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20 勝利の余韻×衝撃のラスト

 エルヴィン殿下の言葉を王宮大ホール内にいる人々全員が固唾を飲んで見守っていた。悪女と罵った相手の冤罪が暴かれたその言い訳を皆、待っているのだ。

 国王陛下や宰相カイロス様もジッとエルヴィン殿下を見据えている。


「……更に付け加えましょう」


 痺れを切らして言葉を続けたのはビアンカだった。


「此度、エルヴィン殿下はイリーシャ様との婚約も発表されましたね。それについて、この録音記録も併せてお聞きください」


 そう告げて、彼女は更なる記録を再生する。


『ザ……ザザ……上手くいきましたわね』

『ああ。全てはキミの言う通りだったよ、イリーシャ』


 その音声を聞くと、エルヴィン殿下は更に目を見開いて表情を驚愕させた。


『アメリアの浮気を理由に彼女との婚約を破棄し、イリーシャを新たな婚約者として発表する為の準備がこれで整った』

『はい。やっとこれで私も愛する殿下と結ばれますわ』

『私も嬉しいよ。アメリアみたいな能無しの悪女なんかよりも、キミのように才能溢れる美しき淑女とやっと結ばれるのだから』

『うふふ、ありがとうございますわ。それにしてもお姉様も不憫なお方。殿下の真実の愛はとっくの昔から私の方にあったというのに』

『その通りだ。アメリアとの()()()()()()()()()()()、もう私はキミの虜だったからね』

『何も知らずに毎日お勉強を頑張られているお姉様の健気さだけは評価しますけれど』

『ふん。センスも才能もない癖に無駄な努力だけは一丁前。そんな必死さを見せつけながらも、あんな堂々と浮気をするような悪女、こちらからお断りだ』

『ご安心ください殿下。あなたの愛は私が全て受け止めて差し上げますからね』

『ああ……可愛い可愛い私のイリーシャ……』


 そこでビアンカの録音魔法(レコーダー)は一旦解除された。

 これこそが反対に殿下とイリーシャが浮気をしていた証拠である。


「これは数日前、殿下がリセット家にやってきた時の記録です。さすがの殿下もまさかこの会話を忘れているとは仰いませんよね?」

「うく……ぐ……」


 ビアンカの言葉にエルヴィン殿下は何も言い返せずにいる。


「更に言わせてもらえばイリーシャ様はアメリア様を亡き者にしようと画策もされておりました。この紅茶です。これはイリーシャ様からアメリア様にと送られた毒入りの茶葉でございます」


 と、最後にビアンカがその証拠を見せつける。

 これで私たちが出せるカードは全て提示した。もはや十分すぎるだろう。

 唯一引っ掛かる点があるとすれば殿下の言葉だ。

 殿下とイリーシャの会話の記録から見てもわかるが、殿下は()()()()()()()()()()

 という事は、浮気のあの映像はでっちあげではないという事になる。

 私はてっきり殿下たちが浮気現場をなんらかの細工をして作り上げたものだと思っていたのだが、それだけがいまだにわからない。

 とはいえ、ここまでエルヴィン殿下の不貞が晒されれば、もはや彼に勝ち目は無いでしょうね。


「さあ、殿下、イリーシャ、お答えください。私の浮気は嘘である事、逆に浮気をしていたのはあなたたちである事。そしてイリーシャ、あなたは私を殺そうとした事を!」


 私が鼻息荒く殿下を指差し、そこまで言ったところで違和感に気づく。


「……あら?」


 イリーシャがいない。


「殿下、イリーシャはどこです?」

「し、知らぬ!」


 そういえば結構前から姿を見ていない。

 イリーシャの行方は気になるけれど、今はまず殿下だ。


「……ひとまず殿下の嘘や浮気、認めてくださいますよね?」

「そ、そんなもの、いくらでも偽造できるかもしれん! 私は信じぬぞ!」


 この後に及んでなんという浅ましさだろうか。録音魔法(レコーダー)は殿下の記憶具現化魔法(リアライゼーション)と法的にも同等の信憑性がある事を十分ご存じの癖して。

 と、そんな風に私たちが呆れていると、


「そ、それに私はもう疲れた! 今日のところは部屋に帰らせてもらう!」

「え!? ちょ、ちょっとお待ちください殿下!」


 エルヴィン殿下は私の質問に一切答える事なく、踵を返して大ホールから逃げるように出て行ってしまった。


「おい、待たぬかエルヴィン! 私も聞きたい事が山ほどあるぞ!」


 国王陛下も彼を追いかける。


「私たちも追いかけよう。今、彼を逃しては駄目だ!」


 クロノス様がそう言うと、


「いや、待てクロノス。お前たちは彼の不貞行為に関する内容の証拠をすでに十分押さえた。どのみちエルヴィン殿下の断罪は免れないであろう。あとは私たちに任せなさい」


 お父上であられる宰相、カイロス様が諭すように私たちに言った。


「なぁに、あとは我々大人が対処する問題だ。キミたちの事は悪いようにはしないから安心しておきなさい」


 私とクロノス様はコクンと頷き、今後の全てをカイロス様に委ねる事に決めた。

 



        ●○●○●




 ――王宮の最上階のバルコニーにて。


 パーティは中断され、今日はあのエルヴィン殿下の断罪を最後にお開きとなった。

 私たちは勝利の余韻を王宮のバルコニーで夜風に当たりながら噛み締めていた。

 国王陛下とカイロス様の計らいによって、私たちの殿下への不敬罪は当然無しとなり、更にはエルヴィン殿下との事が落ち着くまで王宮で過ごしても良いと(めい)が出た。

 私とクロノス様、それにビアンカもこのままうやむやになってしまうのは納得がいかなかったので、陛下たちのご配慮をありがたく頂戴し、今晩は王宮の空室を借りて休む事にしたのである。

 私の父と母は私には一瞥もくれずにそそくさと王宮から出て行った。もうあの人らにとって私は他人なのだろう。でもそれで良い。私ももはや彼らの事など親だとは思っていない。


「少しは落ち着いたか、アメリア」

「ええ。まだ完全に全てが解決したわけではないけれど……」

「そうだな。殿下の真意も気になるし、イリーシャもどこへ雲隠れしてしまったのか」


 あの後、エルヴィン殿下は自室に鍵を掛け引き篭もってしまい、イリーシャは王宮から姿を消してしまっていた。

 国王陛下はイリーシャ捜索の指示を騎士団にくだし、エルヴィン殿下については少し時間を置いてからまた確認する事となったのである。


「殿下はいったいどこで私の浮気現場を見たんでしょう。彼の言い方だと私が浮気をしていたのはまるで事実だと言わんばかりでしたわ」

「うむ、確かに。あの映像は作り物ではないのかもしれない。が、しかしそれでもやはりアメリアが浮気なんてするはずがない。それはこの私が一番よく知っている」

「ありがとう……ございますわ……」


 私はそう返しながらも、残る不安感が拭えずにいた。

 そんな私の気を紛らわそうと彼は次々と話題を変え、これまで話した事のないクロノス様の魔法や夢についてのお話をしてくれた。


「私は父と同じく、この国の宰相になりたいんだ」


 彼のお父様は彼が世界で最も尊敬すべき人で、彼もお父様のようになりたいのだとか。

 しかし彼には宰相向きの魔法を習得できなかった事を悔やんでいる事も語ってくれた。


「私にもビアンカさんのような魔法や、その他執務にとって役立つ魔法が扱えればよかったんだけどね。残念ながら私が習得した魔法は『分析(アナライズ)』という、なんとも執務的には微妙な魔法を覚えてしまった」


 分析(アナライズ)はその名前の通り、対象について調べる事ができる身体強化(サポーター)系に属する魔法だ。これを対象に掛けると、その対象が今どういう状態なのかを知る事ができる。

 しかしこれは生物にしか掛ける事ができず、しかも得れる情報はごく当たり前の事しかわからない。

 例えば、クロノス様が私に分析(アナライズ)を掛けた場合、私の性別、年齢、健康状態、精神状態、魔力状態などを知る事ができるが、それぐらいの情報しか得る事はできない。

 諜報活動や未知の魔物討伐、戦争時における斥候などなら非常に役に立つ魔法だが、執務的な職を目指す者にとっては職の面接官か保健医として健診をするぐらいでしか使い道はない。

 おそらく最もこの魔法が役立つ職種はそれこそ医師だろう。

 この世には『魔法医』という職種がある。外科医と内科医よりも遥かに難度の高い職種ゆえ、就く事は非常に難しい。が、クロノス様ほどの頭脳があれば、そっちを目指すべきだと私は思った。


「私にもビアンカさんと同じ録音魔法(レコーダー)が使えたら、と何度も思った事か。しかし魔法は覚えられる系統が決まっている。分析(アナライズ)身体強化(サポーター)系魔法に属しているから、おそらく私は今後も身体強化(サポーター)系に関する魔法しか覚えられないだろう」

「それでもクロノス様なら、どんなお仕事でも全てそつなくお上手にこなしてしまうと思いますわ!」


 多少のドジは繰り返すでしょうけれどね。と、内心でくすくすと笑った。


「ふふ、ありがとうアメリア。ところで少し喉が渇いただろう? ジュースでも取ってこよう」


 クロノス様が気を使ってそう言ってくれた。

 本当に彼には救われている。


 そうだ。ひとまず私への悪評はこれでほとんど解消されたはずだ。

 これからはクロノス様との将来を考えよう。

 私は勝った。自分の運命を大きく変え、ついにこの未来に辿り着いたのだ。

 そう、勝利の余韻を噛み締める。


 そんな風に私が気持ちを切り替えようとした時。

 カチャン、と物音がして背後に気配を感じる。


「あら? 随分早かったんですのねクロノス様」


 クロノス様が戻られたのだと思い振り返ろうとした瞬間。


「――え?」


 ドンッと、勢いよく背を押され、気づけば私は屋上のバルコニーから落とされていた。


 いったい誰!?


 私は落下しながら私を突き落とした犯人を見上げる。

 闇夜の中、一瞬だけ差した月の光がその顔を半分だけ照らした。


 そして私は最後に信じられないものを見た。

 

「う……そ……」


 その犯人は私を支え続けてくれた銀髪の彼。

 そう、クロノス様だったのである。


 嘘だ嘘だ嘘だ。

 彼が私を手に掛けるなんてそんな事……。

 遠ざかる彼の口元は薄らと笑みを浮かべている。


 そんな……彼がまさか……。

 いや、でもそんな事ありえない。だって彼は……。

 それとも本当に……?


 様々な思惑が頭の中を巡るが、もう思考の海に身を委ねている時間はない。

 地面に激突するまであと僅か。

 そしてそのタイミングで現れた私のとっておき。




 巻き戻しのボタンを間髪入れずに押したのだった。






この作品をご一読いただき、ありがとうございます。


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誤字脱字報告や些細な感想まで全て受け付けておりますので、遠慮なく頂ければ幸いです。

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