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2話 最強への第一歩

 普通の大人が徒歩で五日の道程。

 それが自分だと十日かかるという事実に、今更ながらに絶望していた。


 拾った木の棒を杖代わりに、動きたくないと駄々を捏ねる足を引き摺る。


 正直舐めていたよ。

 前世では筋力というものを意識することがなかった。

 いや、他者と比べて凄まじいという程度の認識でしかなかったのだ。


 今思うと前世の自分は化け物だな。

 この程度の道のりならば一日と掛からず走破出来ただろうし、今のように膝がぷるぷるすることもなかった筈だ。


 しかし、だからこそ、俺はこの森に入らねばならないのだ。

 あのアイテムさえ手に入れれば、無限にパワーアップすることが出来るのだから!


 ようやく辿り着いた魔性の森の前で一休み。

 汗だくでボロボロの体には、頬を撫でる風すら寒く感じる。

 それが急激に身体を冷やして体温を奪われ、背筋がぶるると震えた。


 ちょっとのつもりで腰を下ろしたのだが、もうなんていうか、尻から根っこが生えたみたいに動けない。

 まったく立ち上がれる気がしないわ……。


 なのでしばらく草の上に寝転びながら、目の前に広がる魔性の森を眺めることにした。


 隣にはスー子。

 全身が水みたいにぷるぷるしているコイツは、たぶん汗とかかかないんだろうなぁと羨ましく思う。

 不意にいたずらしたくなって指をつぷっと差し入れてみたら、なんかほんのり赤く染まった。


 あれ?

 なんかまずいところに指を入れてしまったか?


 そんないけない妄想が頭を掠めるのも、きっと疲れているせいだろう。

 というかコイツが本当はオスだったらどうしよう……。


 まぁいっかとつぷつぷしてると、いつの間にやら体力も少し回復。

 気を取り直して森の中へと侵入することにした。


 魔性の森。

 たいした広さではないが、奥の方に毒の沼地があり、そこから瘴気が噴出している。

 そのため魔物が多く、あまり人は立ち入らない森である。


 道らしき道もなく、薄っすらと紫がかった空気で澱む景色。

 ただでさえツタや草木が茂りまくっているのにそれだから、簡単に迷ってしまうというのも人を遠ざける要因の一つだろう。


 だが俺は迷わずズンズン進む。

 それもそのはず、俺の進むべき道には、点々と青い光の道しるべがあるのだから。

 これさえ辿れば迷う心配はないのだ。


 これは目印魔法で、洞窟や森に入る時に使われる割とメジャーな魔法だ。

 魔力はほとんど使用しないが、三十六小節というくっそ長い詠唱を必要とする。

 まぁ一種のパスワードみたいなもので、それが正しく合っていないと反応しないという仕組みだ。


 その青い光を目印に、父から貰った剣を手にした俺はツタを切り草木を払い、スー子と共に森の奥へと進んで行った。

 若干スー子が震えているのは、恐らく魔物の気配を感じているからだろう。

 以前の俺であれば、魔物のほうが裸足で逃げ出したものだが、今は違う。

 向こうから見れば、格好の餌なのだ。


 もし出会ってしまったらアウト。

 スー子を囮に全力で逃げる。


 当パーティーの癒し系命綱担当をチラッと見やる。

 俺の思惑を読んだのか、スー子がまたぷるんと震えた。


 ――。


 しかし三十分後。

 俺達は運良く魔物に出会わず、目的の場所へと到達していた。


 目の前にはなんの変哲もない一本の木。

 だがその表面には、青い光で「ここ」と書いてある。


 ゆっくりと近付いて、ざらりとする木の表皮に手をあてる。

 そして魔力を込めながら、再び口にする三十六小節。


 ぼやっとした明かりが手の平から生まれると、それに呼応して木の表面がパックリと割れた。

 そこに手を差し入れ、目的のブツがあるか確かめる。


「あった」


 小さな達成感とともにそれを握り、手を引き抜いた。

 そして手の中の物を確認する。


 物は二つ。

 一つは絶対遵守の契約おれのものはおれのものという名の赤いペンダントだ。

 魔物の了承を得て魔物をここに収納すると、その魔物は持ち主に対して絶対的な服従を強いられることになる。


 一般的な魔物使いも似たようなアイテムを持っているが、このアイテムほどの強制性はない。

 普通は魔物を倒して調教することで使役しなければならないのだが、これさえあればその手間が必要なくなる。

 しかも持ち主の魔力量に応じて、このペンダントに入れられる魔物の数は無限に増えるというオマケつきだ。

 ただ副作用もあり、万が一持ち主が魔物の方に服従してしまうと、主従が逆転するらしい。

 そんなマヌケがいるのかどうかは知らないが、今の俺だと力が無さ過ぎてひょっとしたらそういう事態もありうる。


 ゆえに二つ目のアイテム。

 従者の奉公おまえのものもおれのものである。


 これは自分に従う者から、その力を半分分け与えて貰えるという指輪状のアイテム。

 絶対遵守の契約おれのものはおれのもので魔物を従え、その力を従者の奉公おまえのものもおれのもので俺に加算。

 当然その魔物よりも俺が強くなれるので、力で負けることはなくなる。


 そしてこのコンボで、俺は無限に強くなることが出来るという算段なのだ。

 当時の俺はその危険性にすぐ気付いた。さすがの頭脳である。

 自他共に認める最強の俺だったのでこんなアイテムは不要だったのだが、しかしこのコンボ。はっきりいってやばい。


 なぜなら理論上では、全魔物を従えた、全魔物の半分の力を得た人間が誕生する可能性があるからである。

 いかに俺といえども、そんな規格外の化物と戦うのはゴメンだ。


 だから隠した。

 おいそれと捨てて拾われるわけにはいかなかったのだ。


 それが今、俺を最強へ誘うかと思うと笑いが込み上げてくる。

 ククク……。

 過去の慎重な行いは、いずれ自分に返ってくるものなのだ。

 規格外の化物。

 それに、俺がなってやろうじゃあないか!


 さて、さっそく二つを装備してみて、今の魔力量でどれだけの魔物を従えられるか確認。

 以前の俺が試した時は、確か五百万くらいの魔物枠があった筈だが……。


 ――2。


 え? 2? たった?


 なんてこったと膝をつきかけるが、いやいや待て待て。

 今の俺に魔力がないなんてことは、とっくに知っていたじゃないか。

 ないならこれから増やせばいい。

 魔物の力を自分の力へと換えていけば、枠も比例して増えていくことだろうさ。


 ただ少しは頭を使わなければならなそうだ。

 試しにスー子を従者にしようと思っていたが、それは枠の無駄使いにしかならん。


 まずは魔力の多い魔物を選び、それを倒して命か服従かを選ばせるのだ。

 そうしてどんどん倒していけば、いずれ枠にも余裕が生まれるんだから。


 ――。


 今、はたと気付いてしまった。

 魔力の多い魔物を倒す? 最弱民の俺が? どうやって?


 今度こそ俺は膝をついた。


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