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第6話 友達のライン

俺達の新聞は我ながらとても良く書けて(リョータの箇所は天羽さんが大分直していたが)、期末テスト前には1階の廊下に貼り出された。

俺は部活でF県での経験を元に花さんっぽい人を描いて(背景は向日葵にしてみた)、6月末の展覧会に出したんだけど……。


渋谷先生(美術部顧問)からもイマイチな評価だったし、自分でも賞を取れる気が全くしないんだよな~~~。


何がどうダメかって、良い所を上げる方が難しい気がするからほんとにどうしようもない。


「寛、古文どうだったよ」


夏の暑さが本格的に地上を焼いている期末テストの最終日。

リョータが机の上に伏している俺に休み時間に話しかけてきた。あの日以来リョータが俺に話しかけてくる回数が増えた。

SNSでたまに連絡(といっても「明日の地理地図帳欲しかったっけ?」とかそういう内容だけど)も来るので、クラスメイト以上友達未満、とかそのあたりな気がする。


「無理……死んだ」

「つーかアリウリバベルイマソガルってどこに書いたら良かったんだ?」


なんだその上位の闇呪文は。


「それは多分書くとこなかったよ……」(そしてあったとしても間違ってたよ)

「あ~マジ古文の内藤の家爆発しねーかな!」


古文の先生の家が爆発しても俺達のテストの成績が良くなることは無い。

このままじゃあ、H美大に入るの無理だよ……。

勉強がダメでも何かの展覧会で入賞出来れば推薦とかで望みがあるんだけれど、今のところどっちも望み薄だ……。


「はぁ……」


俺はため息をついた。


「天羽また1位なんかな」

「どうだろうね」


1年の頃から毎度1位だから、多分今回もそうなんだろう。


天羽さんと言えば、最近放課後にSNSでちょこちょこ俺に連絡が来る。連絡と言っても独り言のようなもので、「ピアノが今日はちょっと上手く弾けませんの」とか「赤いガーベラに組み合わせるなら白の百合よりピンクの撫子ではなくて?」とか、俺には返事が難しいような内容だったりするからあんまりちゃんと返せていないし、何で連絡がくるのか分からないんだけど、来るたびに一応返事はしている。

これってもしかして、ちょっとは仲が良い、とか思っちゃっても良いんだろうか。


「中山~!数学の鈴木先生が放課後掃除終わったら職員室来いってさ~」

「え?」


クラスメイトの武藤君が教室の外から中を覗き込むようにして俺に言ってきた。

数学?鈴木先生…?


「なんか、プリント1枚足りねーってよ」

「え!!」


俺は焦って机の中を探した。数学のプリントといえば多分テスト前の週に提出したやつだ。3枚あったのだけれど、もしかして、1枚出し忘れてた……!?机の中にはない!となると家……?それとも落とした……?

数学の鈴木先生と言えば厳しい事で有名で、怒るとめちゃくちゃ怖い眼鏡の男性教師だ。


「ああ……」


どうしよう。放課後が怖い。


「3枚必要なものが2枚しかなければ、それは未完成なわけだ。そういった場合点数がどうなるか分かるか?2/3だから66点て訳じゃない。0点だ。出来ていないものは点数がつけられない。分かるか?中山」

「はい……」

「大体お前は緊張感ってヤツが無いんだ。だからプリントがどこに行ったかもわからないんだぞ!もっとシャキっとせんか」

「はい……」

「今回は特別に2枚分は丸をつけてやるけれど、本来であれば0点だからな!0点!覚えておけよ!」

「はい……」


俺はしょんぼりと項垂れて職員室を出た。

あ~!俺の馬鹿!!あんなに頑張って問題解いたのに、出し忘れてどーすんだよ!!

はあ~~~~、と本日最大のため息をついた時だ。


「成績に直接関係するプリントじゃありませんもの。あまり気にする事ありませんわ」


頭上で涼やかな声が聞こえた。

顔を上げると、俺の後に職員室から出てきたと思われる天羽さんが少し気の毒そうな顔で俺を見ていた。


「はは……」


もう愚痴る気力も無い。


「地理の新聞、鈴木先生も褒めて下さってましたわよ」

「そっかぁ……」


それは良かったんだけどね。

とはいえ、あんな風に怒られたら凹むだろ。

天羽さんはチラ、と周囲を確認すると


「ところで寛君、8月1日は空いてまして?」


と少し小さい声で聞いてきた。


「8月1日……?」


2週間くらい先だ。夏休みの真っ最中じゃないか。


「木曜日。平日ですわ」

「特にないけれど……」


部活も運動部と違って美術部は基本的に自由参加だし、お盆にも早いし、特に用事はないと思う。


「もしよろしければ、私達とマーメイドコーストに行きませんこと?」

「ほぉgwh!!??」


マーメイドコースト!?


思わず変な声が出てしまった。


マーメイドコーストと言えば、今人気の大型レジャープールじゃないか!!

女子と!しかも全校生憧れのお嬢様と!夏休みに!レジャープールゥゥゥ!!!???


「マ、マーメイドコーストッッ??」

「怒られたばかりで、先生方に聞こえるような場所で大声で言うような事ではありませんわ」

「あっ……わわ」


俺は慌てて声を潜めた。

なんだ!?夏休みに女子とプール!?なんだこのリア充の流れは!!!!


「わ、私達って」

「無論、私と花ちゃんですの」

「い、いいの?そ、それは、いいの???」


だってだって、天羽さんは花さんが好きなんだから、俺なんか誘うより好きな人と二人きりで行った方が絶対良いだろ!?


「私も敵に塩を贈るようで、はっきり申し上げて嫌なんですけれど」


ですよね……


「じゃあ、なんで……」

「私と花ちゃん二人きりですと、余計な虫が寄って来るでしょう?」

「あ、ああ~……」


俺は天羽さんが言わんとしている事を理解した。

水着姿の花さんと天羽さんが二人きりで歩いていれば、ナンパとか変なスカウトとかがすごそうだ。あそこ、それ目的の男もいっぱいいるって噂だし……。


「うちから護衛を手配して貰う事も考えたのですけれど、それだと自由に楽しめませんでしょう?今回は!なんと!!花ちゃんから誘っていただきましたの!私、断る訳にはいかなくてよ!!」

「け、けど、俺が増えた所で……」


二人の護衛役には力不足にも程がある。むしろ天羽さんの方が強いんじゃないか?護身術やってるって聞いた事あるよ。


「そこでですわ」

「?」


天羽さんは俺の顔を見ると、微笑みながらピッと人差し指を立てた。


「あなた、あの野蛮人を連れて来なさいな」

「野蛮人て……?」

「言うまでもないでしょう?リョータ君ですわ」

「あ、ああ……!」


俺は頷いた。

確かに、あの金髪で猫背で目つきの悪いいかにも喧嘩っ早そうな男が側にいたら、ナンパもされない気がするぞ。


「最近、リョータ君と仲がよろしいのでしょう?」

「そ、そういう訳でもないけど……」

「よくお喋りしてるところを見ますわよ」

「そ、そう、かな…?」


SNSで明日の時間割の確認(主に俺が答える係)する程度の仲ですよ。


「いいですの?リョータ君に話をして、何とか連れてくるんですわよ!」


そう言って天羽さんは去って行った。


何とかも何も……


<<天羽とマメコ!!!???行くに決まってんだろーがっっ!!タコッ!!


家に帰ってSNSで聞いた瞬間、秒で釣れた(マメコ=マーメイドコーストの略だよ)。


リョータ文章打つの早いなぁ……。


<<お前天羽と仲良いの?

>>いや、そういう訳でもないけど……たまにSNSでよく分からない私事報告がくる感じ

<<つか、今回のも天羽から言われたんか?

>>うん

<<それ、あんまり他に言わない方がいいぜ

>>どういう事?

<<あぶねぇ、っつってんだよ



よく分からないけど……言うも何も、友達が少ないから言う相手もいない。




「それではお嬢様、15時にまたこの場所にお迎えに上がりますので」

「ええ、分かりました」

「急いで事故に遭いませんようお気をつけ下さい!」

「分かってましてよ!」


私は車から降りると、夏の日差しが照り返る歩道をサンダルで走り、喫茶店の前で立っている花ちゃんの元へ辿り着きました。


「お待たせしてしまってごめんなさい!」

「新しいフラペチーノ飲んでたから大丈夫だよ~。美味しかったよ」


時刻は待ち合わせよりも10分過ぎていて、私は頭を下げて花ちゃんに謝りました。首筋に汗が流れて気持ち悪いですわ。こんな日差しが強くて暑い中、待たせてしまったのは本当に申し訳なくて、花ちゃんが熱中症にならなくて良かったですわ!


「暑い中ごめんなさい。車を止められる場所がなかなかなくて」

「ううん。真優ちゃん忙しいのに水着買うの付き合って欲しいってわがまま言ったの私だもん~」

「わがままだなんて、そんな事はなくてよ!私も水着欲しかったですし」


夏休み初日の水曜日。

私は昼過ぎに花ちゃんとショッピングデートに来ていましたの。

ピアノのお稽古が始まるまでの2時間しか時間が取れなかったのですけれど、それでも、花ちゃんと二人きりでお出かけするなんて……嬉しいですわ!


「行きたいお店は決まってるんだ~」


時間がある時に、今度は一緒にお茶をしたりもしたいのですわね。

花ちゃんに案内されて行ったのは雑居ビルの2階にあるセレクトショップでした。


「ここね、ちょっと高いんだけど、可愛い水着あるんだ~」

「まあ、本当ですわね」


緑の文字で店名が書かれた南の島を連想させる店内は、一見雑多としているようでしたが、統一されたコンセプトで商品が陳列されており、センスの良さが窺えました。

オンシーズンという事で、一番目立つ場所にサマーバカンス用のコーナーが出来ています。


一緒に水着を買うなんて、なんだかとても親密な仲のようではなくて?

試着で花ちゃんの水着姿を見れる可能性もあったりするのかしら……。

そう考えるとドキドキして、午前中の部活の疲れなんて吹き飛んでしまいますわ!


「通販で買おうかとも思ったんだけど、着てみないとサイズとかちょっと不安で~」


ハンガーにかけられた水着を見ながら花ちゃんが言います。


「ええ、分かりますわ」


ぴったりとした衣類ですものね。試着は大事ですわ。試着は。


「その……ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「何ですの?」


私は二つの水着を手に取って、もじもじと言いにくそうにする花ちゃんを見ました。

何だか大胆なお願いをされてしまいそう……!ドキドキしますわ!一体何ですの?


「真優ちゃん、モテるから……その……ど、どういうの着たら彼氏が出来るか……お、教えて欲しいな、って……」

「ええ!?」


待って下さる!?そういうアドバイスはダメ!!ダメですわ!!求められても困るんですのよ!!

私からしてみれば恋人まだなってませんけどもが浮気するのを推奨していくようなものでしてよ!?


「私、真優ちゃんみたいにスタイル良く無いから、で、出来ればあんまり胸とかばーんと出ないやつで……」

「……そ、それは……」


胸が控えめなところも花ちゃんの魅力なんですの!巨乳が好きな人間には乳牛でも与えておけば良いのですわ!


「これとこれだったらどっちが良いと思う……?」


花ちゃんが持っているのは上が黄色とオレンジの小花柄で下がデニム地のスポーティーなタンキニと、柔らかなピンクに白で南国植物が描かれているホルターネックのビキニで、花ちゃんはドキドキした面持ちで私の返事を待っています。


花ちゃんに似合うのは圧倒的にタンキニの方でしてよ!!その布面積の多さが花ちゃんの胸に合いますし、二の腕と肩のラインが綺麗に見えましてよ!色も媚びてなくて温かみがあって花ちゃんらしいですし、それにショートパンツも中性的な見た目の花ちゃんの魅力にぴったりでしてよ!


「……」


ピンク色のビキニは……形はシンプルな三角ビキニですわね。柔らかなピンクに白のプリントは男性が大好きな「女性らしい」イメージですわ。形は至ってシンプルで下半身の露出度も高く、胸元も大きく開いているので花ちゃんに似合うかどうかと聞かれれば微妙ですけれど(似合わなくはないですわ。花ちゃんは何を着ていても可愛いので)いかにも「男子が好きそう」ではありますわね……。


「ど、どっちが、彼氏とか……で、出来そう…?」


ダメですわっっ!!!!

花ちゃんに下らない男が寄って来るなんて害以外の何物でもありませんわ!!

ピンクの方は却下です!!


そう思うものの……。


でも……


でも……


花ちゃんが……

男ウケする方を望むのであれば……



「……ピンクの方ではないかしら……」

「そ、そっかぁ!」


花ちゃんの顔がパッと輝きました。

私は内心の落胆を悟られないように笑顔をキープしました。


「ちょっと大胆でドキドキしちゃうけど、真優ちゃんが言うなら間違いないよねっ?そっか!うん!ちょっと試着してみるね!」


花ちゃんはそう言うと、その水着を持って試着室に入って行きました。


「……」


私は一人で銀色のハンガーにかかった水着を無表情な目で見ながら頭の中でぐるぐると考えていました。


どうして……どうしてですの?


どうして花ちゃんは私がどんなに頑張っても友達としか見て下さらないんですの?


こんなに頑張っても、まだ足りませんの……?何が足りませんの……?


「……」


私は並んでいる水着の中からとりわけ男ウケの良さそうなオフショルダーの水着を1着手に取りました。

フリル付きの白とネイビーのオフショルダー。下品過ぎず、女性らしさもセクシーさも完璧です。


「こうなったら、私に出来る事は一つですわ……」


花ちゃんが私を見てくれるまで、花ちゃんに近づく男性を全力を持って、排除するだけでしてよ!!!

世の男性達が「男だから」という理由だけで花ちゃんの好意を受ける権利を持つのなら、そんな男は全員私に惚れて辿り着かない岸に向かって延々と泳ぎ続けていただきます!!



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