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4 美術部の部長


ずかずかと下級生の教室にも関わらず、まるで不良のような勢いと形相で先輩は僕の席へと向かってくる。


「高橋、お前なぜここ最近美術部の方に顔を出さないんだ」


どん、と机を大きく叩く。


「ちょ、ちょっと先輩……みんなの目もありますから落ち着いて」


「一向に気にしない!」


「僕が気にしますって」


あまり目立たないように学校生活を送ってきたが今この現状、朝の登校時間もあってか好奇の視線が僕の胸を貫いていた。


『見ろよ、あれが噂のロリ先輩だぜ』

『きゃ〜ちっさくて可愛い』


先輩は高校3年生にもなって身長が140センチととても小柄だ。声も上ずっていて高く、容姿も幼く見える。


そのためか本人は舐められないようにと口調を荒くし、無い胸を張っているわけだがかえって可愛らしく微笑ましく思えてしまう。


そのような佐々木先輩は高校ではちょっとした有名人でもあった。

他生徒の声から察するに『ロリ先輩』と不名誉な仇名をつけられているみたいだ。


「お前が最近部活に顔を出さなかったから、私はとても寂しかったのだぞ?」


先輩は悲しそうな面持ちで、潤んだ瞳を見せる。


美術部は僕と先輩の二人しか部員がいない。

喋り相手がいなかったことが先輩は嫌だったのだろう。


言い訳をしようと思えばできる。

部活に行けていなかった理由はもちろん亜久里さんのことで頭と心がいっぱいになっていて、そんな余裕が無かったのだ。


だが、僕は唯一まともに話せる先輩に寂しい思いをさせてしまったことには深く反省した。

こんな僕でも必要としてくれる人がいるのだから、大事にしなくてはならない。


「すいません先輩。最近ちょっと忙しくて……」


「私よりも大事な用があるというのか?」


「いや、まあ……」


大好きな人とエッチしようとしたなんて口が裂けても言えない。ましてやその人が先輩の後方に座っている亜久里さんだということも。


「なんだ、はっきりしろ!……ま、まさか女か?根暗陰キャコミュ症の高橋に、女なのかぁー!?」


根暗陰キャコミュ症は余計だ、と思いながらクラスの生徒のくすくすと笑う声にもとうとう耐えきれなくなってきた。


邦隆は面白がるように僕と先輩の会話を聞いているだけで何も助けようとしてくれないし、このままでは羞恥で死んでしまう。


「先輩、すみません」


先輩の細く軽い体を抱えると


「な、何をする!?離せ離せ!」


じたばたと駄々をこねる子供のように騒ぐ先輩の気など知らずに、教室から退散することにした。


その道中、気になって亜久里さんの方を一瞥する。

まるで興味のないように携帯へと視線を落とし、神妙な面持ちだった。


何を考えているのか、何を思っているのかさっぱりわからない。

朝からうるさいな、とか思われてなければいいけど。


「はやく離せ!私はお前の先輩だぞ!偉いんだぞ、賢いんだぞ!」


「はいはい。今降ろしますから大人しくしてください」


教室を出た僕は人気のない場所に着くと、ゆっくりと先輩を降ろした。

こう今更感じることだが、先輩って本当に高校生だよね?


何も成長していない容姿に疑問が残る。


「……それで先輩。もう二度とと僕のクラスには来ないでくださいよ。あんな風に目立つの、あまり好きじゃないんです」


「お前がちゃんと部活に来ればよかった話だろう」


「そうですけど……とにかくもうやめてくださいね」


「うむ、了承した。私もお前の嫌がることはあまりしたくないからな」


僕は先輩にどうも気に入られているようで、反論もせず先輩は簡単に受け入れてくれた。


今思えば邦隆の次に喋れるようになった人って佐々木先輩なんだよな。

一人で美術部にいて、黙々と絵を描いている姿が様になっていて。


「さて、お前に聞きたいことがあるのだが」


「なんですか?」


「最近部活に来なかったのは彼女ができたからなのか?」


「彼女……ですか?」


彼女になってくれたらどれほど嬉しいことか。3回の土下座の末にきっぱりと告白を断られて。

かなり精神的にもきつい。


更には不甲斐ない僕を亜久里さんは頼りないとも言った。ここから挽回するには僕は何をしたらいいのだろう。


「……そんな大層なことじゃないですよ。でも、僕はしばらく部活に行けないかもしれません」


「どうしてだ!?私のことが嫌いか?」


「いやいや、そういうわけじゃないんです。ただ、今の僕にはやるべきことがあるような気がするんです」


亜久里さんの何か役に立つことがしたい。

余計なお世話、おせっかい。そんな風に虐げられるかもしれない。


だけどもうただ見ているだけの時間は終わったのだ。

亜久里さんの元カレ、あの大柄な男がこれからもし彼女を悲しませることがあったなら。


僕は非力ながらも力になりたいのだ。


「なんだかお前……1週間前とは別人のように思えるな。あんなにキョどっていたのに」


「色んな意味で深い経験をしましたから」


「色んな意味で深い経験……は!やっぱり女のなのか!?」


「どうですかね」


「なぜ濁す!?」


先輩は頬を膨らませ怒ったように僕を睨みつける。

そして何事もなかったかのように「まあ」と笑顔を見せて。


「高橋に何があったのかは知らないが、とりあえず応援しているぞ」


「はい、ありがとうございます」


「気が向いたらでいいから、いつでも美術室に来てくれよ。私はいつでもお前を待っているからな」


先輩は僕に背を向けると、小さく手を振りながら去って行った。



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