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15話 俺は野性を取り戻す

 イスリアの勝利が高らかに宣言される声を、俺はどこか遠くに聞いていた。


 油断した?

 所詮女だと侮った?


 いや違う。

 彼女は、俺の知らない魔術を用いて俺を超えたのだ。

 それを卑怯だと罵るつもりはない。

 戦いなのだ。使えるものは使わねば。


 だから負けたことはいい。

 闘技会など戯言のようなもの。

 魔力増強ドリンクが手に入らないのは痛いが、他に入手する方法もあるだろうし。


 そんなことより、イスリアが手に入らないほうが大問題だ。

 千載一遇のチャンス。

 それを逃してしまったことが、悔やまれてならない。


 思わず土を掴む手に力が入り、地面を掻き毟っていた。

 その時不意に、頭上から悲しげな美声が降ってくる。


「リク。ごめんなさい……」


 ……あ?


 ごめんなさいだと?

 それはあれか?

 貴方のものにはなれませんというお断りか?


「謝るな!」


 咄嗟に叫んでいた。

 ダメだダメだ!

 そんな結論は認められない!

 たかが勝負に一度負けた程度で、俺とイスリアのハッピーファミリー計画がなくなるなどあってはならないんだ!


 だから取り消せと、思いを込めてイスリアを睨みつけてやった。

 目が合うと、彼女は一瞬怯み、そして逃げ出してしまう。


 おい! 待て!

 せめて次に会う約束を!


 遠ざかる彼女の背中は、その声を振り切るかのように霞んでいった……。





 そのまま彼女は戻らなかった。

 表彰式にも出ず、結局俺が繰り上がりで優勝という形になる。


 手に入らないと思っていた魔力増強ドリンクが手に入り、ついでに賞金50万ブールも貰えたことは僥倖である。

 だが欲しい物リスト序列第一位に躍り出たイスリアの行方は、ようとして知れなかった。


 というか、俺は何をやっていたのか。

 戦って勝ったらモノにする?


 馬鹿かッ!?


 本当に欲しいなら、無理やりにでも手篭めにしてしまえば良かったではないか。

 まだ男を知らないであろうイスリア。

 培った俺のゴッドハンドなら、あの純白を染めきることなど容易いのだから。


 次に会うことが出来たなら必ずモノにしてやると誓い、もう用事のなくなった闘技場をあとにする。


 これからやるべきことは決まったのだ。

 強くなる。

 二度と誰にも負けないほどに。

 そうして復讐も、イスリアを手に入れることも、再び世界を制することも。

 全てを叶えてればいいのだ!


 そんな当たり前の事すら思いつかないほど、平々凡々と寂れた田舎で暮らした十二年は、俺から野性を奪っていたのだろう。

 取り戻さなければならない。


 牙を! 爪を! 本能を!


 宿屋道の入り口付近。

 昨日は手も足も出なかった高級宿で部屋をとり、俺はそう決意していた。


 一面をふかふかの絨毯で埋め尽くし、真紅の皮で作られた高級ソファがお出迎え。

 装飾品にも贅が凝らされており、俺の居城ほどではないにしろ、少しだけ昔の感覚が蘇ってくる。


 あとは女さえいれば良いのだが、どうにも娼婦を買うというのは気に入らん。

 女とは手近なところに揃っているものであり、自分で用意するのは俺のプライドが許さないのである。


 チラッと横を見る。

 スー子が後ずさった気がした。

 だが最近のスー子は実に積極的で献身的であることを俺は知っている。

 初めての合体時はぶよぶよした感触ばかりだったのだが、最近では締め付けたり形状を変えたりしてくれているのだ。

 いずれ商人にでもなる日が来たなら、これを全国的に売り出して大儲けしよう。


 しかし今の俺を満たすにはスー子では足りない。

 この野性をぶつける相手としては不足である。


 ペンダントを握り眺める。

 ラキュアではどうか?


 ――。


 考えるまでもなかった。

 アイツはダメだ。


 単純な技勝負なら勝機はあると言えるだろう。

 それにあの美貌、色気、ばいんばいんだ。

 男を惑わす三種の神器を兼ね揃えたラキュアは、俺に相応しい相手だとは思うが危険すぎる。

 奴は俺の知らないペンダントの法則を知っていたのだから。

 何を知り、何を考えているのか分からない以上、今は手を出すべきではない。

 もちろん、いずれヒィヒィ言わせることは決定事項であるが。


 となると、必然的に残った選択肢は一人である。

 まだ成熟はしておらず、前を向いているのか後ろを向いているのか分からない絶壁ではあるが。

 しかし見た目で言えば、十分にストライクゾーンに入っている。

 今後の成長に対する期待感も大きいし、早めに手篭めにしておくのも一興であろう。


「出て来いヴェルティ」


 ぽんっと煙のようにペンダントから猫が飛び出した。

 茶色い頭にちょこんと乗っているフサフサの耳。

 意志があるかのように、右へ左へと揺れている尻尾。

 大きな瞳にはイタズラ心が垣間見える、そんな少女である。


「呼んだかニャ?」

「あぁ。今からお前に褒美をやろうと思ってな」


 尻尾をピンと立て、大きな瞳をさらに大きく広げてヴェルティは近寄ってきた。


「褒美!! ついに解放の時ニャ!!」


 無理やり、というのも良いだろう。

 だが現状、戦力の一端を担うコイツの心象を悪くするのは頂けない。

 解放されると期待し続けているコイツは、それを餌に操るのが一番である。


「解放されたいか?」

「もちろんニャ!!」

「その為の条件を提示してやろう」

「なんニャ!? なんでも聞くニャ!!」


 ちょろい。


「俺を気持ちよくさせるがいい。男を満足させる方法は知っているか?」


 途端にヴェルティの顔が赤く染まった。

 怒りではない。羞恥だ。

 しかし解放を条件にされている為か、モジモジと体をくねらせながらも拒絶の反応は示していない。


「き、気持ち良くって言うのは……やっぱりアレのことニャ……?」


 さてどれのことかな?

 俺は無言で答えない。

 だが雰囲気で察したのか、ヴェルティは更に近寄ってくる。

 大股開きでソファに座る俺。その間へと。


「あ、あまりよく分からないニャ……。でも、それで解放してくれるなら頑張るニャ」


 ……。


 それから俺は十分にヴェルティの献身を堪能した。

 猫の特性を受け継いでいるのか、舌による奉仕はザラリとしていて痛い。

 刺激に耐性のないこの身体には強すぎるし、不慣れなヴェルティの技量も相まって、心地よさとはかけ離れたものであった。


 だが奉仕するヴェルティを見下ろすというのは、かつての俺を想起させるのに十分だったようだ。

 短い時間ではあったが、俺は少なからず以前の俺を取り戻せた気がしていた。


 ――本当に短い時間ではあったが……。

 そのことに、ちょっとショックを隠しきれない……。


 事が終わり、口元を拭いながら喜色満面の笑顔でヴェルティが問いかけてきた。


「満足したかニャ? これでアタシはお(いとま)してもいいニャ?」


 それににっこり笑顔で答え、俺はペンダントを掲げる。


「あぁ、お(いとま)してもいいぞ」


 瞬時にしてヴェルティの姿がペンダントに吸い込まれていく。


「そういう意味じゃないニャーーーーッ!!!」


 悲しげな彼女の声を引き摺って。





 いつの間に眠っていたのだろうか。

 気付けば朝になっていた。


 ラキュアは襲ってこなかったようだが、ペンダントから俺とヴェルティの行為を見ており、今夜は効果が薄いと判断したのだろう。

 おかげでぐっすりと眠ることが出来た。

 これからもヴェルティはちょいちょい使ってやることにするか。


 さてと、と朝のコーヒーを飲みながらソファに座り、今後の予定をたてる。

 魔力増強ドリンク改の効果は昨夜のうちに確認した。

 増えた魔物枠は3。

 多いとはいえないが、増えないよりはマシだろう。


 しかし欲を言えばもっと欲しい。

 枠はあればあるだけいいのだから。


 そこで俺は、これから北西へ向かうことにしていた。

 そこにあるのはポポスという町。

 大陸を分ける、グジャ王国、ロンゴ帝国。そして不登山脈の北にある諸国連合。

 この三勢力が取り合っている町だ。


 一年の大半を戦に巻き込まれている町なので、その分瘴気も濃く溜まっている。

 その為か、ポポスの周りには魔力の多い魔物が多数存在しているという話だ。

 それらを片っ端からペンダントに取り込もうという作戦である。


 さすが俺。抜かりがない。


 剣を腰に差し、頭にスー子を乗せる。


「さて、最強になりに行くか」


 そうして俺は、ルンディーの町をあとにするのであった。



 **********   1章 最強への道のり 完 **********


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