紳士
二人「どもー」
ボケ「なあなあ、聞いて」
ツッコミ「何」
ボケ「相談がある」
ツッコミ「深刻そうだな、どうした」
ボケ「俺、紳士になりたい」
ツッコミ「……紳士? 紳士服の紳士?」
ボケ「紳士。どうすればなれる?」
ツッコミ「あー、まあ、とりあえず、外見から入ってみれば?」
ボケ「背広か。俺、背広って持ってない」
ツッコミ「マジか」
ボケ「ネクタイしたことない。就職活動とか、しなかったし」
ツッコミ「背広を買う金くらいは持ってるんだろ?」
ボケ「あるよ! ……えっと、567円!」
ツッコミ「買えねえよ」
ボケ「100円ショップに」
ツッコミ「ねえよ」
ボケ「うわ、どうしよう。どうすればいい?」
ツッコミ「働けよ。つか、どうしていきなり紳士になろうと思った」
ボケ「素敵なオジサマになりたい」
ツッコミ「素敵なオジサマ」
ボケ「憧れるって言うから」
ツッコミ「あー、アイドルとか、好きな子が言ってたわけ?」
ボケ「俺の嫁」
ツッコミ「アニメのキャラだろそれ」
ボケ「うん、俺の嫁」
ツッコミ「まあ、動機はともかく、紳士になろうとする心意気はよし、だ。とりあえず、外見は後回しにして、内面から紳士になろう」
ボケ「具体的に、どうすればいい?」
ツッコミ「人に優しく、親切に、言葉も敬語を心がける」
ボケ「わかり申した」
ツッコミ「武士! それは武士!」
ボケ「かしこまりました」
ツッコミ「執事か」
ボケ「ご主人様」
ツッコミ「まあ、いい。執事はおおむね紳士だ。とりあえず、実践してみよう」
……〈コント〉……
ツッコミ「おい、あそこの街角にいるご婦人、さっきからグルグルしてる。道に迷っているんじゃないか? ――紳士、行け!」
ボケ「(タタタと駆け寄る)――もし、ご婦人、グルコサミンが必要ですか?」
ツッコミ「グルコサミン!?」
ボケ「(ツッコミに近づきながら)コンドロイチンのほうがいいかな」
ツッコミ「コンドロイチン!?」
ボケ「だって、グルグルしているって(膝に手をついて回す)」
ツッコミ「膝じゃねえ! 道に迷ってんだよ! ほら、紳士、もう一度行け!」
ボケ「(タタタと駆け寄る)――もし、ご婦人、人生にお困りですか?」
ツッコミ「人生の岐路みたいな、そんな深刻なやつじゃないし!」
ボケ「(ツッコミに近づきながら)えー? ただの迷子? 迷子の迷子の子猫ちゃんなの?」
ツッコミ「そう」
ボケ「(タタタと駆け寄る)――貴女のお家はどこですか?(歌うように)」
ツッコミ「それ犬! 犬のおまわりさん!」
ボケ「ワンワン、ワワーン」
ツッコミ「ああ、もういい、今度は違う設定で行こう。――ほら、目の前の女性がハンカチを落としたぞ、拾って声をかけろ」
ボケ「わかった! ――もし、ご婦人、待たれよ!」
ツッコミ「武士! それ武士ー!」
ボケ「もう武士でいいんじゃないかなあ、って気分になってきた」
ツッコミ「武士は忘れろ。――あ、ほら、あそこの女性が転んだぞ! 手を差し伸べて!」
ボケ「はいはい、忙しいなあ」
ツッコミ「急げよ紳士! マッハだ!」
ボケ「えええー!?」
ツッコミ「早く!」
ボケ「わ、わかった(急いで上着を脱いで、ベルトも外そうとする)」
ツッコミ「おい、待て。なんで脱ごうとしてんだ!」
ボケ「だって、真っ裸で急げって」
ツッコミ「マッハだ! マッハ! 音速だよ!」
ボケ「マッハかー。真っ裸になれって言ってんのかと思って驚いたわ。危ない危ない。素敵なオジサマじゃなくて、変態なオジサンになっちゃうところだった」
ツッコミ「こっちのほうが驚くわ。……ああもう、なんか疲れた」
ボケ「あ! じゃあ、俺の嫁でも見て、癒される?」
ツッコミ「……そうだな」
(二人で一緒に動画を見る)
ボケ「あ、ほら、ここで言うんだよ、俺の嫁が、『素敵なオジサマに憧れるわ~』って!」
ツッコミ「………………ちがう」
ボケ「え?」
ツッコミ「素敵なオジサマじゃねえ! オージサマだボケ!」
ボケ「王子さまーー!?」