第4死
当たり前は突然当たり前ではなくなります。
今日のご飯は混ぜご飯。
私の休日は大体家でゲームか動画鑑賞。漫画を読むか、純文学の本の読書。
休みもやはり暇がない。
まぁ、充実しているからいいけれど。
プルルルルルル…
スマホが鳴る。
普段あんまり鳴らないのに。友達がいないからね。
そっと出る
「はい、もしもし」
「すまないが、今日また変わった御遺体がさ…担当出来そうなの、君だけなんだよー」
この雇い主である社長に一発パンチかましてやろうか…と素直に思ってしまった私がいるが、この人が居なかったら、就職口なかったし、食っていけないから逆らえない。
仕方ない…
「分かりました、私がやります。」
答えはわかりきっていたがね。
さ、行こう。
いつもの場所に来た。
相変わらず制服は嫌いだ。堅苦しい。
霊柩車から降ろされた御遺体は、どうやらワケあり。
警察官もいた。
へぇ…珍しい。
一礼をして、作業に入る。
棺の小窓を開けて覗くと40代くらいの男性。
働き盛りの男性だな。何気にザ・お父さんって感じだが。
会話を聞いてしまった。どうやら轢き逃げだったようだ。交通事故か…
白い霧が私の周りを覆う。
あぁ、来たな。御本人が。
「災難でしたね。いらっしゃいませ。収骨までお任せ下さい。」
「やはり、私は、死んでしまったんですね…妻と娘を残して。」
「えぇ、残念ですが、そうなります。」
無念と言わんばかりに呟くお客様。そりゃ、そうだろうな…自分が働いて、幸せな家庭を持ってる最中、いきなり奪われた未来…
私なら、轢き逃げした奴を呪うわ。
淡々と作業をこなしていると、男性は問いかけてきた。
「君は、随分と若いけど…偉いね、こういう仕事は、通常忌み嫌われるものだと思うのだけれど…」
「それは貴方の固定概念です。皆個性があり、考え方が違う。貴方は私みたいな作業員がいなければ、身体は無惨ですよ。」
そうだよね、ごめん…と言わんばかりに表情を曇らせた。
そんなの私には関係ない。仕事だから。
若いからとか、年だからとか関係ない。やるしかない。
収骨を済ませると、男性は自分の遺骨を見て呟いた
「私はもう…元には戻らないんですね。骨になってしまったのならば。」
何を当たり前な事を言うのだろうか。もう後戻りは出来ない。
「貴方は…確かにもう戻れません。轢き逃げした奴にはロクな死に方をしません。いずれ、私が担当します。だから、もう逝くべき場所に逝って下さい。もうここに居る理由は無いはずですよ。」
白く霧掛かった魂の彼を背に、骨壷を泣いている男性の妻に差し出す。
去った事を確認すると、彼は優しい笑顔を浮かべていた。
その笑顔が何を意味を示していたのか、私にはわからない。
ただ…私が感じたのは…当たり前を当たり前と思ってはいいけないな…と言う事だ。
彼は自分の妻が火葬場から去るところを見送ると、私に一礼し、うっすら白い階段を登っていった。
へぇ…天国に行く時って、ああやって行くんだ。
貴重なものを見たな。休日返上した甲斐があったな。
次は…いい人生が送れるように。
御行し奉る…なんてね。
さ、帰ってゲームの続きしよ。サ○ゼに寄ってからね。