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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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学園のカリキュラム 3法学1

今回、次回は普通に授業です。

ご了承ください。

「アナは窓際に」

「え、マティスが一番奥のほうがよくない?」

「アナ、マティスの言う通りにしろ」


ロンバルトにまで言われてしまい、アナスタシアは大人しく窓際の一番奥の席に座る。隣がマティスでその隣がロンバルトだ。


講義専用のこの教室では、窓際と廊下側の一列が三人がけの長机で、間二列は四人がけの長机だ。それが八個連なっている。

窓際の席は机の端が壁にくっついているので奥が一番安全なのだ。


ちなみに窓際の一番前のこの長机がアナスタシアたちの指定席になっており、他の生徒たちの座る席は自由だ。

だが当然ながらアナスタシアたちの後ろの席に座る者はいない。


アナスタシアたちは鞄の中から教科書やノート、筆記用具を取り出す。

お喋りしながら待っていると男性教師が入ってきた。

ぴたりとお喋りがやむ。

教師が壇上に上がり、机に教科書等を置く。

ざっと教室内を見回した。


「欠席者はいないようだね。始めよう」






一応男女の出会いを目的としているが、純粋に講義だけの授業もある。

その一つがこの法学の授業だ。

これは全生徒の必修科目だ。

令息令嬢関係なく知っていなければ駄目だろう、という学園の判断だ。

卒業までのどこかでカリキュラムの中に入れられる。

ちなみにヴィクトリアは今回はカリキュラムに入っていないそうだ。


「今日は不敬罪と王族公認特例の話をしよう」


教師がゆったりと話し始める。


「みなも知っている通り、一応この国にも不敬罪というものはある」


一応と教師が言う通り、実際に不敬罪というものを適用されたのは聞いたことがない。


「五代前の国王陛下の御代にはこの不敬罪が頻繁に問われていた」


教師が教室内を見回す。ただしマティスのいるこの辺りは(かたく)なに見ることはないが。


「諸君も知っている通り、王族の質の落ちていた時代だ」


この教師は成立時に起きた出来事や成立の流れを詳しく話してくれるのでアナスタシアはいつも興味深く聞いていた。

王族の質が悪いなどとその当時に言えば即不敬罪で捕まっていた。

今はそんなことはないが。


「王妃、王子、王女方の気に入らない者は言いがかりのような理由で不敬罪を言い渡され、投獄や財産没収、平民に落とされたりとやりたい放題だった」


そんな時代に生まれなくてよかったと思う。

社交下手なアナスタシアではあっという間に餌食(えじき)になってしまい、家ごと没落させられていたに違いない。


「国王陛下だけはまともだったが、とにかく気が弱く、王妃の尻に敷かれていた」


ああ、国王陛下が抑止力にならないのであればやりたい放題だっただろう。

何故、そんな王妃を選んだのか。

気が弱かったから押しきられてしまったのだろうか?

当時は政略結婚が主だったはずだから王妃の家の権力に負けたのかもしれない。


そもそも何故そんな気弱な方が王位に就いたのか。

他に誰かいなかったのか。

これも、政略的なものが絡んでいるのかもしれない。


「王子・王女方もそんな国王陛下をバカにし、王妃についてやりたい放題だった。苦言を呈してきた者には不敬罪を言い渡し、ついにはおべっかを言う者しか周りにはいなくなり、他の者は沈黙した。いやはや嘆かわしいことだね」


そんなことになったら国が滅びてしまう。

……実際のところは滅びてはいないのだから、まあ何とかなったということだ。


「だがついに国王陛下の我慢が限界を迎え、"そもそも不敬罪で抑えつけなければならないのは、お前たちが尊敬に値しないからだ。それを自分たちで声高に主張して恥ずかしくないのか、バカモンが!"と怒鳴ったとかいないとか」


教室内から控えめな笑い声が起きる。


「そのすぐ後で王妃とは離婚、王子・王女方は離宮にて幽閉された。まあ、三人まとめてだから寂しくはなかっただろうけどね」


そんなに気位が高くてやりたい放題だった方々が幽閉というものに耐えられるものだろうか?

それについては教師は何も言わない。

あとで調べてみようかしら?

そういうところがこの教師のうまいところだ。

本筋と関係ないところはあえて言わなかったりする。

気になってついつい調べてしまうのだ。

ノートの端にメモ書きして丸で囲っておく。


「すぐに不敬罪に問われていた者はすべて取り消され、身分・爵位の復活、財産や領地の返却が行われた。一部は王妃とその実家、さらにはその周囲に群がって甘い蜜を吸っていた貴族たちから没収し返却された」


当然だ。

彼らの協力なしに国は立て直せない。


「間を置かず新しい王妃と再婚。そして産まれてきた王子・王女が優秀だった。お陰でこの国は今も続いている」


今も国が続いている。

それこそが何よりの証だろう。


「それ以降、不敬罪を言い渡した王族は現れなかった。みんな自分は尊敬に値しないと公言したくはないだろうからね」


ふとアナスタシアはエスメラルダ王女を思い出した。

一番身近な王族といえばあの方だ。

エスメラルダ王女の周りは常に人がいる。

マティスも気さくな方だと言っていた。

それこそが教師が言ったことの最大の証左だろう。


「王族が率先してそうなれば、貴族は不敬罪を問えなくなる。随分と横暴な貴族が減ったそうだよ」


王族が王族なら貴族も貴族だったということだ。

何と恐ろしい時代だったのだろう。


「だから君たちも気をつけるように。王族の負の歴史ともなってしまった不敬罪を問うたりはしないように。それこそ不敬になるから」


わざわざ王族の負の歴史を掘り起こさせるような真似はするな。

ということだろう。


クーパー伯爵領もクーパー家で働く者たちもみんなのんびり穏やかな気質で、アナスタシアたちクーパー伯爵家の者たちとの距離は近い。

不敬罪などという言葉はクーパー伯爵家の辞書にはない。


教室内がざわざわとするのはそこに不安の色があるからだろうか。


「大丈夫だ。君たちが民を思い、きちんと統治していれば、悪口を言われたところで、誰かが(たしな)める」


反応は様々だ。

納得がいき頷いている者、本当かと疑っている者、自分にできるかと不安そうな者……

だがとりあえずざわめきは治まる。

読んでいただき、ありがとうございました。

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