12 学院祭の終わり。近づく真相。
秋の学院祭は特に大きな事件が起こる事もなく、恒例通り無事ダンスパーティは盛大に幕を下ろし、冬に向けて皆装いを変え始めた頃。ようやく私にとって、とても重要な情報を得る事ができた――。
大きな事件はなかったものの学院祭ではやはりそれなりに大騒ぎになるような出来事はいくつか起きた。
結局私は適当な男子とパートナーを組み、クロノス様はレイラとペアを組んで踊った。
実は私は学院祭の始まる前日まで、もの凄い不機嫌で過ごしていた。何故ならクロノス様が学院祭のダンスパートナーがすでに決まっていると言っていたからだ。
学院内では彼と接触しないようにしているので、その真相を聞き出す機会が中々訪ずれず、また、クロノス様の部屋にビアンカと共に集まる日もなかった為、私はこの数日間ずっと心がざわついていたのだが、それは学院祭の始まる前日にあっさりと解消された。
「アメリア。アリア・テイラーとしてで良いからどうか明日の学院祭では私と踊って欲しい」
と、学院の中庭で、私が独りでいるタイミングを見計らって突然駆け寄ってきたクロノス様が息を切らしながらそう告げてきたのである。
どうやらクロノス様は元から私とペアを組むつもりで、すでに相手は決まっている、と言っていたらしい。
それを聞いた私は目を丸くして、思わず顔を紅潮とさせてしまったが、その場ではわざとらしく「お断りします」と言って、背を向けた。
クロノス様が慌てて困り始めたので、私はしばらくその様子を見て満足した後、ビアンカにも言われている通り学院内では私と極力接点がない方がいいからと普通に説得し直した。
そしてその時、ついでにひとつ妙案をクロノス様に提示した。
それはマリアとウィル様をパートナーにしてあげたいという事。
クロノス様からウィル様へ「Eクラスのマリアという子を誘ってあげて欲しい。必ず受けてくれるから」と伝えて欲しいと頼んだ。クロノス様はその通りウィル様に伝え、ウィル様はそれを快く引き受けてくれた。というかウィル様は壊れたように泣き叫んで歓喜したとか。
そのついでにクロノス様にはレイラを誘って欲しいと頼んだ。私としてもクロノス様に見知らぬ女とワルツを踊って欲しくなかったからだ。
レイラには私から、「実は私はクロノス様とお話しした事があって、その彼から相談を受けた。ウィル様もマリアを誘いたがっているけれど、ウィル様はひとりでマリアを誘うのが照れくさいみたいだからクロノス様と一緒にダンスのお誘いをしにきたいみたい」と、少々面倒くさい嘘を吐いた。
レイラはクロノス様の事は大して興味もないし今は意中の男子もいないから、マリアとウィル様の仲を取り持つ為にクロノス様と踊るのは全然構わないと言ってくれたが、当然、レイラからは「アリアさんが踊ればいいんじゃないの?」と聞かれたが、私はワルツが上手く踊れないから誰ともペアは組まないと言った。
実際まだワルツを上手く踊れないのだけれど。
その後、レイラはクロノス様と踊った事でEクラス内ではレイラのもとにクロノス様について色々と聞かれていたようで大変だったみたい。
レイラはマリアの為に引き受けたけど、もう二度とクロノス様には絡みたくないわ、周囲がうるさ過ぎてウンザリだと愚痴をこぼしていた。
そんなレイラだったからこそ、私はひと安心していたのだけれど。
さておき、マリアとウィル様については想像以上に大成功してしまった。
ウィル様がマリアを誘ってダンスを踊った後、彼は勢いに任せ、なんとマリアをそのまま大衆の前で口説き始めたのである。
「マリア・ブレンダ嬢! ダンスだけではなく、どうかこの俺の一生のパートナーになってくださいませんか!」
そんなあまりの勢いにマリアは赤面しつつ狼狽しながらも「はい」と頷いてしまった為、ウィル様とマリアは晴れて公認の仲となった。
クロノス様曰く、その日からウィル様のウザさが半端じゃなくなったそうだが、私とレイラもマリアからの惚気が想像以上に展開されていて、なんだかウザさ半分、祝福半分と言った感じになっていた。
「マリア……今日もキミは美人だね」
「いやだ、ウィル様ったら。レイラとアリアさんが隣で聞いていますわ」
「いいじゃないか。俺たちの幸せを彼女たちにもお裾分けしてあげよう」
「うふふ、ウィル様ったら」
と、休み時間の度にEクラスに来てはマリアとイチャコラし続けていて、私とレイラは頭がどうにかなりそうだったが、やはり親友が幸せそうなのは正直とても嬉しい。
良かったわね、マリア。
「……私はしばらくは固定パートナーはいらないわ」
レイラはウィル様とマリアを見ながら胸焼けでもしたかのようにオエって顔をしながら呆れていたけれど。
●○●○●
と、まあそんなこんなで学院祭が無事終わった次のお休みの日。クロノス様のお部屋にて、ビアンカを含めた定例会議が始まったのだが、ついに今回大きな情報を得たのである。
「アメリアお嬢様との婚約破棄はリスター王家とリセット家の両家にて、無事先日滞りなく正式に処理が済みました。それから間もない事でしたね」
ビアンカが冷静な表情で淡々と告げた。
「油断したのかついにボロを出した、という感じか」
クロノス様は言いつつ、眉間にシワを寄せる。
今日は休日。
ビアンカがいつも通り私のメイクの修繕、洗浄をする為にクロノス様の寮部屋に私たちは集まっていた。
「イリーシャ……」
ビアンカから教えられた内容。それはイリーシャに関する様々な事実であった。
「しかしなるほど。イリーシャは殿下の婚約関係である事を発表する日が決まったからこそ、イリーシャはあれから学院で姿を見せなくなったのか」
クロノス様の言う通り、私がアメリアからアリア・テイラーとして学院に通い始めた頃ぐらいから生徒会副会長でもあるイリーシャは学院を休み始めた。それというのも、彼女が今度は殿下の婚約者となった為、お妃教育などに長い時間を費やす必要が増えたからだそうだ。
とは言うものの、私は以前それでも学院を休まず出席していたので、おそらく殿下かイリーシャの我が儘なのだろうなと思っている。
「でもこれでほぼ決定的です。イリーシャ様がアメリアお嬢様を陥れようとした事実は」
ビアンカが言った。
彼女は今もリセットのお屋敷で侍女として働いている。その傍らでイリーシャについての調査を秘密裏に進めてくれていたのである。
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