことです。坊っちゃまは段階を踏んでいらっしゃるのです。そっとしておいてあげてください」

「え、ええ、わかったわ」


アナスタシアは気づかないうちに繊細な問題に踏み込んでいたらしい。


アナスタシアは人の機微に疎い自覚がある。

自覚はあるのだが直せない。

そもそもどういうものかもよくわなっていないので直しようがないのだ。

そういう時に侍女が教えてくれたりする。

本当に有り難い。


アナスタシアが頷くと侍女は何事もなかったかのように下がっていった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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