第21話 アテナ
アマンの街からの帰り道。馬車の中でアネモイが口を開く。
「そういえば、私たちを封印したのが正方教であるということは今後、気を付けなければいけませんね~」
確かにそうだ。封印が解けたと分かれば再度封印し直しに来るだろう。
俺はアネモイにすでにセインの街で噂が立っていることを話した。
「なるほど~。ではあまり長く滞在しない方がいいですね~。情報を嗅ぎつけられる前に出発しないと」
「そうだな」
俺は先日の戦いを思い出す。そういえば相手の兵士はみんな同じ鎧だった。
「なぁアネモイ、正方教の兵士を見分ける方法とかあるのか?」
「ありますよ。鎧に十字架のマークが描かれています」
「十字架があいつらのシンボルなんだよねー」
つまり俺は十字架をみたら吸血鬼のごとく逃げればいいんだな。オッケー、オッケー。
「やっぱり自分の家が一番だな!」
帰りもやはり2日馬車に揺られ、腰が悲鳴を上げているので今日は家で休ませてもらっている。騒がしい奴らは買い出しに行っているからこうして1人のんびりできるという訳だ。
「すみませーん!」
ん、来客か? 珍しいな。俺は痛い腰を上げ、ドアを開けに向かう。
「はい、どちら様でしょうか?」
ドアの向こうにいたのは10歳くらいの男の子だった。何やら慌てているようだ。
「どうしたの?」
「あのね、向こうで人が倒れてるの! 助けてあげて!」
なんだって!? 病気か? 事件か? とにかく急がないと!
男の子に案内され、現場に向かうとそこには前の世界でいうと高校生くらいの少女がうつぶせで倒れていた。剣を携え、鎧と赤いマントを身にまとっている。
「おい、大丈夫か!」
「……うーん」
肩を叩くと反応があった。少女が顔を上げ、こちらを見る。
肩のところで切り揃えられた亜麻色の髪とまだ幼さの残る整った顔。その格好とは結び付かない愛らしい姿だ。
「病気か? 怪我か?」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「……お腹すいた」
んん?
「お腹が空いて動けないんだ」
彼女は少し顔を赤らめながらそう告げた。
「なら僕が家から何か持ってくるよ」
「それはだめだ。強き者は弱き者を守る責務がある。逆に施されていては示しがつかん」
「でも……」
彼女は少年に優しく語り掛ける。
「君の優しさを否定するつもりはない。ただ、私には曲げられない信条があるのだ」
彼女はゆっくりと立ち上がり、心配そうに見つめる少年の頭をなでる。
「心配ない。その辺のイノシシでも捕まえて食べるさ」
なんかすごい野性的なこと言ってるけど!?
「じゃあな。そこの男も心配してくれてありがとう。……ぐっ!腹の古傷がっ!」
彼女は腹を抱えて倒れこむ。
「おい、俺の家こいよ」
「だから私には曲げられない信条が……」
「俺はお前より強い! だから大丈夫だ」
「は? そんな屁理屈が通用すると……」
俺は彼女の言葉を最後まで聞かずに両脇に手を入れ、家まで引きずる。
「待って待って! 分かったから引きずらないでー!」
「うむ。流石にこれ以上は俺も運べん」
もう腕が限界である。
「絶対私の方が強いと思ってたけど、ほんとに弱いな君!」
「すぐそこだからあとは自分で歩いてくれ。肩ぐらいなら貸せる」
いつもの5倍くらい時間をかけて家に戻った。
さて、まだあいつらが買い出しから戻ってないからあんまり食材がないな。朝の残りのご飯と旅に持っていって余った干物くらいか。
今はヘスティアがいないので暖炉から火を拝借する。水を沸騰させ、ご飯と骨を取ってほぐした干物を投入。あとは適当に調味料と薬味をぶち込んで雑炊の完成だ。
「ほれ、余りもので悪いな」
食卓で今にも死にそうになっている彼女に雑炊を出す。
「頂きます。パクッ、……。パクッ、……。……。」
一心不乱に食べ進めていく。そして1分もかからずに平らげてしまった。食べ終わった彼女はこちらを見てモジモジしている。
「その……、なんというか……」
「はいはい、おかわりね」
「……すまない」
もう1杯出してやる。
「今度はゆっくり食えよ」
「ああ、ありがとう」
「そういえばなんで倒れてたんだよ」
「ああ、山脈を越えてきたのだが途中で財布を落としてしまってな。あ、この食事代は後日必ず支払うから安心してくれ」
「別に残り物だからいいけどね」
美味しそうに雑炊を口に運ぶ彼女を見ているとこちらも嬉しくなる。
「っていうか食べる時ぐらいマント脱いだら?」
「モゴモゴ(そうだな)」
彼女はマントを脱ぎ、椅子に掛ける。
「そういえばさっき引きずっちゃったけどマント大丈夫か?」
すると彼女は少し恨めしそうにこちらを見て、
「大丈夫、とは言い難いな。まあ、でも旅の途中で傷つかないようにずっと裏返していたから大丈夫だ」
と言った。
「裏? 表に何か書いてあるのか?」
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。私は正方教騎士団で副団長を務めているアテナだ。よろしく」
アテナが裏返したマントの表には十字架がしっかりと描かれていた。
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