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苦手な方はご注意ください。

きぐるみ族サメ丸奮闘記録 対クラーケン編

作者: 針機狼

 潮風が吹き荒ぶ港町、本来は活気で満ちている筈のこの町は今、どんよりとした暗い空

気が町中を覆っている。



 港には停泊した漁船や貨物船が海に出る事無く並んでいる、その光景はある意味壮観で、

船好きが観れば間違いなく喜ぶ光景ではあるのだろうが



 町の人達は唯々重い空気の中、漁師達は他にする事も無いといった様子で、昼間から酒

を呷りながらカードとサイコロを片手に、銅貨や銀貨等の硬貨や今日の昼飯を掛けて遊ん

でいる。



 その様子を観光客は期待外れといった様子で呆然と海を眺めて、店の売り子は漁師達を

商売の邪魔と言いながら、シッシ、と手で払い除けている。



 本来のこの町では有り得ない光景が広がる中、町の入口から現れた何かの人影らしき物

に注目が集まっていた。



 人々は「初めて見た」だとか、「触り心地が良さそう」だとか、「腰に付けているのは

何だろう」等、様々な意見をその人影に向かい口々に呟きながら、それに視線を奪われて

いた。



 亜人種が集まって出来たこの国、獣王国レオナールでは人間以外の種族が訪れる事は珍

しい事も無い、まして多種多様な旅行客等、町の人達からすればもはや見飽きたものでは

あるのだが、滅多に人前に出る事の無いヘンテコ謎生物、生物?が町中を堂々と闊歩して

いれば嫌でも目がいくというもの。



 平均的な人間の背丈より少しばかり小さく、小柄ながらがっしりとした太い胴体、触り

心地が良さそうな毛並みが日に当たることで抱き着けばお日様の香りでもしそうな生地の

肌、それに縫い付けられたガシャガシャと派手に音を鳴らす鉄紺とも呼ばれる緑を帯びた

暗い青色の鎧を纏い、腰には深く渋い赤色の目立つ鞘を腰に下げている。



 異世界からやって来たといわれている刀と呼ばれるその武器や同じ世界から来た鎧を身

に纏うものだから余計に目立っている。



 まるで海を泳ぐ鮫をデフォルトにしたような見た目の生き物、生き物?は一直線に町の

中央付近を目指し不自然に生えた両足をつかいドカドカと町中を歩いている。



 ******



「たのもー」



 その言葉と共にバッと冒険者組合所の両扉を勢いよく開いてズカズカと入って行く。



 組合所に居た冒険者達は一斉にこちらを見て、在り得ないものを見たかの様な目でこち

らじっと見ている。



 もう既に慣れているその視線を無視して横を通り抜けて組合所の受付に向かう。



 受付の人間は驚いた様子でこちらに目を向けている。



「中央から派遣されてクラーケン退治の依頼を受けに来た、サメ丸だ、早速だが船の手配

をしてくれないか」



 受付にこの町に来た目的を話、早速依頼に向かう為の船の手配を頼むのだが、受付の人



間はこちらの言葉にも耳を貸さずに「喋れるんだ」と呟いてじっとこちらを見ている



「おい、聞いているのか」



 ドンと右手のヒレで受付の机を叩くと受付の人間は息を吹き返した様に返事をした。



「ハッ、中央から派遣とおっしゃられていましたよね、失礼ですが冒険者カードを見せて

貰えますでしょうか」



 右手のヒレを開いた口の中に突っ込んで、指示通りに冒険者カードを取り出し受付に手

渡そうとするのだが、何故か受け取ってくれない。



「どうしたんだ?何故受け取ろうとしないのだ」


「あっ、いえ、拝見させて頂きます」



 冒険者カードを受け取った受付の人間は丁寧に隅々まで冒険者カードを触りホット息を

吐き胸を撫でおろす。



「なんだ、もしや偽物だと疑っていたのか」


「いえ、口から取り出されたので体液とか付着していたら嫌だなと思いまして」



 笑顔でそんな事を本人を前にして言ってた、随分と失礼な人間だな



「えっと、サメ丸様、適正、刀、水泳、潜水。捕食、それからBランク、え、Bランク」



 受付の人間は冒険者カードの内容を読み上げ、ランクを読んだ時に冒険者カードとこち

ら何度も見比べている。



「なんだ、きぐるみ族の冒険者がランクBであることに何か文句でもあるというつもりか」



 受付の人間に睨み付けてそう言って、自身の行動にハッとしてすぐさま睨むのをやめる。



 いかん、いかん、私はきぐるみ族の評判を上げる為に活動しているというのにこんな事

で騒ぎを起こして、評判を下げてしまったら今までの努力まで水の泡になってしまう。



 自身の過ちに気付き反省し、受付の人間に謝ろうとすると思わぬ言葉を言われた。



「文句なんてとんでもありません、まさかBランクの冒険者が来るとは思ってもいません

でしたので、先程は失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」



 こちらが謝ろうとしていたのに突然、受付の人間が態度を改めて逆に謝って来たものだ

から、こちらの謝るタイミングを見逃してしまった。



 組合所にいた他の冒険者達も先程までの受付との会話が聞こえていたらしく、先程から

「Bランクだと」や「きぐるみ族なめていた」とか「肌ざわり良さそうだな」とか口々に

していた。



「クラーケン退治の依頼でしたね、直地に船の手配をして来ますので組合所内でお待ち下

さい」



 冒険者カードを返してきた受付は、そう言って冒険者組合所を飛び出して行くと、組合

所内にいた冒険者達が周囲に群がってきた。



「あんた、クラーケン退治に来たって言っていたよな、俺達はあいつに手も足も出なかっ

たが、Bランクのあんたならもしかしたらあの生意気な蛸野郎を倒してくれ」


「違うだろ、蛸じゃ無くて烏賊だろ」



「どっちでも良いから、とにかくあいつを倒してくれ、この町にはCランクの冒険者まで

しかいないんだ、でもBランクに成れる程の実力があるあんたなら……」



 等など、色々と言って来る。



 この町の冒険者達が勝てなかった魔物を倒す事が出来れば、私の名声も一気に広まるの

では無いだろうか、きぐるみ族の評判を上げるには最適の状況の様に思えると同時に大き

な不安も生まれた、今までは地味な依頼をコツコツやってようやく先日、Bランクに昇進

したばかりなのだ、実力だけならCランクとたいして変わらない。



 この数の冒険者達が敵わなかった相手に、はたして今の私に倒すことが……、いや、弱

気になるなこれはチャンスなんだ、偉大なるマイスターに造られた私達の評判を上げるに

は絶好の機会じゃないか、ようやく意思を持つ生物として認められてきたのだ、この依頼

を達成すれば評判が上がって、それで村の皆にも私達は立派な種族なんだって自身を持っ

て貰うんだ、そうすればペンの助の奴もきっと私の事を認めてくれる筈なんだ。



 頬を両手のヒレで叩き気合を入れる。



「お、気合十分ってか、頼もしいね、景気付けに一勝負どうだい」



 そう言ってテーブルに座って賭け事をしていた冒険者の一人が話しかけてくる、テーブ

ルには先程外で、漁師達が遊んでいたカードとサイコロが置かれていた、周囲の冒険者達

Bランクの冒険者の幸運を観たいだのと言ってくる。



「それって、イベントカードだったっけ、悪いけどやらないよ、それに船の手配が済み次

第に出発するつもりだから」



 イベントカードとは、古くから獣王国の間で流行っている3枚の職業カードと20枚の

イベントカード、そして12面のサイコロを使って遊ぶカードゲームだ、私も村に居た頃

に同年代の同胞と良く遊んでいたものだ、今までは地方ルールというものがあったが、今

では多くの人々に楽しんで貰うために製作会社が標準のルールを作った。



 今では大陸全土で老若男女が楽しめるものになっている、サイコロを使う事で運により

有利不利が簡単に変わる事がギャンブルに通じる事もあり、中にはこの冒険者の様に賭け

事をしている者もいる、というか冒険者になって知ったがイベントカードをしている大人

は大抵賭け事をしているのが殆どだ。



 今は依頼の事で頭がいっぱいだ、特別な理由が無い限りはそんな事をするつもりは無い



「何だよ連れないな、折角最近追加された侍のマスターカードが手に入ったっていうのに

本物の侍がプレイしたら盛り上がると思ったんだけど」



 侍と言う言葉を聞いてピクリと立ち止まる、私は侍や、武士といったものには何でも興

味を示してしまう癖がある。



 勿論それは大好きという事もあるのだが、村に居た頃に異世界から流れ着いたそのての

書物を読んでいる時に、やたらと馬鹿にしてきた奴が居たのだ、そう、ペンの助である。



 ペンの助のせいで良くも悪くも侍や武士等の言葉にはいちいち反応してしまう様になっ

てしまった。



 毎日の様にからかって来るペンの助に痺れを切らしてつい言ってしまったのだ、「私が

侍の凄さを証明して見せる」と、当時は証明なんてどうすれば良いのか分からず取り敢え

ず刀を持って冒険者になったのだが、そこできぐるみ族の評判を耳にしてしまった。



 それからひたすらここまで頑張ってきぐるみ族の評価を上げてきたのだ、もう二度と

「中の人」など言わせてなるものか、子供の夢を奪うその言葉を根絶する為に



 当初の目的を再確認してどっしりと、カードの置いてあるテーブルの席に座る。



「なんだよ、やらないんじゃないのか」



「船の手配が終わるまでだ、早く侍のカードを渡したらどうだ」



 冒険者から受け取った侍のカードに描かれた絵柄には目を見張るものがある、この絵を

描いたものはきっと私と同じく侍の事が好きに違いない、細かい刀の装飾や髪型など村で

見ていた書物に描かれていたものとそっくりだ、愛を感じるね。



 侍の職業カードをテーブルの上に置き、20枚の山札から5枚のカードを引く、審判を

かって出た野次馬の一人が持っていたコインを投げる。



「表か、裏か」コインを投げた男が先攻後攻を決める為に落ちたコインを見せない様にし

ながら聞いて来る、私は表を選ぶ、男が塞いでいた手をのけるとコインは表を向いていた。



「サメ丸さんの先攻ですね、Bランクの冒険者さんの実力を見せて下さいよ」



 幸運が7割りのこのカードゲームでどうやって実力を見せろというのか



 自身の手番の最初に山札からカードを引けるかどうかを決める為にサイコロを振る、出

た目は6だった、偶数なので山札から1枚カードを引く。



 手札のカードから1枚を裏向きで伏せてカードが使えるかどうかを決める為に再びサイ

コロを振る、出た目は8、7から12の範囲に入っているので、伏せていたカードを表に

向ける、カードの種類はイベントカード、効果はサイコロを振って2,3,4を出せばマ

スターカードの装甲値を1点付与出来るというもの、再びサイコロを振る出目は5、残念

だがカードの効果は不発に終わり捨て札に置かれる。



 カードの効果が出なかった為、戦闘ターンになりサイコロを振る、出目は1,侍のマス

ターカードの攻撃成功値は3、6、9、11だが1は絶対成功の為、攻撃成功判定になる。



 侍のマスターカードの効果は攻撃成功時にもう一度サイコロを振り出目が攻撃成功値な

ら追加で2点のダメージを追加する効果だ、再度サイコロを振ると出目は3、侍の攻撃ダ

メージ1点にプラス2点をして合計3点の攻撃



 相手の冒険者は手札を1枚捨てて回避を宣言、サイコロを振ってマスターカードに書か

れている回避成功値の値が出れば回避成功だが、どうやら失敗したようだ。



 相手は山札からダメージ分のカードを引き捨て札に送る、これを交互に繰り返し先に山

札が尽きた方の敗北となる。



 イベントカードでは相手の山札を直接減らせる事が出来るのは攻撃に成功した場合のみ

しかない、逆にこちらは毎回手番の度にカードを1枚引くかどうかをサイコロで決める。 



 どちらも手番の度に敗北に近付いて行く緊張感がゲームの面白さを際立たせている様に

感じる。



 そして相手の手番に回り、冒険者がサイコロを振った直後、組合所の扉が勢いよく開く



「はぁ、はぁ、さ、サメ丸様船の手配が出来ました、いつでも出発出来ますよ」



 その言葉を聞いて持っていた手札をテーブルに置く



「何だよ、もう行っちまうのか、これからだっていうのに」


「船の手配が終わるまでと言っただろ、いい気分転換になったよ」



 そう言ってやると、冒険者はフフフと不敵に笑い「そりゃ良かった」と言って他の冒

険者達と同様に港に向かう私を見送ってくれた、後ろからは新たな英雄に乾杯と言う声

が聞こえて来る。



 何とも気の早い連中だ、そういう事はクラーケンを倒してからするものだろうに



 組合所受付の人間の案内で港へ向かっていると町の人達が次々に応援の言葉を送って

くる、「頼む、どうか、あの憎きクラーケンを倒してくれ」、「あんたには期待してる

ぜ」、「サメさんもふらせて」、次々と掛けられる声援が背中を押して自信をつけてく

れる様な気がして、面映ゆい気持ちと同時に元気が湧いてくる、声援に片手のヒレを振

って歩いて行く。



 港には何隻かの大型船が出港の準備をしていた、船には巨大な魚や海の魔物に立ち向

かう為のバリスタが幾つも備え付けられている、聞くところによるとクラーケンは、こ

の大型船の数倍も大きく、バリスタの射撃ですら怯みもせずに近付いた幾つもの船を沈

めて来たのだ、お陰で今年の漁業は大赤字だという。



 私が派遣された理由がここに来てようやく理解できた、近付いた船を簡単に沈めると

いうならそもそも海を泳ぎながら戦闘出来ないのであれば、どれだけ優れた冒険者とい

えども海に落ちてしまえば足手纏いにしかならないのだろう。



 その点私は水上であろうと地上と変わらぬ、いやそれ以上の速度で移動出来る



 きぐるみ族は他の種族と違い水中に居よう死ぬことは無い、我々の種族が死ぬときと

は、このきぐるみが修繕不可能なまで破壊された場合のみ、それに私の様な水棲生物を

模したきぐるみ族は水中の移動にアドバンテージを得る事が出来る、そしてクラーケン

退治に道場してくれるこの船員達に私の活躍を見せればきぐるみ族の名声も上がり、馬

鹿にする連中を黙らす事も出来るはず。



 今から乗り込む船を港で眺めている船員がこちらに話しかけてくる。



「組合の嬢ちゃん、ほんとにこいつがクラーケンを倒せるっていうのか、とてもそんな

凄い冒険者には見えないな、第一そいつBランク何だろ」


「そうだよ、どうせ派遣してくれるならAランクの冒険者をよこして欲しかったものだ

よ」


「こんな変なきぐるみなんか来ている奴なんか信用できねえよ、コスプレしている奴よ

こすんだったら有名なAランク冒険者のバニーちゃんを寄こせっての」


「そうだ、そうだ、バニーちゃんを寄こせ、週刊誌に載ってるあのナイスバディを拝ま

せろってんだ」



 こ、こいつら、随分と偉そうな連中だな、それから中の人をほのめかす事いったへら

へらしているそこのお前、顔覚えたからな後で痛い目に合わせてやろうか、と考えてい

ると船員達が突然背筋を伸ばし、奥の方から随分と立派な髭を生やした老人が歩いて来

た。



「お前がサメ丸とかいうやつか、お前に本当にあのクラーケンが倒せるのか」



 そう言って老人は訝しげな顔でこちらの目を見て来る。



「ああ、倒して見せるとも、私だって伊達で冒険者をしている訳じゃない、中央で私に

この依頼を任せてくれた私の師匠でもある、空の剣聖の名に誓って必ず、そのクラーケ

ンを倒す事約束する」



 強い言葉でそう言うと老人はにやりと口元に笑顔を作り頷いた



「良い啖呵だ、あの男の名前を出した以上、絶対に証明して見せろよ、野郎共、戦の準

備だ、あの大蛸を仕留めに行くぞ」



 老人の一言に船員達は、大きな声で了解と叫び急いで出向の用意に向かった、その光

景はまるで、軍隊や猟兵のようだ



「あの、おじいさん、さっきあの男って、もしかして師匠の知り合いなのですか」



 歩き始めた老人を呼び止めて、話を聴こうとすると



「無駄口叩いてないで早く準備しやがれ、あと10分で出るぞ」



 そう言って再び歩き出し、近くの船員達に活を居れる様に怒鳴り声で指示を出してい

る。



 準備といわれても戦闘になるまですることも無いので、装備の確認だけ済ませてその

まま大型船の1隻に乗り込む、愛用の刀は錆びない様に特殊ルーン文字を刻んでいるの

で潮風に吹かれても問題ない、身体の方も水棲生物を模したきぐるみ族は元々海等の水

中に耐えられる様にマイスターが作ってくれているから何の心配も無い。



 船員達の仕事もあの老人が口出ししてから驚くほどテキパキと作業をしているお陰で

船の上で私が手伝うことも無い、他にすることも無いので開けている口を閉じて外界の

雑音を遮断して瞑想をする。



 船員の1人がそれを目撃していたずら心でマーカーを持って近寄る。



 自身に近付く悪意を感じ取り、すぐさま口を開けて悪意の背後に回り込み、首元に刀

の刃を当てる。



 マーカを持っていた船員は自身の身に起きた事が理解出来ずに、え、と声を上げてマ

ーカを床に落とす、あろうことかそのマーカーは油性だった



「そのマーカで私に何をするつもりだったんだ」



 殺意を込めた言葉で船員に言い放つ



「ち、違うんだ、つい出来心だったんだ、わ、悪かった、謝る、謝るから殺さないでく

れ」


「人の身体に許可なくマーカーで落書きをしようとしていただと、良いだろう貴様余程

死にたいらしいな」


「遊びはその辺にしておけ」



 そのまま首を断ち切る直前で先程の老人が掛けた声で殺意で満ちていた頭が冷静にな

り、刀をしまい、船員を突き飛ばす。



「いいか、次やったらその首は無いものと思え」



 突き飛ばされ床に倒れた船員は恐怖の表情を浮かべている



「別に汚れてもスペアと交換すればすむだろ、なにを怒っているんだか」



 先程のやり取りを見ていた船員の1人が後ろからそんな事を言い出したので、その船

員に向かいギッと睨み返す。



「いいかよく聞け、我々きぐるみ族に中の人などいない、こいつみたいに馬鹿な真似を

する奴は自分の命を掛けてする事だな、あと私の中を覗こうとした奴も殺すから」



 大きな声ではっきりと隣に船にまで聞こえる様にそう言い放ち、再び瞑想を再開する。



 少しの間周囲に沈黙が訪れる、老人が再び作業を再開する様に船員に言って、また船

の上から静けさが消える。



 それ以降、私に悪意を持って近付く者は誰もいなかった。



 そして数分後に大型船数隻が出港した、港から「頑張れよ」等の応援の言葉が聞こえ

て来たので瞑想を中断して、船の上から手を振って見送りに返す。



 見送りの1人が弓を構えて一つの矢を船に向けて放つ、矢の先には矢じりの代わりに

粘着製の高い粘土のボールが付いている、矢文で使う用の矢だ



 矢は私のいる場所の付近に届いた、矢文を拾って括り付けられた物を見ると、先程冒

険者組合所で遊んだイベントカードで使うマスターカードの1枚だった、よく見ると弓

を放った人物は先程組合所での対戦者だった、冒険者は矢が届いた事を確認したらグッ

と親指を立てて見送ってくれた。



 届けられたカードは侍のカードだ、届かなかったらどうするつもりだったのだろうか、

おそらく持ち帰れという事なのだろう、まったく御節介な奴もいたものだ。



 カードを口から中に入れて、両手のヒレで頬を叩き気合を入れる



 ******



 出発から3時間程でクラーケンが出没すると言われている海域までやって来た、船全

体の空気がピリピリと張り付く、もうここからは何時、何処からクラーケンが触手を伸

ばして来るか分からない、それもこれもクラーケンはその巨体を隠す為、普段は深海ま

で潜っており、何故かクラーケンの周囲10キロ圏内ではソナーがまともに機能しない

のだ。



 ビューと吹き荒ぶ潮風が船員達の背筋を冷やし、バリスタを準備する手に冷たい汗が

流れる、中にはガクガクと足を震わせているものまでいる。



「お前ら、気合入れろ、今日こそ奴との戦いを終わらせるぞ」


「はい、船長」



 老人の一言に船員全員の顔から恐怖が消える、足を震わせていた船員もまるで一端の

戦士の様な顔をしている。



 そして長い沈黙が訪れる、海の波も今は穏やかで、潮風さえ吹き止み、まるで嵐の前

の静けさの様な気さえして来る。



 瞑想の最中、下から這いよって来る巨大な悪意が接近するのが感じられた。



『来る』



 老人とほぼ同時にそう言うと右前を進んでいた1隻から、ガシャンと大きな何かが壊

れる音が聞こえた、だがこちら側からは船は無事の様に見える。



 だがその船に載っていた船員が慌てて船を捨てて海に飛び込む様から何か大事が起き

た事は直ぐに理解出来た



 最後の1人が慌てて海に飛び込むと同時に、船体の殆どが鉄で造られていた筈の大型

船は何か見えない力で上から押しつぶされたかのように真ん中からグシャリとへこんで

いき、あっという間に紙を丸める様にあっさりと船は積まれていたバリスタや大砲ごと

鉄くずと化して、海中へと沈んで行き、入れ替わるかの様に巨大な影が海中から姿を表

した。



 それは、とてもこの世のものとは思えないほど醜悪な臭いを放ちテカテカと光る赤と

緑が混じった何とも言えない肌をさらしていた。



 奴の出現と同時に海中から無数の触手が現れる、にゅるにゅると吸盤の付いている蛸

の様な触手と、ヌメヌメと謎の液体を纏った烏賊の様な触手が入り混じる様に海面にあ

る奴の胴体の周囲をくねくねとくねらせて海面を漂わせている。



 蛸とも烏賊とも付かない海上に浮かぶ頭の周りには少なくとも12本の触手が漂い、

まだ姿を見せぬ触手が荒れ狂う海の底で日の光を反射している。



 先程気合をいれたばかりの船員も奴が船を沈めたのを目にして、びくびくと狼狽えて

いる。



「馬鹿野郎、怖気ついてんじゃねぇ、今日こそ奴を討つんだろうが、撃ち方用意」



 老人の言葉でハッとしたかの様に船員達が一斉にバリスタと大砲をクラーケンに向け

て砲撃の準備を初めている中、バン、と他の船員が発射の合図をする中で早まった船員

の1人がクラーケンに向かい砲弾を放った。



「馬鹿野郎、なにしてやがる」



 老人の怒号と共に、こちらの出方を窺っていたクラーケンは命中した砲弾をまるで効

かぬといった様子で煩わしそうに海に落とす、砲弾の当たった筈の場所は傷の一つすら

付いていない。



 クラーケンは触手の一本をこちらに向けて伸ばしてくる。



「やっぱり、あいつには何をしてもダメじゃないか」


「いやだ、死にたくない」



 それを見て取り乱す船員たち、中には無駄と知りながらも触手をどうにかしようと触

手に向かい無暗にバリスタを発射するものまでいる。



「取り乱すんじゃねぇ」



 老人は叫ぶがその声が聞こえていないのか多くの船員達は統率の無い行動をそれぞれ

取り続ける、そんな中唯1人向かって来る触手の前に経つ影があった、そう私だ。



 触手が船に到着する直前まで、深く息を吸いきぐるみの中に空気を取り込む、そして

取り込んだ空気に含まれる命の源を全身に取り込む。



 右手のヒレで刀の柄を握る、触手の到着まで、3、2,1,今だ、鞘から刀を引き抜

き弧を描く様に勢いよく空気中を斬り裂く、日が当たりエメラルドグリーンに輝く刃が

斬り裂いた場所を中心に一直線上に空気の刃が触手を縦に斬り裂いてゆく。



「風斬抜刀術三ノ型、真空斬」



 クラーケンは痛みを感じたように半分に斬り裂かれた触手を自身の元に引き戻し海中

の中に沈めた。



 まさに、かまいたちのような斬撃がクラーケンの触手を襲いその一本を引き裂いた事

を確認し、先程まで船で慌てていた船員たちは希望を手にした様に、浮かんでいた恐怖

の表情が次第に薄らいでいった。



「うぉぉぉぉ、斬った、クラーケンの触手を斬りやがった」


「勝てる、あのサメ野郎がいれば勝てる」



 船員たちは後ろから大きな声を上げている。



 冷静さを取り戻してきた船員たちは、老人の言葉にようやく気付き指示に従って、再

び一斉射撃の準備に取り掛かる。



 その様子を見て刀を再び鞘に仕舞い、クラーケンの周囲で生き永らえている海に落ち

た船員達の数を確認する。



「16、17、全部で18か」



 あのまま放っておいてクラーケンと戦闘を始めれば確実に数人は死人が出るだろう、

それどころか足手纏いになりかねない。



 海上に浮かんでいる船員の中には、私もとい、きぐるみ族を軽んじた発言をした者も

いる、正直そいつを助けたいとは思わないが、私の名声を、そしてきぐるみ族の評価を

上げる為には人助けも有効な手段だし、弱きを助けるのも侍の勤めと、あの本には書い

ていたしな。



「おじいさん、クラーケンの注意を引いてあいつらから遠ざけるから、後は頼んだよ」



 そう言って、きぐるみの口を閉じて潜水の準備を始める、おじいさんは察してくれた

のか救命道具の準備等を船員に命じた。



 準備が出来次第海に飛び込む、水棲生物を模したきぐるみ族は水中ではその水棲生物

の概念を得る事が出来る、私は今サメとしての概念を手に入れた、ようはあらゆる鮫に

出来ることは私にもできるのだ、これはきぐるみ族の最大の特徴と優位性である。



 海に入り次第全力で海面を泳ぐ船員の群れに突っ込む。



「さ、鮫だー」


「な、なんでこんなところに鮫がいるんだよ」


「いやだー、鮫に食われて死にたくないよー」



 船員が何故かパニックになり出した、海面に背びれを出していたからだろうか、海の

男を名乗る割りに肝が小さいというか



 半ば呆れつつも海の上を漂っていたり逃げようとしていた船員達の足を掴んで一ヶ所

に集める。



 数を数えて全員いる事を確認して、船の方に飛び跳ねて合図を出す。



 船の上から望遠鏡でこちらの様子を見ていたが船員が集めた海上に漂う船員達を確認

出来た様子を見てクラーケンの真後ろに向かう。



 目的の位置に辿り着き、標的を確認するとクラーケンはその巨体を引きずりながら船

の方へと海面を揺らしながら、ゆっくりとだが確実に向かって行っている、今度は複数

の触手とその巨体を使って船を押しつぶそうとしているようだった。



 海面から上半身を出して、きぐるみの口を開けて再び深く息を吸う、空気中に含まれ

る命の源を全身に巡らせて気を練る右手のヒレで柄を握り、わざと海中に刀を沈める。



 練った気を一息に解き放ち海中で鞘から引き抜いた刀で先程船の上でした様に、今度

は海水を巻き込んでクラーケン目掛けて真正面を斬り上げる。



「風斬抜刀術三ノ型、海断斬」



 文字通り海を断つかのごとく、クラーケン目掛けて斬り放たれた真空の刃は海水を巻

き上げて纏い海水の刃と化してクラーケンを襲う。



 まだ師匠には及ばないが先程、真空斬で触手を斬れたのを見るに、クラーケンを真っ

二つに出来ないとしても、十分なダメージを与えられる、そういった確信があった奴に

届くまでは



 海水の刃がクラーケンの背に届く直前にクラーケンの背後に突如、影が海面から浮上

した。



 影により海水の刃はクラーケンの背に届く前に防がれる、影はクラーケンの無数の触

手の一部だった、まるで攻撃を予期していたかのように複雑に絡ませた触手が盾の様に

攻撃を防いでいたのだ、触手の盾は真っ二つに斬り裂く事は出来ていたが、本体に届く

前に完全に威力を殺した様で本体の方は全くの無傷だったのだ。



 クラーケンは斬られた触手を海に沈めて、先程船に向かっていた速度とは比べ物にも

ならない速さでこちらに向き直り接近してきた。



 奴は理解していたのだ、私の奇襲を、そして先程の斬撃がそう何度も簡単には撃てな

い事さえも。



 急いできぐるみの口を閉めてクラーケンから離れようとするが一手遅かった、すでに

奴の触手はこちらの行く手を防ぐ様に囲いを作っており、逃げ口を塞がれていた。



「……っ」



 唇を噛み締める様に覚悟を決めて次々と襲い来る触手を海中で刀を振り斬り捨ててい

く、だが斬れども斬れども襲い来る触手が無くなる事は無かった。



 ふと視界の端に斬られて引っ込んだ触手の断面がブクブクと泡立つ様子が見えた、次

の瞬間まるで斬られた後等無かった様にニョキっと斬られた断面から新な触手が生えた。



 背筋がぞっとする悪寒が前肢のきぐるみの毛を逆立たせる、こいつは最初に触手を斬

られた際に海面に引っ込めた、それは使えなくなったから引っ込めたのだとすっかり思

わされていた。



 だが事実は違う、こいつは使えなくなったから引っ込めたんじゃ無い、再生するのを

見られない様にして、こちらが勝てると思い込ませる為に海面に沈めたのだ。



 思えば先程奴がこちらに向き直ってきた速度といい完全にこちらの意表を突くための

罠だったのだ。



 ガシッ、と足を捕まれた、触手が再生した様子を見ていまった為に一瞬身体が硬直し

てしまったからだ、そのまま次々と触手が身体に巻きついてくる。



 そしてこちらの口を無理やり開けようと閉めている口に無理やり触手を捻じ込み始め

る、そう簡単に口を開かせてやるつもりは無いが、こじ開けられるのも時間の問題だ。



 幸いクラーケンの注意はこちらに向いている、今ごろ海の上に漂っていた船員達を助

け終えた頃だろう、本当ならかっこよくクラーケンを倒した姿を見せて名声を得るつも

りだったのだけど



 あぁ、まさかこんな所で終わってしまうなんて



 意識が段々と薄れ掛けていき、過去の映像が映し出される、これが師匠から聞いた死

の間際に見る走馬灯というものなのかな。



 映し出された映像は生まれた時から、今にいたるまで見聞きしていた事が段々と写し

出されてゆく、マイスターに生み出して貰った記憶、ペンの助と言い争い時には仲直り

をしていた記憶、そして冒険者として活動し始めた時の記憶へと映像は流れゆく。



 ******



「おーい、サメ丸いい加減きぐるみなんて脱いだらどうだ、砂漠できぐるみは流石にき

ついだろ」



「そうよ、別に素顔がどんなのでも笑ったりしないから」



 依頼で砂漠を歩く中で冒険者が心配そうに、きぐるみを脱ぐように促してくる。



「なんども言って、いるだろう、私に中の人などいない、から、問題なんて無い」



 何度も足を砂にとられながらもそう答えながら先に進む。

 この冒険者達とパーティを組んで半年になるというのに全くと言っていい程、きぐる

みの中には人がいるなんて事を言ってくる、2人が善意でそう言ってくることは理解し

ているがいい加減認めて欲しいものだ。



 2人の冒険者がだらだらと汗を流しながら前を進む、その後を何度か転びながらも後

ろに続いてゆく。



「遅いぞ3人共、このペースだと砂漠地帯を越えるだけで一週間はかかるぞ」



 先に予定していた休息地点に到着していた師匠が遅れてやって着た私達に文句を言う。



「仕方ないじゃないですか師匠、僕達砂漠なんて初めて来たんですよ」



「そうですよ、それにサメ丸が何度も転ぶからそれを起こしたり大変だったんですよ、

それなのにサメ丸ってば全然きぐるみを脱ごうとしないんですよ、それさえ無ければも

う少し早く追いついていましたよ、師匠からもサメ丸にきぐるみを脱ぐように言って下

さい」



「なにお言っているんだ、サメ丸はきぐるみが本体なのだと言っておっただろう、ははぁ

ん、さては自分の足が遅いのをサメ丸のせいにすれば、修行を軽くしてもらえるとでも

思っているのか、その手には乗らんぞ、そもそも人のせいにしても自分の為にならんと何

度も言って……」



 師匠のお説教が始まり3人正座で並ばされて聞いている、凛が言っていたように遅れて

いたのは私のせいでもあるのだが師匠はそれはそれと言って、人のせいにしても自分の為

にはならないんんだぞと説教を続ける。



 凛は不服そうな顔で、伊吹は半分諦めた顔で説教を聞いている。



 師匠は冒険者になったばかりの頃、唯一きぐるみ族の事を理解してくれた人だ、何でも

師匠のいた世界では物に魂が宿るという伝説が語り継がれていたらしく、師匠自身は元い

た世界では出会った事は無かったらしいが、この面妖な世界では目の前の事を受け入れる

のみと言って、私の存在を受け入れてくれた。



 凛と伊吹同じ世界から来たらしいのだけど、この2人だけは中々信じてくれなかった。



 その日は一晩そこで過ごして明日出発する事になり就寝の準備を済ませた、凛と伊吹は

疲れていたのか直ぐに寝付いてしまった。



 私は眠る必要の無い身体なので朝が来るまでの間、焚火の前に座りぱちぱちと鳴る炎を

眺めていた。



 すると寝る前の素振りを済ませた師匠が横にやって来て、隣に座った。



「眠らないのか」


「師匠、前にも話しましたけど私は眠る必要はないのですよ」


「あー、そうだったな、すまんすまんどうも最近ボケてきたみたいでな」


「冗談はよしてください、師匠の記憶の良さは弟子の私達が誰よりも理解しています、そ

れに師匠は老い無い身体なのでしょう」



 ははは、と短く師匠は笑って困った顔をした後、ゆっくりと口を開く



「その、サメ丸は最近悩みとかあるのか」



 驚いた、師匠が普段そんな事を聞いて来る事なんて今まで無かったから少し返答に困っ

てしまう。



「いや、その、儂は生まれてこの方、剣を振る事しか脳がなかった、剣の道を極めたい一

心で怪物とすら契約を交わし、多くの同胞を殺めてきた、お前達はそんな儂に出来た初め

ての弟子だからな、実は普段からお前達の動きは観察していたんだが、サメ丸、お主は最

近修行にも身が入って無い様だからな、心配にもなる」



 師匠が心配してくれている、その事実が嬉しくて色々話したんだと思う、多分感情のま

ま話したんだ。



 この頃の私は、自身の力の未熟さや、未だにきぐるみ族の事を信じてくれい周囲の人間

達、そして私の活動に中々同意してくれない村の皆、色々な不満や不安で押しつぶされそ

うな感情を吐き出すように師匠にぶつけた、お陰で走馬灯でさえ私が何を話したかを映し

出してはくれない。



 色々と話し終えた頃、師匠助言をくれた



「良いかサメ丸、世の中と言うのは不条理な事ばかりだ、時には心が砕けそうな時もある

だろう、儂も自身の弱さに幾度も絶望したさ、折れてしまえば楽に成っただろうさ、だが

儂は今こうしてお前達の前にいる、何故だかわかるか、諦めなかったからだ、最後まであ

がいたからこそ儂は今、剣聖などと呼ばれるまでに成れた、例え生き汚くとも、遠回りに

なろうとも、その先にある目標に向かい進み続ければお主の望む未来にも辿り着けるだろ

うさ」


「不老なんてズルをした師匠に言われても、参考にならないですよそれ」


「な、それを言ったらサメ丸だって」



 師匠がなんか変な怒り型をしたのでちょっと笑ってしまった。



「ふふ、ははは、ありがとうございます師匠、何だか話したらちょっと気が楽になりまし

たよ」



「そうかい、まあさっき言ったのは儂の恩人の受け売りでもあるんだが、覚えていて損は

しないと思うぞ、こう内側から勇気とかやる気が湧いて来るからな、挫けそうになったら

原点を振りかええって目標を思い出してみるといいさ」



 *****



 そうだった、師匠は諦めるなって教えてくれたじゃ無いか、私さっきまですっかり忘れ

ていて、このままここで諦めようとして



 思い出した師匠の言葉が、まるで今の自分に掛けらたかのように全身を回って諦めよう

としていた私の気持ちを奮い起こす、私は、私は、



「私は、こんなところで死ねないんだー」



 全身を纏わり付く触手を力一杯内側から引き離そうと足掻く、触手はこちらを逃がさな

いように締め付ける力をいっそう強くし、更に他の触手を使い囲い込む様に包んでゆく。



「うがぁぁぁ」



 触手の力が強まり、ついにきぐるみの身体の表面の特殊な生地が徐々に裂け初めていき、

海水がきぐるみの内側にまで入ってき始めた、少しでも触手の拘束を解く為に、身体の一

部を引き裂かれながらもまだ動く右手のヒレで近くの触手を斬り刻む。



 必死の反撃さえも意に返さずにクラーケンは斬られた触手が再生次第に更にもう一度締

め付け、私は必死で斬り続ける。



 反撃虚しくとうとう、ガシッと刀を持つ右手のヒレすらも捕まれた、クラーケンはもう

油断しないいう様に締め付ける力を更に強くする。



 両手を封じられたがそれぐらいで諦める訳にはいかない、手が使えないなら



 触手の侵入を拒んでいた口を開く、クラーケンは口が開くと同時に中に触手を入り込ま

せる、内側に入った触手は内臓でも潰そうとしたのかきぐるみの体内、で触手の先をくる

くると回している、それがまるできぐるみの中身を探しているように感じて、口を開いた

目的通り、いやそれにプラスして怒りも込めて全力でその触手を嚙み付く。



「私に中の人など居ない」



 全力で嚙み切ってやった。



 それと時を同じくして、ド―ンと鈍い音が海上から響きわたり、それに続く様に風を切

る音と共にバリスタが射出された音が聞こえてきた。



 てっきりもう港に帰ったと思ったのだが、あろうことか効かぬと分かっていながらも撃

ち続けている。



「撃て、撃ち続けろ、あいつに休ませる隙を与えるな、そこ、もたもたするな次弾装填い

そげ」


「船長効いていません、あの冒険者ももう生きてませんって、逃げましょうよ」


「そこ、なに泣き言いってんだ、あの剣術馬鹿が生半可な弟子なんて寄こすわけねぇ、お

前もさっきの太刀筋を見ただろが、奴の注意がそがれて隙が出来ればあのサメが必ず仕留

める、お前らそれまで気合いれて撃ちやがれ」



 船で何か言っている様だが海面からは聞き取れない、だが船の砲撃でクラーケン注意が

削がれたのか、纏わり付いていた触手の力が少し弱まった。



 再び口を開き今度は右手のヒレに巻きついた触手を嚙み千切る。



 自由になった右手で刀を振りながら身体を回転して全身に纏わり付いた触手を斬り刻み

拘束を振り解く、体内でぴちぴちと蠢く触手の切れ端を吐き捨てて身軽にし、海面に飛び

跳ねて空気中の命の源を吸い込み、練り上げた気を身体に巡らせ再び触手の囲いに向かい

飛び込む。



 刀を両手で持ち替え、全身を捻り回転させながら海に潜り進める、やがて先程身体を拘

束していた憎き触手の囲いまで辿り着く。



「さっきは良くもやってくれたな今度はこっちが反撃する番だ、みじん切りにしてやる」



 回転を緩める事をせずにそのまま無数触手に向かい突っ込む、回転する速度もいよいよ

乗って来た所で刀に気を集中させ、あえて刀の刃の向きを回転に抵抗する様に斜めに向け

る。



 だが既に勢いの付いた回転が止まる事は無く、刃を起点に海水の層を作り始める、無数

の触手に辿り着く頃にはまるで海中に出来た渦の様になり、触手を巻き込みながら触手の

生えている中心へと向かう。



「風斬抜刀術四ノ型、螺旋海流斬」



 回転する海水の刃に触手は成す術も無く斬り刻まれながらも斬られた端から再生してい

く。



 通常、再生の能力がある生物はいずれも自身の魔力を消費する事で、傷を回復している、

そういった魔物を倒すには二つの方法がある、一つは相手の魔力が尽きるまで相手を攻撃

する事だ、だがこれは相手よりもこちらが強い場合でしか出来ない、真正面か自身より強

い相手といつ終わるか分からないまま戦い続けるのは得策とは言えない。



 ならもう一つの方法とは何か、それは相手の魔力の供給源を断つ事だ。



 通常、魔力の供給源を知覚出来るのは、魔法に深く精通する魔女や魔法使い位の者だが、

きぐるみ族はマイスターによりその身体を魔力を帯びた生地で造られており、自身の身体

を修繕出来る様に最低限の魔法に関する知識を教えられている。



 それ故に魔法使い程では無いが大量の魔力が流れた際にその流れを知覚することが出来

るのだ、だからこそこうして大量の触手を斬り刻みクラーケンが自身の触手を再生しよう

とすれば、触手の数だけ魔力が流れ私でも魔力の供給源までの流れを見る事が出来る。



 魔力が流れを辿り、供給源のある触手と胴体の境界の部分を目の前に、刃の方向を変え

て身体を捻り、更に加速を増した回転に新たな方向性を加える。



 水中での圧力が加わり既に身体の下半分はクラーケンに付けられた幾つかの裂け目が広

がる、全身に激痛を受ける事になったが、お陰で海流の流れが制御しやすくなりさらなる

回転を加えられる、皮肉なものだ、貴様の与えた傷が貴様に致命的な決定打を与えれる技

の援助になったのだからな。



「風斬抜刀術四ノ型裏、螺旋海龍翔」



 横に回転していた海水の刃は、刀を刺突する構えの様に向け身体を捻る事で加わった新

たな方向性により天に向かい滝を昇る鯉の如く、クラーケンの胴体を下から天に向かい風

穴を開ける。



 天高く舞うその姿はまるで伝説で語られる滝を割り、鯉が龍に成ったかのようだったと、

それを見た後の船員は語った。



 ******



「おい、見つかったか」


「いや、こっちにはいなかったよ」


「日が暮れる前には絶対見つけるぞ、クラーケンを打ち取った英雄様を連れ帰らなかった

ら、船長に何を言われるか分かったもんじゃねぇ」


「俺はこっちを探すから、お前はあっちの方を見て来てくれ」



 いよいよ日が傾き始めた頃、先程の激闘が無かったかのように静かな海で、クラーケン

を打ち倒して直ぐに海に落ちて行方が分からなくなったきぐるみの英雄を捜索していた。



 既に死体は回収され、船長の監督の元捜索を続ける船員達、だが戦いの直後に浮上して

いたクラーケンが倒れた事で波の流れが激しくなりサメ丸が何処に落ちたのか分からずに

時間だけが過ぎていた。



 事前にきぐるみ族が水中でも生きていられると知っていなければ、とっくに生存は諦め

て捜索は諦めていたところだ。



 だが広く深い海で何の手がかりも無に今日中に探し終えるのは船員達の誰もが諦めてい

た頃、1人の船員が海面を漂うカードの様な物を発見した。



「あ、あれって」



 幸運な事にその船員はそれが何のカードなのかと、カードが受け渡された場面を目にし

ていた。



「おい、皆こっちだ、こっちに集まってくれ」



 ******



「おーい大丈夫か、生きているか」



 荒っぽい声が聞こえて意識が戻る、痛々しく重たい身体を起こす。



「……っ」



 身体に電撃が走った様な痛みが襲い、身体を動かす度に断続的な痛みの感覚に襲われ

る、無理もない、クラーケンとの戦闘でかなりの無理をしたのだ、足の部分にいたって

は半分以上程の裂け目が出来ている、もう少し酷ければ修繕不可能なレベルだ。



 そうだ、クラーケンは、あの後ちゃんと討ち倒す事が出来たのだろうか、最後の技を

出した直後からは無我夢中で仕留め切れたのか見る前に気絶してしまった。



「クラーケンはどうなったんだ」


「あそこさ」



 そういって、私を起こした船員の1人が港の一角を親指を立てて指先を後ろに向ける。


 そこには、真っ二つに裂かれたクラーケンの触手を意気揚々と切り分けて調理してい

る一団があった、近くには酒を浴びる様に飲み飽かしてふらついた足で踊っている船員

や町の人間の姿があった。



 状況が理解出来ずに呆けていると、朝に組合所でカードゲームを遊んだ冒険者がやっ

て来た。



「よう、英雄様ようやくお目覚めか」



 冒険者の顔を見てはっとした様に口の中に片手のヒレを突っ込む、あれ、無い、ここ

にあった筈の侍のカードが無い、何処かに落としてしまったのだろうか。



 カードを返せない事に負い目を感じ初めていると、冒険者が懐からカードを取り出し

て言葉を続ける。



「お探しの物はこいつかい」



 そういって見せつけたカードはこの冒険者から預かった侍のマスターカードだった、

だが海水を浴びたせいかびしょびしょにぬれ、ところどころ絵柄が滲んでいる。



「ああこれか、なに、英雄様の命と比べればたいした問題じゃないさ、いやむしろ持

ち主の命を救ったんだ、これが侍魂ってやつなのかもねぇ」


「英雄って誰の事」


 気になった単語に付いて聞いて見ると、冒険者は驚いた様に目を見開き



「お前の事さ、クラーケンを見事討ち倒した、きぐるみ族の英雄、サメ丸」


「あ、サメの冒険者さん起きたみたいだよ」



 意識が戻った姿を見つけたのか次々に町の人間や船員が駆けつけて賞賛の言葉を投

げかけて来る。



「あんた、本当にすげえよ、あんたがクラーケンを倒した時見ほれちまったよ」


「サメさんすごーい」


「あんたならやってくれるって、私は信じていたよ」


「偉大な英雄様万歳」


「あんたってほんとに中に人が入っていなかったんだな」



 出発前にからかって船員が無神経な事を言ったので睨みつける。



「私の中を見たのか」


「い、いや不可抗力だって、そもそも足の裂け目っから中に人がいないのは見えるし」

「まあ、助けられたし、今回は見逃すけど、次に私の前できぐるみ族を軽んじた発言

をした時は、分かっているよな」



「まあ、まあ、こんな馬鹿ほっといて飯を食おうぜ」



「そうだよあんたの倒したクラーケン調理したら結構美味いぜ」



 そういってクラーケンの触手を焼いた物を差し出してくる、丁度良い焼き加減の用

度以外と美味しそうな匂いがして食欲をそそる。



「あ、そういえば、きぐるみ族って飯とか食えるのか」



 差し出してきたクラーケンの触手焼きを引っ込める。



「別に食べようと思えば人間と同じような食事を摂れるさ、きぐるみ族は生きる上で

食事を必要とはしないけど、食料を活動の余剰エネルギーに帰ることが……ん」



 きぐるみ族の生体に付いて説明しようとすると突然口の中に、先程の触手焼きを口の

中に突っ込まれる。



「長ったらしい説明とか良いから、ほら、どうだ美味いか」


「……美味しいです」



 そう答えると料理を持ってきた人間は満足そうに笑った。



「ねぇねぇ、もっときぐるみ族の事を教えてよ」


「サメさんもふらせて」



 町の子どもたちが群がって来て腕を引っ張って言いよって来る。



「いいだろう、サメさんがきぐるみ族の事をたっぷり教えてやるさ」



 これもきぐるみ族の事を知って貰ういい機会だと割り切って、足の痛みを我慢して

町の子ども達に引っ張られて行く。



 ******



 結局碌に説明出来ずに子ども達に背中やヒレの生地をひたすらもふられてばかりだ

った。



 町の人達に布を分けて貰い裂け目の応急手当をする、きぐるみ族の村にある修繕用

の布を使わないと直る事は無いが、取り敢えず移動するだけならば問題無いだろう。



 針で糸を通し終わり、未だに騒ぎ続けている町の人達とは反対方向に向かい海沿い

を歩く。



「通り合えずは治ったみたいだな」



 海沿いで夜空を見上げていた老人が声を掛けてきた。



「あのクラーケンを討ち取った最後の技は、見事だったぜ、久々にあの剣術馬鹿の技

を見た様だった」


「やっぱり、おじいさんは師匠を、空の剣聖を知っているんですね」


「あぁ、と言ってもあいつがそう呼ばれる少し前からは直接は合ってねぇが、あいつ

とはこの世界にくる以前からの中でな、剣が廃れ始めた頃に俺は剣の道は捨ててさっ

さと軍になったが、あの馬鹿はいずれ必ず剣の頂きに辿り着くって言ってな、暫くは

疎遠になったんだがある戦争で俺は死んだ、死んだ筈だっただっていうのに気付いた

らこの世界にいてあいつが隣に立っていた、まあこの世界に成れた頃にまたあいつと

は合わなくなったがな」



「そうだったんですか、師匠は中々自分の事を話してくれないのでもっと聞かせてく

れませんか」



 そうして暫くの間、夜空の下、波の音を聞きながらおじいさんと師匠の事を話てい

た。



 実は師匠は年上好きだったとか、子どもの頃は身体が弱かったとかそんなくだらな

い話を長い間話した、話している内に何となく、こうしてこんな話が出来るのもあの

時諦めなかったからなんだって思えた気がした、多分もう二度と師匠のあの言葉は忘

れないんだと思う、きぐるみ族の名声を上げて、そして目標を達成するその時まで。



「……とまああいつの話はこんな所だ、しかしあいつが空位にまで辿り着いたって

聞いた時は驚いたが、まさかお前さんだけじゃなくて他に2人も弟子がいたとはな」


「一応言って置きますけど弟子の中では私が一番強いんですよ」


「わかった、わかったから、そろそろ夜も更けてきた、あそこの馬鹿共は朝まで騒

ぐだろうけど、あんたは明日の朝にはもう戻るんだろ、馬鹿共に付き合う必要は無

いから今日は早く宿で寝てろよ」



 きぐるみ族は眠る必要が無いと言う前に老人はさっさと帰ってしまった。



 今は朝まで騒ぐ気も無いし老人の言葉に従い宿に向かう。



 宿に入り、部屋の鍵を閉めて自身だけの空間にする、まだ後ろの方がちゃんと縫

えていないので口から裁縫道具を取り出す。



 しかし、閉まっていた筈の侍のマスターカードが外に出ていると聞いた時は驚い

たものだ、もしや中に閉まっている物全部が海水で濡れたんじゃ無いかと思ったが

何故か他の物は大丈夫だったんだよな、あの時なんで侍のカードだけが、もしかし

て無意識で最後の時は侍を見たいとか思っていたんだろうか。



「侍魂」



 ふと浮かぶ先程聞いた言葉、付喪神か、こっちの世界では聞いた事の無い概念で

はあるが、姿見を見る。



「在り得る、のかな」



 まさに似たような存在を目の前に魂に付いて考えるが、戦いの疲れかあまり思考

が回らない、頭に靄がかかる感覚を振り払い、口の中から手を出す。



 きぐるみの中から現れたのは、きぐるみの生地と同じ青色の髪をした美少女、きぐ

るみの腹の部分と同じ白色のワンピースを着ている、まるできぐるみの中で足を前に

組んで座ってようやく入る様な等身の身体中には、きぐるみと同じ場所に痛々しい傷

がある。



「やっぱり、人形を動かすのは魔力の消費が激しいな」



 美少女は仕方ないと溜め息を突き、先程まで手足の様に動かしていたきぐるみを裏

に向けて慣れた手付きで針を通していく。



「この人形は便利だけど、中に人が居るとか勘違いさせかねないから人目のある場所

で使えないんだよな」



 だれに聞かせる訳でも無い言葉を言いながら針を縫い終わる、縫い終わった箇所と

同じ場所の美少女の傷も何時の間にか手当を受けた様な後が出来ている。



 裁縫道具を片づけ、再びきぐるみをこちらに向けて口を開けて、口の中に広がる亜

空間に向かい裁縫道具を投げ入れた後に美少女も続く様に足からその亜空間に身を投

げる。



 少ししてきぐるみの身体が動き出す。



 窓の外から光が入ってき、水平線からは登り始めた日が見える。



 宿を出てその足で冒険者組合所に向かう、まだ朝早いからか冒険者の数は少ない、

と言っても組合所に居る冒険者は酔いつぶれて寝ている物しかいない、酔いつぶれて

いる冒険者を横目に受付に向かう、丁度夜間の担当と交代してきたらしく昨日の朝に

あった受付の人間とばったり出会った。



「あ、サメ丸様、もしかしてもう出発されるのですか」


「えぇ、流石にこの身体のまま居続ける訳にもいかないので」


「そうですか、あ、クラーケン退治の報酬がまだでしたね、今持ってきます」


「いや、報酬は要らないよ、代わりにちょっとお願いしたい事があってね」




 ******



 冒険者組合所の受付にお願い事を頼んだ後、まだ町の人間が寝静まっている中来た

時と同じ様にズカズカと町の入口に向かう。



 入口には何故か見知った2人の人間がいた。



「もう、サメ丸遅いよ、どれだけ待たせるつもりなの」


「凛、僕達がかってに待っていたんだから文句を言うのは筋違いだと思うよ」


「凛に、伊吹まで、なんで2人がここにいるの、たしか中央で依頼を受けていたん

じゃないの」


「そんなのサメ丸が1人で、クラーケン退治に行ったて聞いたらから飛び出して来

たに決まっているじゃない」


「師匠も人が悪いよね、先に聞いていたらもっと早く依頼を終わらせていたのに」


「でも着いたらもう終わっているし、私の心配を返してよサメ丸」



 そういって凛は私に向かって抱き着いて来た、最初の頃は結構邪険にされていた

筈なのに最近は何故か、こうして私に良く抱き着く様になった、本当にどんな心境

の変化があったのだろうか不思議で仕方ない。



「サメ丸成分補充ー、ってサメ丸ボロボロじゃない」


「実は結構ギリギリで勝って、それより痛いから離してよ凛」


「海を自在に泳げるサメ丸ですら苦戦するなんて、そのクラーケンってもしかして

再生持ちだったの」



「そうだけど、実物も見ていないのに、どうしてわかったんだ」



 そう言い返すと、クラーケンの事を聞いた伊吹だけで無く、凛まで驚いていた、

その様子を不思議に思い眺めていると、2人から新たな情報を教えられる。



「実は大陸の各地に再生の能力を持つ魔物が最近増えているらしいんだ」


「そいつらって、知能も高いらしくてね、師匠ですら手を焼いたらしいわよ」


「そんな、師匠が手を焼く程なんて」


 正直信じられなかった、師匠は今やこの世界で数本の指に数えられる程の実力者

だ、その実力は剣の道に精通する者も、大陸中の冒険者ですら認める程の存在だ、

その師匠とまともに太刀打ち出来る相手なんて最上位種の魔物位しか思い付かない。



 もし師匠の相手をした魔物が大陸の各地にいるのだとすれば、近いうちに大陸中

を騒がせる様な事件に発展するかもしれない、そうなればきぐるみ族の評価を上げ

るどころの話じゃ無くなる。



「早く中央支部に戻ろう」



 早く何とかしなければという思いで口走った言葉に、2人が呆れた様子で溜め息

を漏らした。



「サメ丸はまず先に村に戻るのが先でしょ、そんなボロボロの身体で戦うなんて私

が許さないんだから」



「そうだよ、僕達が村まで護衛するから、村まで大人しくしてないと」



 2人に注意されて冷静さを取り戻す、確かに今のままあのクラーケンと同じ強さ

の魔物と戦う事になれば勝てるとは思えない。



「わかったよ、それじゃあ村まで護衛よろしくんな」



 そうして3人で港町を出て行く、サメ丸の予想通り暫く後に大規模な魔物の掃討

作戦があるのだがそれはまた別の話である。



 ******



 サメ丸がクラーケン退治をした港町、あれから数ヵ月程たった頃、サメ丸のお願

いは町全体で叶えられた。



「きぐるみ饅頭、きぐるみ饅頭はいかがだい」


「こっちはきぐるみ族の生体についての本を売っているよ、数量限定だよ」


「こちらはこの町をクラーケンから救ってくれたきぐるみ族のサメ丸様の銅像となり

ます」



 町一色のきぐるみ族を推す運動、サメ丸が頼んだのはきぐるみ族の事を少しでも知

って貰う為に協力して欲しいと言っただけなのだが、どういう訳か尾ひれに背びれが

付き、きぐるみ族の信仰団体まで現れだした。



 それを奇異な目で見ている老人が1人



「やっぱり、弟子は師匠に似るのかね」



 こちらに来たばかりの頃に見た光景とそっくりな自身の住む町の惨状を眺めて、老

人は1人空を眺める。



「やっぱり、あいつもあいつの弟子もとんでもねえや、俺には付いていけねえや」

最後まで読んでいただきありがとうございます

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです


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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい作品ですね! ☆5個つけさせて頂きました。 これからも頑張って下さい! 応援してます。
2021/11/14 07:18 退会済み
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