幼馴染みと書いてトラウマと読む。その心は、どちらも忘れようがないでしょう。
初めて書きました小説です。誤字脱字や変な文章があると思いますが、その時は是非とも御指南くださいませ。
トラウマがスカートを履いて立っていた。トラウマの名前はアレックス。そういう格好が良く似合う、俺の幼馴染み。
高校が別だった為に疎遠になっていたが、肩まで切り揃えた散切りボブの金髪に、涙で濡れた宝石のような碧眼、抜けるように白い肌は変わってない。
心細そうに俯いて、明るいピンク色のスカートを強く握っている。通り過ぎていく連中の不躾な視線に、恥ずかしくて頬が赤くなっていて、まさに絵に描いた薄幸の美人。
当然、周囲の連中から好奇の視線を独占していた。顔が良すぎるとそうなる。
ま、当の本人はそういう視線が大の苦手で、はぁ、と溜め息を漏らして顔を上げられないでいる。可哀想なのは、そういう動作だけでも周りを魅了してしまうから、余計に注目を集めてしまう。
俺の隣にいる恋人の藤島も、不思議そうにアレックスを見て、指を差した。
「あの人、どうしたんだろ?」
「さ、さあ?」
俺は小さく首を傾げて知らないフリ。
出来ることなら裏門から逃げたかったが、あんまり意識すると藤島に怪しまれるし、恐らくそっちにはアイツが待ち伏せていることだろう。
アイツにこそ会いたくないから、無理にでも裏門から出るってことは諦めた。俺に残された道は、藤島をこっそり盾にして、息を殺しながら校門を抜けることだけ。
半分は上手くいった。アレックスは下を向いたままだったから、このままいけば気づかれないと思っていたが、そういう小細工はいとも簡単に粉々になった。
「ねえ、あなたどうしたの?」
あろうことか、盾にしていた藤島が声を掛けやがったのだ。
「え?」
声を掛けられて、驚いて顔を上げたアレックス。
「あっ!」
そして、藤島の背後に隠れる俺に、アレックスが気づかないわけがない。
しまった、と思う前にアレックスはそれまで暗かった表情から一転、晴れ晴れとした笑顔を浮かべるや、体当たりのような勢いで抱き付いてきた。
「春ちゃんっ、久しぶりっ、助けてっ!」
あろうことか名前まで叫びやがった。相変わらず綺麗な声。突然の出来事に周りの連中は仰天し、歓声やら罵声が飛ぶ。
藤島も流石に驚いて、アレックスと俺を交互に見ながら、どういうことなの、と袖を引っ張って説明を求めてくる。呑気なところがあって、恋人が目の前で抱きつかれたにも関わらず、そのことについて余り気にしたところがない。
「・・・・・・・んでアイツは?」
鬱々とした気分でもう一つのトラウマのことを訊ねると、抱きつくのを止めたアレックスは眉を下げる。
「そのことで、助けて欲しいの」
また何かやらかしたのか。ああ、それなら裏門に行けば良かったと後悔が。
「何なに~、どうしたの?」
藤島が興味津々で訊ねたけど、今は無視して、アレックスの言葉を聞いた。
「姉さんがっ、アリスがまた勘兵衛さんに取り憑かれたの!」
付き合って以来、藤島の表情が一番面白くなった。
藤島としょっちゅう行くファミレスは、このメンツだと居心地悪いので、別の店にした。
その道中。
「名前は何て言うの?」
「あっ、高山アレックス」
「そうなんだ私はね」
恋人そっちのけで、会話を始める。
「可愛い服だね」
「あ、ありがとう」
「ハーフ?」
「う、うん」
「お姉さんはどんな人?」
「怖い人だね、でも時々優しいの」
「幼馴染みって、この人昔からこんな感じ?」
「うん、変わってないね」
正直、背中が痒い。
店に入ると、年配の店員が声を掛ける。校門の時と違って、あまり好奇の目を向けられることはない。
アレックスのことを見ている客は何人かいたものの、あの人綺麗ね、外国人かな、可愛いねぐらいの反応しかなかった。
恐らく、格好に理由があるだろう。アレックスはスカート以外、上着は白い無地のTシャツに、春物のカーディガン。要するに私服っぽい格好。そういう姿は制服だらけの学校だと目立つもんだ。
それでも、目立ちたくないのに視線を集めてしまうものだから、アレックスは眉を寄せて、恥ずかしそうに俯いている。
それでも、校門にいたときの方が緊張しただろうし、よっぽど注目を浴びていたから少し落ち着いてはいたが。
「何か食べる?」
先に席に座り、藤島がメニューを取りながら呑気に言った。気遣ってやったのかもしれない。俺は隣に座ると、鞄を置く。
「奢ってあげるっ」
「金持ってたのか?」
「ううん、だから代わりに出して」
「俺かよっ」
「お願いっ」
「・・・・分かったよ」
「へへっ、良かったね奢ってくれるって。高いの頼んじゃって!」
「やっぱお前が払え」
「えー!」
ケチーっと、頬を膨らませる藤島。
対面に一人座ったアレックスは何かを訴えかけるように瞳を潤ませるが、すぐに心細そうに下を向く。
「どうしたの?」
不思議そうに藤島が聞いた。
「えっと、その、仲良いね」
「そりゃー付き合って長いから」
ニカッと歯を出して楽しそうに笑った。恥ずかしいことを言いやがる。
そういえば、そろそろ付き合って一年になる。俺は実感が湧かないけど、藤島は違うみたいだ。
ただ、それを考えると居心地が悪い。古い付き合いのアレックスたちと疎遠になって、新しい付き合いの藤島に挟まれるってのは。
そのせいか、俺は口をへの字にして黙ってしまう。アレックスも同じように、モジモジしながら下を向いて口を閉ざす。
こういうとき、藤島は遠慮なくどんどん話を切り出した。
「それで、お姉さんはどうしたの?」
「と、取り憑かれたんだ勘兵衛さんに」
「またか、あのおっさんっ」
「その勘兵衛さんって、何?」
説明しろと、藤島が俺の方を向いた。
「勘兵衛ってーのは、まあ幽霊だよユーレイ」
「幽霊?」
当然、怪訝な顔になる。そりゃそうだ。姉が幽霊に取り憑かれたなんて話を聞かされて、はいそうですか、って答えない方が頭おかしい。
俺も高校の時にそれまでの思出話をクラスメイトに話した時、これでもかと笑われたから、その気持ちはわかる。
なので、
「アレやってやれ、昔やってた」
「あぁアレね」
俺の曖昧すぎる言葉に、アレックスは最初怪訝な顔をしたけども、すぐに思い出してくれた。
「でも、アレやっても大丈夫なの?」
「平気だ、ホラー映画観てもゲラゲラ笑うような奴だぞ」
その間に藤島は、アレって何それ、つーかそんなんで通じるってどゆこと、ホラーって笑うしかないじゃん、と隣でやかましく喋っていたが、今は無視。
コホン、と咳払いしてからアレックスは藤島の方を真っ直ぐ見た。
「え、なっ、何?」
珍しく頬を赤くする藤島。照れてんのか、こういう顔もできるらしい。少し嫉妬、ムカつく。
「藤島さんは、おばあさんを亡くした?」
真剣な表情でアレックスが言う。
「え、うん。良く分かったね、一昨年だよ」
「そうなんだっ、ごめんね辛いことを聞いてっ。あの、その、お、おばあさんは、左の目の下に泣き黒子と、おでこにイボがある?」
「どっ、どうしてそれをっ?」
藤島は驚いて身を乗り出した。隣の俺はメニューを取って、美味そうな料理はないか探す。
アレックスはぎこちないが笑顔を浮かべた。
「実は、見えるんだ幽霊が」
「ちなみに姉の方は幽霊の声が聞こえて、取り憑かれやすい奴なんだ。嘘にしか聞こえないかもしれないけど、コイツは俺のじいちゃんが脳梗塞で倒れたとき、幽霊になりかけたのを助けてくれた」
メニューを眺めながら、俺は畳み掛けるように補足と、実体験を入れた。
大抵の場合、こういう話を一人がしても信じないもんだ。けど、もう一人、俺が続けば信憑性が高まる。もちろん、ほんの少しだけど。
だが、事実は事実なんだ。本当にアレックスは幽霊が見えて、姉のアリスは幽霊の声が聞こえて、取り憑かれやすい。
藤島は、とんでもな話を一気に聞かされて、口を半開きにして唖然としてる。
そのうち、ぐぅ~っと音がした。
「・・・・・・お腹空いた」
ボソッと呟く。
俺はメニューを渡してやり、お前は、とアレックスに聞いた。
腹が膨れると、落ち着きを取り戻したようで、藤島はコーラとメロンソーダとファンタオレンジを混ぜたオリジナルドリンクを飲みながら言った。
「で、助けて欲しいってお姉さん、どうしてその、誰だっけ?」
「勘兵衛」
「そう、それそれ。ていうか、何で勘兵衛?」
「昔この辺りを治めてたサムライだって言い張ってる奴だ。サムライの癖に往生際悪くて、何回祓っても復活しやがる」
「祓うって、誰が?」
「俺」
「ふうん、そうっ。じゃあデザートも頼もうかな。貴女もどう?」
「そっちの払うじゃねぇよ!」
ベシと頭にチョップ。
アレックスはクスっと笑った。
少しは余裕が出てきたらしい。
その様子に好感を抱いたのか、さっきまでより気安い雰囲気で藤島が言った。
「おばあちゃん以外に、何か幽霊が見えたりする?」
「犬が見えるよ。白いチワワが頭に乗ってる」
嘘っ、と驚いて何も見えない頭の上を触った。
その犬は、藤島が昔飼っていたペットで、名前をしゃちほこというらしい。何故しゃちほこかというと、
「しゃちほこみたいに背中を伸ばしてたから」
というらしい。実際、机の上でそれをやってるようで、アレックスはこれは確かにしゃちほこっぽいね、と微笑む。
「で、お姉さんは今どこにいるの?」
「いつものあそこか?」
心当たりがある。アレックスが頷いて、それが当たってるらしいことが分かった。
藤島が首を傾げる。
「あそこってどこ?」
「神社。町外れにある、ボロっちい奴」
えー、どこよ。藤島は分からないらしい。
当然だろう。犬小屋の方が豪華に見えるくらいだからな。
藤島はええっと言った。
「そんなところにいて大丈夫なの?」
「ああ、そこなら取り憑かれても大人しくなるんだ。理由はわかんねぇ」
「取り憑かれたらどうなるの?」
「ほら、前に観たエクソシストってホラー映画みたいな」
「あー、ってあんな感じにマジでなるのっ?」
「嘘だよ、あれはやり過ぎ。痛っ」
横腹を殴られた。
「体の自由が奪われて、声がおっさんになるくらいだ」
「それかなりヤバイんじゃないの?」
心配そうな顔をする。声がおっさんになるって最悪じゃん、カラオケとかどうするのよ、と気持ち悪そうに顔をしかめた。
こっちは慣れっこなので、
「まあ、その程度で済んでるからな」
「うん。他に取り憑かれた人を助けたことあるけど、もっと酷いことになるよね」
事実は小説より奇なり。
アレは、マジだ。一番嫌いなことわざになるくらい実感してる。
藤島は、ふうん、と今度は呑気な顔で言った。
呑気が過ぎて、
「早く助けないとっ、今から行ってどのくらい?」
どうやら、付いてくるらしい。
「おいっ、今日はここまでにしとけっ」
流石に、俺の語気が荒くなった。
相手が良く知ってる勘兵衛だからって、それでも十分危ないのも良く知ってるから、巻き込みたくない。
けれど、藤島は呑気なままだ。
「困ったときはお互い様って、センセーに教えてもらったでしょ?」
そう言って、俺の手を取ると、真剣な表情で見つめてくる。
普通に格好いいから、反論できなかった。見ればアレックスも、うわぁぁと小さいが感嘆の声を漏らし、藤島をボーッとした顔で見ている。
そこまで言われたら、俺は、わかったよ、と頷くしかない。そういや、告白もこんな感じで返事したんだよな。
満足そうに笑った藤島は、メニューをまた取るや否や、呼び出しボタンを押した。
「よーしっ、そうと決まればデザート食べて頑張ろう!」
「勝手に頼むな!」
食後のデザートを堪能して、会計を払われされた俺は、楽しげに会話を交わす二人の後を膨れっ面で付いていく。
二人は、いわゆる女子トークに勤しんでいた。
「アレックスさんの服可愛いね」
「ありがとう、お姉ちゃんが選んでくれたの」
「そうなんだ、良いお姉さんだね」
「いつも強引だけどね」
「私にもお姉ちゃんがいるけど、同じキャラっぽいな~」
すれ違う人たちは、二人の姿に見惚れて自然に足を止めた。ナンパとかされねぇか心配だ。
藤島が振り返って訊ねる。
「その神社ってここからどのくらいかかる?」
「歩いて30分だ」
「え、バスで行かないの?」
「近くにバス停がないし、山の中だから無理だ」
「うへ~」
眉を寄せて顔をしかめる。
遅くなるのは確実なので、一応、藤島には親御さんへ連絡を入れさせておいた。その時に、電話を代わるように言われて、藤島母から色々聞かれた。年頃の娘が遅くなるというのに、呑気に娘をよろしくねと楽しげに言って切った。
まさにあの子にして、この親あり。
信用されているのかもしれないが、しょうがないとはいえ少し複雑。そうそう、複雑といえば。
アレックスのことだ。
どういう風に思ってるんだろう。
お前たちから離れた俺について。恋人を作って、ごく普通の学校生活を謳歌してる俺に。
もちろん、会えて嬉しいという気持ちはある。アレックスは俺のトラウマかもしれないが、それを上回るくらいの友情は持ってるつもりだ。
二人に対して会わない時間が長かった。そんなことって今までなかったから、どうも後ろめたさがある。
「おーい、春ー」
藤島が呼んだ、
「え?」
「急がないと信号変わるよー」
見ると、二人は横断歩道の向こうにいた。俺は真ん中くらいで、目を向けたときに信号が点滅し始めた。
「ああ、はいはいよっと」
小走りで追い付く。
その時に、アレックスと目が合った。
少したれ目気味の、宝石みたいな碧の瞳。
久し振りに間近で見たものだから、不覚にも頬が熱くなった。
「どったの~?」
藤島が不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「べ、別になんともねぇって。ほら、急がないと時間ないぞ!」
急かして誤魔化す。
昔からアレックスの眼を見ると、ずっと見ていたくなるんだ。それに対して、アイツは意味もなく見つめられるなら顔を赤くする。
歩きながら、ああ、変わらないなと笑ってしまう。
そうだ、変わらない。そう簡単に人の癖というか、性質みたいなものは変わらないのだ。
嫌悪感を抱く人もいることだろう。
俺なんか、未だに昔観た西部劇の荒くれ者の口調が抜けきらない。
藤島は、それはそれで可愛いと言うし、他のクラスメイトや友人、アレックスたちもそれほど気にしてる風でもなかった。
なら、このままでいいかもな
読んでいただきありがとうございます。これから月曜日に掲載していく所存です。中々小説は難しいですね、でも考えるのが楽しくて、これから頑張っていこうと思います、よろしくお願いします!