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3話 猫又娘はちょろかった

 鬱蒼とした深い森の奥深く。

 一人の美少年が四つん這いでうな垂れていた。


 そう、俺である。


 このアイテムコンボが最強だということは気付いていた。

 だから無理して取りに来た。

 でも肝心の魔物をどうやって倒すかは考えていなかった。


 ハッ! 笑いたくば笑うが良い!

 だがこれだけは言っておこう!

 恐れず進んだ者にだけ、その道の先になにがあるのかを知れるのだ!

 俺は進んだ! そして無理筋だと知った! それだけだ!


 言ってて虚しくなってきた……。

 どうにも前世から、俺は肝心なところでツメが甘い気がする。

 以前はその圧倒的な力でねじ伏せられたから問題はなかったが……。


 いや、問題があったからこんなことになってしまったのか。


 己の不甲斐なさに立ち上がれない俺を「まぁ元気だせよリク」とスー子が慰めてくれる。

 四つん這いの背中に乗り、ぽよんぽよんと跳ねているのだ。


「ありがとよ、スー子」


 唯一の仲間に心配をかけぬようにと、俺は立ち上がった。

 急に立ち上がったもんだから、バランスを崩してスー子が背中から転がり落ちた。

 だが、すぐにその場でまたぽよんぽよんと跳ねる。


 ん?

 てっきり俺を励ましているのかと思っていたが、この動きはなにか違うぞ。

 これは、俺に何かを伝えようとしている動きだ。


 コイツとはもう六年の付き合い。

 そのくらいなら分かるのだ。


 なので、スー子の視線……がどっちを向いているのか分からないが、それっぽい方向を目で追ってみる。

 目がないって不便だな。


 あちらこちらと視線を彷徨わせ、そしてようやくそれを見つけた。


 少し離れた場所。

 木に寄りかかっている人。いや、人ではないか?


 頭の上にぴょこんとフサフサの尖った耳。

 手の指からは、長く鋭い爪。そして力なく垂れ下がっている尻尾。


 トラ? ――いや、猫か?


 ぐったりと動かない、およそ人とはかけ離れた特徴を持った少女。

 薄手の衣服はところどころ破けており、色々なものが見えそうになっている。

 こぼれ落ちそうな(・・・・・・・・)、ではないあたりに、彼女の残念さを読み取って欲しいところだ。


 ともあれ、俺はその少女に近付く。

 あの様子ならばいきなり攻撃されてジエンドということにはなるまい。

 いざとなればスー子もいるしな。


 眠っているのか、歩み寄っても目を開かない少女。

 よく見れば、衣服同様に体中傷だらけになっていた。


「おい。大丈夫か?」


 肩を揺すってみる。

 俺は紳士だ。意識がなさそうだからと、いきなりイタズラするような変態ではない。


 しかしこの少女。

 耳も尻尾も飾りではないな。

 触ってみればぴくぴく反応を返すあたり、本物だろう。


 あ、これはイタズラではなく触診なので勘違いしてはいけない。


 尻尾もフサフサとしていて、なかなかに触り心地が良い。

 ずっと撫でていたくなる。


 そこまで確認して、俺は少女の正体に思い当たった。


『モンスター娘』

 通称モン娘である。


 この世界には、魔物の他に魔人族が存在している。

 魔物は動植物なんかが瘴気に晒されて変異したものだと言われており、魔人族は元からこの世界に存在したものだと言われている。

 そして、その魔人族と魔物が交配して生まれるのが、このモン娘らしい。

 その話を聞いた時、俺は魔人族に大いなる恐怖を感じたものだ。


 まぁそれはさておきモン娘。

 魔物の部分と魔人の部分が合わさった容姿をしており、コスプレした女にしか見えないが能力は高い。

 これは魔人族の能力が秀でているので、それを受け継いだものだと言われている。

 さらにモン娘は女性型しかいないのだが、これは受胎してから出産までがとてつもなく早いため、胎内で性分化する前に生まれるかららしい。


 独自で繁殖する術を持たないため、数はさほど多くない。俺も実際に見るのは前世から数えても三体目だ。

 変わり者の魔人族といえど、そうケモナーは多くはないのだろう。


 せっかくの貴重なサンプルなので、もう少し詳しく観察してみようとモン娘に手を伸ばす。

 破れかけの衣服など邪魔だから剥ぎ取って差し上げようとしたところ、突然ぱっちりと開かれた黄色い瞳と目があった。


「なにしてるニャ」

「治療中だ」


 間髪いれず答える。

 こういう時はビビッたら負けである。


「そ、そうかニャ。助かるニャ」


 しかし語尾が「ニャ」とはあざとい。

 少しだけケモナー魔人の気持ちが理解出来てしまう。


「俺はリクだ。お前は?」


 手を止めてモン娘に尋ねる。

 治療する術などないのだから、手を止める口実のためだ。

 実に冷静な判断である。


「アタシはヴェルティ。見ての通り猫又娘ニャ」


 やはり猫だったか。

 黄色い瞳は瞳孔が縦長で、猫らしい特徴に一致する。

 猫とヤるとは魔人は本当に恐ろしい。


「そうか。ところで、なんでこんなにボロボロなんだ?」


 とりあえず敵意はないらしい。

 すぐに襲いかかってくる気配はないので、俺はヴェルティに色々聞いてみることにした。


「アタシ以外のモン娘に初めて出会って、友達になりたかったニャ。そしたら急に攻撃してきて……」


 ほぅ?

 興味深い話だ。

 ただでさえ珍しいモン娘が、この近くにもう一体いるのか。


「普通に戦えばアタシの方が強いニャ。でも不意打ちだったから、ギリギリのところで負けてしまったニャ……」

「相手も大分弱っているということか?」

「当然ニャ」


 ピコンと俺の頭に電球が浮かんだ。

 普通の魔物よりも優れた力を持つモン娘。

 それが弱った状態で、今二体も近くにいるのだ。


 圧倒的僥倖である。


「それより治療はしてくれないのかニャ?」


 俺は必死に笑いを噛み殺しながら、赤いペンダントを前に差し出した。

 それはなにかと小首を傾げるヴェルティに説明してやる。


「今してやれる治療はないんだが、この中に入るとみるみる回復するんだ」


 これは本当のことである。

 どういう原理の不思議空間なのかは知らないが、ペンダントに収納された魔物は体力も魔力も回復出来るのだ。


「それは凄いニャ」

「そうだろ? だからヴェルティをここに入れてあげようかと思ってね」

「分かったニャ」


 ちょろいッ!

 圧倒的ちょろさであるッ!


 そうしてヴェルティがペンダントに手をかざすと、その姿はふっと吸い込まれるようにペンダントの中へと消えた。


 猫の少女は気付いてないが、これで契約は完了である。

 アイツは二度と俺には逆らえない忠実な下僕となったのだ。


「フハハハハハッ! 簡単じゃあないかッ!」


 俺の笑い声が、高らかに魔性の森に響き渡った。


 だがいつまでも背中を仰け反らせて笑っている場合ではない。

 次にするべきは自分の能力がどの程度上昇したかの確認だ。

 とりあえず、そこらの小石を拾って思い切り投げてみる。

 普段なら60メートルも飛べば良いほうで、他の子供たちと比べて大きく劣るものだ。


「よっ!」


 掛け声一発。

 いつもよりしなやかに振り切れた腕から、弾丸のように小石が飛び出した。

 バサバサっと射線上にあった草や枝を破壊しながら、一直線に森の奥へと消えていく小石。

 予想以上の結果に俺の頬は緩みっぱなしである。


 次に脚力。

 取り込んだのが猫なのだから、こっちの方が本命だ。

 試しにジャンプしてみる。

 すると、俺の体はピョンと木の上まで到達していた。

 高さにして大体5メートル。驚くべき跳躍力である。


 残念ながら魔力はほとんど増えていないようだったが、それでも大満足の結果であった。

 しかもこの後、もう一体のモン娘を難なく取り込める予定なのだ。


 やはり俺は最強になるべくしてなる運命なのだろう。

 スー子を頭に乗せて喜びの舞を踊りつつ、俺は胸を躍らせる。


 だが一体目のモン娘を運良く手に入れただけの俺は、まだ気付いていなかった。

 モン娘の危険性も、恐ろしさも、そしてエロさも……。


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