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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 一部~前準備~
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3 久方ぶりの共闘

 切り立った崖の上で立ち話もなんだ。と言うことで馬車に招待される。


 乗車人数の都合上聖女とお供を入れて後二人しか入れず、ギフトは面倒臭がり拒否したので、ロゼとミーネが馬車に乗ろうとする。


「お待ちください!人狼族(ワ-ウルフ)を馬車に入れるわけには行きません!」


 この期に及んでまだ下らない言葉を吐く聖教連に辟易しつつ、ギフトは成り行きを見守る。


 言われた通りこれはミーネの問題。もし、ミーネが助けを求めるなら力を貸すが、それまではなにもしない事にしたようだ。


 それはロゼも同様で、冷めた視線を浴びせるものの口は挟まず、ミーネに一任している。


「あなた方はこの者に何をされたのですか?」 


 だが言葉を出したのはミーネではなく聖女だった。それも怒りを抱えているのか、怒気が混じった軽蔑の声。


 その声に答える者はいない。仮に人狼族(ワ-ウルフ)に対して恨みがあろうとも、ミーネ自身は何もしていないのだから答えられる訳もない。


「ですが、獣人族は我等の教えを理解しません。そんな危険な者を一緒にするわけには・・・。」

「あなた方は、この者に、何をされたのですか?」

「・・・いえ。・・・何も、されていません。」

「では何をもって危険と言うのですか?私からすれば偏見だけで敵を生み出すあなた方の方がよっぽど危険と思いますが?」


 聖女の言葉に誰も二の句が継げなくなり、沈黙する。ギフトはそれを見て少しだけ感心する。


 どう見ても若く経験が無さそうだが、聖女と呼ばれるだけの事はあるのか、まさにらしい解答だと言えるだろう。


 ただ、それを今の彼女が言っても説得力は無い。言葉は内容ではなく誰が言うかで決まるもの。若い彼女の言葉は響きやしない。


「・・・申し訳、ありません。・・・以降慎みます。」

「はい。では私達はお話がありますので失礼します。」


 危険だなー。ギフトは言葉に出さずにそう思う。彼女だから従っている。それなら良い。だが、聖女と言う立場だから従っているのなら危うさがある。


 これが知り合いならなんとかしてやろうとも考えるが、無関係な人間なら心で思うだけで終われる。その気楽さが今はありがたい。


 複雑な事情に介入しても、ギフトには何も出来ない。精々暴力を振るう事しか出来ないギフトには、組織の形態に文句をつける気は無い。


「どう思います?ギフトさん。」


 ギフトがのんびり煙草を吹かしていると、ルイが心配そうに話しかける。と言ってもそれはギフトに対してでは無い。ルイが見つめるのは一点だけだ。


「答える義理なし。満足かな?」

「・・・私は少し危険な気がするんです。」

「答える義理なし。」

「誰かが救ってくれるとありがたいんですけどね。」

「義理なし。」

「せめて手伝いくらい出来る人が・・・。」

「俺あいつら嫌いなんすよ旦那。」


 明確に拒絶する。そもそも大きな組織には出来るだけ関わりたくはない。人が多ければそれだけ厄介事が増える。可能な限り忌避すべきものだ。


「割り切れよ。あれはあいつらの問題。根本的に他人は何も解決出来ない。邪魔な人間全員を殺せってんなら出来るけど?」

「それは・・・ちょっと・・・。」 

「なら無理だ。そういうのは俺じゃなくてロゼの方がまだ適任さ。」


 説得は苦手としている。恐怖を与えて屈服させるか、暴力で解決出来なければ基本何も出来ない。


 言葉での解決も相手によりけり。殴りたくないならそれも考えるが、聖教連はむしろ殴りたい相手。努力するのも馬鹿馬鹿しい。


 ギフトは煙を吐き出してダルそうに海に目を向ける。


 折角海があるのにここまで陰鬱な気分にさせられるとは思って無かったのだろう。早くここを立ち去って海で遊びたいとしか考えていない。


 そうギフトが思っていると、話し合いが終わったのかロゼとミーネが馬車から降りてくる。


「待たせたなギフト。では行こう。」

「お?もう良いのか?」

「うむ。何があったか話しただけだ。それと町の場所も聞いたからもう大丈夫だ。」


 ロゼは疲れた顔でそう報告してくる。隣を見るとミーネも少し機嫌が悪そうで、頬を膨らましてロゼの服を掴んでいる。


 ギフトはミーネの頭を撫でながら苦笑いを浮かべる。二人ともここまで負の面を表に出すことは珍しい。


「じゃあ行くか。とっとと忘れて遊びに行こう。」

「そうだな。切り替えよう。」

「うん。・・・え?」 


 三人がこの場から去ろうとするが、突如ミーネの耳が動く。そして森を見ると不安気にロゼとギフトの服を強く握りしめる。


「んん?・・・んー。面倒だねー。」

「・・・何事だ?」

「なんか来るね。ははは。」


 乾いた笑い声を上げて森を見やる。ロゼも剣を抜いて戦闘状態。次に動いたのが冒険者三人で、未だ剣を抜いたロゼに警戒するのが聖教連。


 ミリアが愚痴を言いたくなるのもわかる。そう思わざるを得ない反応だ。警戒したところでギフトには勝てない。それにどうせ同じ警戒するなら武器くらいは構えて欲しい。


「ミーネは俺の後ろ。ロゼ。基本はお前に任せるよ。」

「ぼ、僕も戦うよ!」

「まだ駄目。せめて俺が許可出してからな。」

「・・・だったら戦い方教えてよ。」

「それとこれとは別問題。正面から数は四。ワイバーン程じゃ無いから安心しろ。」

「あんなものが四匹も来たら妾には無理だぞ?」

「リカ。お前もロゼと前衛だ。ミリアは二人の援護。ルイはおたおたしてる白いの守ってやれ。」

「あんたに言われなくても!」


 慌てる聖教連を余所に、ギフト達は陣形を整える。ギフトは手を貸すつもりはないのか、口だけ挟んで後ろに下がる。


 ミーネも文句は言いながらも今の自分には出来ないことをわかっているのだろ。ギフトに小言を言いながら聖女達の所に行く。


「こっちだよ。ギフト兄の後ろが一番安全だからこっちに来て。」

「な、何が来るのですか?」

「わかんない。でも大丈夫。ギフト兄が戦わなくて良いそうだから。」


 ロゼはミーネの言葉に苦笑いを浮かべる。現状ギフトとロゼの間には差が開いている。ギフトにとって何てことの無い相手でも、ロゼからすれば十分脅威だ。


 だが、ミーネはギフトが慌てない限りは慌てない。例え今まで戦った岩人形(ゴーレム)やワイバーンが同時に来てもギフトは平気だろう。


 弱い国や町なら簡単に堕とせる相手でも、ギフトの後ろにいれば安全。その信頼を受ける事はどれ程のプレッシャーなのか。ただそれでも堂々と出来るギフトがいることは頼もしい。


「そんなことせずとも!聖女様は私がお守りします!」

「無理だと思うよ?だよねギフト兄。」

「良いさ。好きにやらしてやれ。来るぞー。」


 間の抜けた声と共に森からある一団が現れる。灰色の胴に四つの足。見た目は猪だが、その表皮は明らかに違う。


 ストーンボア。石の皮膚で全身を覆った猪。堅さと突進力は並の盾や技量では防ぐ事も難しいだろう。


「相性悪そうだなー。」

「何で?」

「切るのが難しいから。大鎚や手甲、打撃の方が有効なのさ。」


 ギフトは既に観戦状態で座っている。その上に座ってきたミーネの耳で遊んでいる様子は平和に見えるだろう。


「気が抜けるんだけど。」

「諦めてくれ。」


 対称的にロゼは悩んでいる。ギフトの言う通り自分達の武器は通用しにくい。


 ギフト程の高火力技があるわけでもなく、岩をぶん殴って笑える性格もしていない。突き技はあれど、下手を打てば突き刺さって剣が抜けなくなる。


「リカ。お主は手段はあるか?」

「私には無いわよ。でもこっちには優秀な魔法使いがいるから。」


 そういってリカは後方に視線を流す。ギフトと似たような帽子を被った正統派の魔法使いは、罰が悪そうに呟く。


「ギフト君の前で優秀と言えない。」

「比べるのが可笑しいんですよ。こっちはただの人間ですから。気楽にやりましょう。」

「煙草吸って良いかミーネ?」

「駄目ー。臭いもん!」

「そっかー。・・・そっかー・・・。」


 相も変わらず緩い雰囲気のギフトに脱力しかけるも、あれがいるなら最悪勝てなくても問題ないかと四人は気楽になる。


 それぞれで頷き合い、やっと準備が整った聖教連を尻目に、ロゼとリカは我先にと駆け出した。


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