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第1.5章 ー翠の灯火ー

あの日・・・。

オッサン・・・いや、オンジ総司令官がタチカゼに背後からカタナで刺されたあの日。

あの日を境に状況は一変した。

 

あたし達はすぐ本部から救護隊を呼び、姫様やシンラと共に本部のあるイグニカを目指した。

オンジ総司・・・あーもうめんどくさいからいいや!オッサンにはすぐ様緊急手術が行われた。


今まではオッサンが、本部にいる総司令官のフリをしてた副総司令官に作戦の指示を出してそれを隊員達に伝えるって形で作戦を実行してたらしい。ま、あたし達も騙されてたって訳だ。とは言え『敵を騙すにはまず味方から』って言葉もあるからね・・・しょうがないさね。


ただ突然の総司令官がいなくなったせいで指令系統は大混乱だった。それでも副司令官・・・

あ、名前は『グンカン』ってんだけど。そのグンカン副司令の頑張りのおかげで指令系統は約1ヵ月

でほぼ正常に機能するまで回復したんだ。さすがオッサンが影武者として変わりを頼んだだけはあるね!

だけどその1ヵ月の間にイド帝国から大量のニンゲンヘイキが投入された。戦争は更に激しさを

増していった・・・イド帝国に完全に主導権を握られたまま。


############################


イド帝国とライカ自由自治区の国境の守りはだいぶ薄くなってしまった。

国境線上にはいくつかの普通の街に偽装した攻撃用要塞都市が何個かあった。だがこの1つきの間で3つの都市が機能不全となり、帝国軍がだいぶ進行しやすくなっちまった。

そして、あたし達『蒼の風』のメンバーもライカの国中をニンゲンヘイキを追いかけ西へ東へ、はたまた北へ南へと毎日大移動をしいられてるって訳。

今日はサルトビの頭領代行と東南にある、ラプタという村を目指していた。


「あークソ、遠いな!」サルトビは汗を拭いながら呟いた。

「でも、あとちょっとスよ!急ぎましょう、頭領」

「サルトビでいいよ、その頭領って言われるのはしっくりこねぇ!」

「知ってますよ、サルトビ頭領!」とセツナは冗談を真顔で返した。

「お前なぁー・・・」

「そんな事より、村見えて来ましたよサルトビ頭領!」

「クッ・・・とにかく急ぐぞ!!」


サルトビとセツナは走る速度を上げ、村へと猛ダッシュをした。


#############################


村にはもうニンゲンヘイキはいなかった・・・。

ただただ・・・損壊した家屋、炎を天までほとばしらせ燃え上がる家畜小屋、巨大なクレーターのような穴の出来た畑、泣き続ける子供、動かなくなった子供を抱きかかえ茫然とする母親・・・

そこには地獄という言葉がしっくりくる光景が広がっていた。


「クソ!!!…間に合わなかった…」


サルトビは膝を付いて地面を拳で叩いた。


それから少し遅れて一般分隊と救護班が到着した。


「はぁ、はぁ…す、すいません!やはりお2人のスピードには…はぁ、はぁ…付いていけず…」

「そんなのいいから村人の救出と救護を!早く!!」


セツナが一喝隊員たちに言った。それを合図にバッと村の中に入って行く。


サルトビとセツナも救援活動にまわった。

と、その時崩れた家屋の中から


『だ…誰…か…』


ほんとにかすかな声が聞こえた。

セツナの聴力がなければ聞き取れなかったであろう、最後の力で絞り出した声だった。


「サルトビ先輩!この家屋の中に!」


サルトビとセツナは崩れた家屋の中を慎重に進んでいく。

そして声の主はそこにいた。


「大丈夫かい!?」

 

セツナが声をかける。その少年は苦しそうにうめき声をあげた。彼の腹部を柱に使われた木材が貫いていた。出血がひどい…。

サルトビがセツナの肩に手をかけた。


「…残念だが彼はもう…」


サルトビは顔を振る。そして腰に収めてあるナイフを出した。


「先輩、何を!?」


セツナはサルトビの腕を力強く掴んだ。


「せめて早く楽にしてやるのが慈悲ってもんだろ!?」

「うっ・・・それは・・・」セツナは言葉に詰まった。サルトビの言う事は正論そのものだった。

何か・・・何かないか!?とそれでも諦め切れずに思考を巡らす。

人間は脆いと改めて思う、これくらいならニンゲンヘイキなら死ぬ事はないだろう。

ニンゲンヘイキなら・・・?そうか!!

セツナは少年の横にひざまずいたサルトビから、バッとナイフを奪い取る。


「おい!!セツナいい加減に・・・!!」


セツナは自分の手首あたりを軽く切り、瀕死の少年の口から流れ出る血を飲ませた。


「な!?何してんだ、セツナ!?」

「アタシの血の中にあるナノキューブをこいつに飲ませる!もしかして、適応できるかもしれない!!」

「セツナ・・・あのなぁ・・・」

「分かってる!!自分がバカな事をしてるのは・・・だけど確率はゼロじゃないはず!!」


サルトビは被りを振った。


「・・・俺が言いたいのはそこじゃねぇよ・・・お前が今そいつを助ければ・・・きっとこれからすべての人間を助けなきゃならなくなる。誰も見捨てられなくなる。俺達だって万能じゃない!最初から

無理なんだよ、全員を助けるなんてな!割り切れるようになれ!!じゃなきゃいつかお前が壊れちまう・・・!」


セツナは一瞬、躊躇した。それはある意味で正論だったからだ。

それでも・・・と、セツナは少年に血を飲ませた。


「おい!!セツナ!!!」

「サルトビ先輩の言う通りです・・・でも、せめてこの目に映る範囲の人くらいは助けたい。

あたしも『あいつ』みたいにバカなんですよ・・・」


と、その瞬間少年はうめき声を上げ始めた。体中のあちこちからボコボコと立方体の塊が膨らんでは

沈んでいくを繰り返した。体温も上昇しているようだ。

セツナは少年の手を握った、ジュウという嫌な肉が焼ける音と臭いがした。


「お前生きたいんだろ!?だったら根性見せて、ナノキューブくらい制御してみせろよ!!」


さらに手を強く握るセツナ。すると徐々に立方体の膨らみが抑えられていき、顔にも赤みが戻ってきた。


「・・・まじかよ・・・適合した・・・のか!?」


サルトビは驚嘆の声をあげた。そんなサルトビをみながら


「な!結構起きるもんなんすよ、奇跡ってのは!」


得意げな顔をしてセツナは少年の顔見た。

先程までの苦し気なうめき声は消え、穏やかな顔で少年は眠っていた。






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