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兄の参加と会の話

さくさくと草を踏む音が聞こえ、二人で同時にそちらに視線を向けた。


「お兄様、お帰りなさい」

「セスラン様、お邪魔しております。今日はお休みだったのですね」


立ち上がって挨拶をしようとしたヴィクトリアを手で制して兄が近づいてくる。


「ええ。ご一緒しても?」

「ええ、私は構いませんわ」


ヴィクトリアはアナスタシアを見る。


「お菓子を土産に買ってきたぞ」

「ヴィーがいいなら私もいいわ」

「ありがとう」


兄が四阿あずまやに入ってきてアナスタシアの隣に座る。

侍女が素早く兄の分のお茶を淹れる。


「セスラン様の買ってきたお菓子は今お出しする準備をしていますのでお待ちくださいませ」

「ええ、楽しみにしているわね」


笑顔のアナスタシアにつられて笑顔になりながら一礼して侍女は下がっていった。


「それでアナは何を百面相していたんだ?」

「……お兄様、いつから見ていたの?」


セスランは不思議そうな顔をする。


「別に立ち止まって見ていたわけじゃない。ただそっちから真っ直ぐに歩いてきただけだ」


そっちと兄が示したほうは、四阿の入り口から真っ直ぐだ。

そこを真っ直ぐに来たならばかなり遠くからでもばっちり見えていたことだろう。


「それでどうしたんだ?」


アナスタシアが納得したのを見て取り、もう一度訊かれた。

誤魔化すか素直に白状するか迷う。

ヴィクトリアは微笑んだまま何も言わない。

アナスタシアに任せてくれているのだろう。

そもそもアナスタシアのことだ。軽々しく他の人が言うことではない。


「学園主催のお茶会があったのだけど、」

「うん? 何か粗相でもしたのか? お前はマティスとロンと同じ席だろう? よっぽどのことをしなければ何とかなるだろう?」


兄はもちろんロンバルトとも幼馴染みになる。

バレリ領にいるマティスのところによく顔を出していた幼い頃に知り合っている。


「していないわ」

「じゃあ何があったんだ?」

「友達ができなかったの」

「友達?」


兄は意味がわからないという顔になる。

これがマティスやロンバルトにも言わなかった理由だ。

マティスはともかく兄にしろロンバルトにしろ、それなりに友人がいるのだ。

ヴィクトリアとマティスとロンバルトしか友人のいないアナスタシアや、そもそも他人を寄せたくないマティスとは違う。


「私にはヴィーとマティスとロンしか友達がいないの」


兄はきょとんとしていたがすぐに、ああ、と納得したように声を上げた。


「ああ、アナはずっと領地かバレリ領にいたからな。知り合う機会がなかったのか」

「ええ。何度かお茶会には参加したけど、うまく友達の輪に入れなかったの」


ある程度友達の輪ができてしまえば、新参者はなかなかそこには入れない。

入れてくれたとしても、彼女たちは共通の話題を持っており、気づけばアナスタシアは話についていけず置いてけぼりにされてしまう。


「もう少し配慮してやればよかったな」


兄はそっとアナスタシアの頭を撫でた。


「いいえ。私がもっとうまくやれればよかったのよ」


お茶会だってまったく行っていなかったわけではないのだ。

そこでうまく友人を作れなかっただけで。


「本当にどうしてアナには友人ができないんだ?」


兄も本気で不思議がっている。


「他の人と接する時間が足りないんじゃないかってヴィーが」

「ええ、あまり交流が持てないでしょう? それではアナの魅力がなかなか伝わりにくいのではないかと思いまして」

「ああー……」


思い当たるふしがあるのか兄が視線を上に向ける。

アナスタシアには心当たりはないが。

軽く首を傾げながら続ける。


「だからヴィーがどこかの会に所属するのはどう? って勧めてくれたの。お兄様は会のことは何か知っている?」


途端に兄は何とも言えない渋い表情になる。

アナスタシアは首を傾げた。

ヴィクトリアも不思議そうな表情かおをしている。


「お兄様?」

「ああ、何でもない」


そう言った後で兄はヴィクトリアをしっかりと見つめて言った。


「会もいろいろあるから、ヴィクトリア嬢、申し訳ないがよくよく吟味ぎんみしてもらえないだろうか?」

「もちろんですわ」


もしかしたら兄はどこかの会で嫌なことがあったのかもしれない。

じっと兄を見るとそれに気づいた兄が優しく微笑(わら)って言う。


「アナに合う会があるといいな」

「ありがとう。お兄様はどこかの会に所属しているの?」

「いや、私は特には」

「そうなんですか? セスラン様は興味はありませんか?」

「そうですね。私はあまり」

「お兄様にはお友達いるものね」

「アナ、それは関係ない」

「ええ、アナ、それは関係ないと思うわ」


二人に口々に言われてアナスタシアはこてんと首を傾げた。


「目的が混ざっているぞ。会は友人を作るためではなく、好きなものが同じ者たちが集まって好きなものの話をしたり、好きなことを一緒にしたりするのが目的だ」

「社交の場ではないのですか?」


ヴィクトリアも驚いたように兄に訊いている。


「会を社交の場として利用するのは嫌がられるでしょう。純粋に好きなもののために活動している会がほとんどですので」

「そうなのですね」


それならますます友人作りには最適かもしれない。

社交抜きで好きなもののための活動をしているのなら、気の合う者を見つけやすいだろう。


「ご歓談中失礼致します。お待たせ致しました」


侍女がそっと寄ってきてようやく兄の買ってきたお菓子が(きょう)された。

ずっとタイミングを窺っていたようだ。


「ありがとう」


侍女は笑顔で頭を下げて、少し離れたところに下がっていった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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