4 いざラブホテルへ
僕は帰宅後、約3時間ほどベッドの上で鎮座していた。
美化委員の活動の際、亜久里さんと話したことを思い返していたのだ。
どうやら僕は、亜久里さんとエッチができるらしい。
「ほ、ほほほ、本当に僕が亜久里さんと……」
考えただけでも息子が反応する。
亜久里さんの生まれたままの姿を妄想して一人でピーすることはこれまでに何回もあったけど、今日は今まで以上に妄想が鮮明だった。
我ながら気持ちの悪い顔をしていた。
その顔が真っ暗なスマホ画面に映っているのに気がつくと、一通の通知が現れた。
亜久里さんだ。
「今週の日曜日、予定ある?」
亜久里さんからの初めての連絡。
嬉しくて嬉しくて、すぐに既読をつけた。
予定?ありませんありません。
たしか邦隆と映画を見に行くような約束をしていた気がするけどうん、気のせいだ。
「ないです、と」
すぐに返信したからか、亜久里さんからの返信も速かった。
「じゃー日曜日に、××駅の前に来て」
「分かりました、と」
僕は返信を終えると、スマホを胸元でぎゅっと握った。
これは夢じゃない。夢じゃなくて、現実なのだ。僕はついに童貞を卒業できるのだ。それも大好きな人で。
動機は不純だけど僕としては願ってもない状況だった。
さて、日曜日だとまだ日にちがある。
これからどうしようか。
無意識に開いたエロサイトと無意識にパンツを脱いで下半身露出状態の僕は非常に悩ましかった。
できれば最高のコンディションで亜久里さんとのエッチに臨みたい。
「我慢しよう、もったいない」
ギンギンに盛る息子の世話を、僕は数日間放棄することに決めた。ということはもちろん、人一倍性欲の強い僕はその日から全く眠ることができなくなった。
「……クマやばくね?」
学校に着くと、邦隆が僕の目を見てそう言った。
鏡を見なくても分かる。今の自分の目はきっと血走っているだろうし、頬だってこけているはずだ。
「ちょっと眠れなかったんだよね」
「最近おかしくね?そんなにショックだったのかよ亜久里さんのこと」
「いや、それはもう別に……最近始めたエロゲーが面白くってさ」
僕はふと黒板に書かれた日付を見る。
今日は水曜日、つまり亜久里さんとのエッチまであと5日あることになる。
無意識に視線が亜久里さんへと向けられる。
金色の横髪を耳にかける仕草、第二ボタンまで無造作に開いた胸元、足を組んでスカートから露出する白い太もも。
「ううう……」
視覚的刺激によって勃起してしまうのを必死に抑えた。我慢しているせいか、いつもよりも敏感だった。
「お前、ほんとに大丈夫かよ」
木曜日。
今日は体育があった。
いつも疑問に思うんだけど、体操服ってなんであんなに下着が透けやすいんだろ。てか、なんであんなに体の線がくっきりと現れるんだろ。
亜久里さんは、今日も破壊的だった。
汗を拭ってふと僕と目が合うと、ウインクをされた。
邦隆と柔軟をしていた僕は、あっという間に勃起しそうになった。
「ううう……」
「どうしたどうした」
金曜日。
今日はいつも食堂でとる昼食を教室で取ることにした。弁当を持参して邦隆と一緒に食事をとった。
亜久里さんは友達と一緒に机を囲んでご飯を食べていた。
卵焼きを一つ、トマトを一つ、ただそれだけの所作がとても鮮烈で、僕の股間は限界寸前にまで陥っていた。
「ううう……」
「お前どうし……もういいよ」
土曜日。
1日がとても長く感じた。
学校の課題をしようにも脳内で亜久里さんがチラついて全く集中できなくて。息抜きにエロサイトを開こうものなら僕の理性が全力で邪魔をした。
あと1日、あと1日を乗り越えれば亜久里さんと念願のエッチ。
それなのにここで誘惑に負けてたまるかと必死に我慢した。
気分転換に近所の公園に行った。一人でブランコを何時間もした。我慢に我慢を重ねた僕の顔は非常に気持ち悪く、側から見れば受験勉強やらで気が狂ってしまったやつだと思われていただろう。
さっきまで遊んでいた子供たちは軒並み親に連れられて消えていった。
ご飯も味がしなかった。無味だった。
寝る前に僕は座禅をした。煩悩を取り払うためだ。無意味だった。
そして、いざ勝負の日曜日。
この日の僕は一味違うかった。
目がキリッと立ち、来る決戦へ向け闘志を燃え上がらせるジャンプ主人公のような面持ちだった。
シャワーを浴びて全身を清める。特に息子との対話を忘れず汚れ一つなく浄化する。
次に歯を念入りに磨き、ホワイトニング直後の某有名野球監督ビッグボスを彷彿とさせる白さを見せた。
髪も慣れないながらセットして、服も無難に高校生らしく。
いざ、ラブホテルへ。
「……行ってきます」
照りつける太陽が、僕を容赦なく焦がした。
額からは汗が流れ落ち、地面に染みを作った。
目的地までは電車で20分くらい。
亜久里さんとのエッチのために、僕は歩みを止めなかった。
電車に乗り込むと気のせいだろうか。
電車内は全く混んでないのに、僕の座る席の周りにはまるで人が寄ってこない。
みんながみんな、僕を避けるように逃げていくのだ。
それもそのはず、今日で何連勤目だよと言わんばかりのガンぎまった目。その下の黒いクマ。亜久里さんのことで頭いっぱいになって薬中毒のように独り言をベラベラと喋る。
今の僕に近寄る人間はよっぽどの物好きか、ドMかのどちらかだろう。
僕は楽しみで仕方なかったのだ。
集合時間よりもかなり早く駅前に到着。
待ち合わせ場所に立っていると、やはり電車に乗っていた時のように周りの人がすぐ逃げていった。
気にしない。というよりも眼中にない。
「はぁはぁはぁはぁ、ヤバいちょっと興奮しすぎ……」
股間が痛くなるほどに勃起していた。
僕は今からこの性欲の塊みたいなモノを亜久里さんの中にぶちまけるんだ……。そう思うだけで、心臓の鼓動が激しくなる。
「落ち着け、落ち着け……ふーふー」
「おはよ!」
バシッ!と背中を勢いよく叩かれた。
「……!?」
振り返るとそこには亜久里さんがいた。
「待った?」
いつもの制服姿とは違って、デニム生地のショートパンツからはスラリとした長い脚が伸びており、上はTシャツに短めのパーカーを羽織っている。
彼女にとってはラフで適当な服に分類されるのだろう。
でも僕にとっては好きな人の初めての私服なわけで、全く直視することができなかった。
「い、いや全然」
「何時から来てたの?」
「集合の1時間前くらい……」
「めっちゃはやいじゃん。まじめかよー」
亜久里さんはケラケラと笑った。
「じゃあ行こっか」
亜久里さんに手を引かれて、恥ずかしいながらも歩き始めた。
側から見れば恋人に見えるのかなぁとか思いつつ、握られた手に分かりやすく動揺するのだった。