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Deliver Happy   作者: 水門素行
三章 闘技場乱舞 一部~前準備~
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1 再会

 人の通らない道なのだろう。踏み均される事のない道を三人の男女が歩いている。  


 一人はだらしない赤髪赤目の魔術師の様な帽子を被った青年。一人は鋭い目付きをした銀髪の女性。もう一人は青髪に耳と尻尾が付いた、二人より背の低い女の子。


「変な匂いがする。」


 青い髪の人狼族(ワ-ウルフ)のミーネが鼻をすんすん揺らして二人に告げる。赤い髪のギフトはそれに釣られて匂いを嗅いでみるがさっぱりわからない様子で首を傾げる。


「何故お前はミーネに張り合うのだ?」


 銀髪のロゼが呆れた感想を呟くと、ギフトはそれに対して飄々と言い返す。


「張り合ってる訳じゃないさ。何の匂いか気にならない?」

「んー。なんだろ?鼻がきゅーって狭くなる感じ?嫌な匂いじゃ無いけど・・・。」


 ミーネの見解は要領を得ず、二人は疑問を抱えるばかり。ただ、ミーネが嫌ではないと言ってるのなら構わないかと、気にしないことにした様だ。


「行けばわかるだろうけどなー。せっかくなら賭けるか。」

「ふむ。何をだ?」

「負けた奴は暫く言うことを聞く、とか?」

「・・・それは面白いか?」


 この三人は言われれば動く。罰ゲームとか関係なく、不足分をそれぞれ補いあっている。


 一番使えないのはギフトだろう。日常生活においては全く役に立たないのがギフトで、戦闘もよっぽどの事がなければロゼに一任している。


 結果ギフトは人狼族(ワ-ウルフ)と別れてから一度も戦ってはいない。食事の為の狩りは行っても、戦闘と呼べるような事は何一つしていない。


「強いて上げれば妾はいい加減稽古を付けて欲しいが?」

「あ!僕も僕も!」

「じゃあ止めとこうか。さて次はどんな町かなー?」


 あくまで鍛えるのを拒否するギフトにロゼもミーネも溜め息を漏らす。元気良く手を上げていたミーネは耳も尻尾も垂れ下がった。


「何故だ?」

「そもそも俺は人を育てるのに向いてないよ。努力して強くなった訳じゃないからね。」

「そうは思わぬ。お前なりにやってくれれば文句は言わぬぞ?」

「嘘だね。こないだボッコボコにしたら怒ってたじゃないか。」


 ロゼは一応何度かギフトと戦ったことはある。その度にただ虐めているのでは、と言う光景にしかならない。


 ロゼもその度反省して次に生かそうとしているが、結果は芳しくなく、無様に地面と抱擁を交わすだけになるのだが。


「あの時はまだお前の性格を知り得てなかったからだ。今は違う。」

「僕らが強くなればギフト兄も楽できるよ!」

「んー。それは良いなぁ。でもなぁ・・・。」


 あくまでも渋るギフトに、二人は無言で視線を交わす。正直ギフトがここまで拒む理由が見えないのだろう。


 楽しいこと、楽なことに全力を注ぐ。それがギフトだ。楽しくは無くともいずれ楽になるのならそれを惜しむとは思えない。


「まーいずれ時期が出来たらな。取り敢えず町に着いてから考えよう。」


 そして先伸ばしにする。これもらしくないと言えばらしくない。


 今できるなら今やる。なにをするにしてもあまり迷いを見せない。そしてギフトは今迷いながらも消極的になっている。


 本人の意思は固く、二人もそれ以上は咎めない。何か理由があるのなら、それはいつか話してくれるはず。そう信じてここでは沈黙する。


「そんな顔するなよ。俺も事情があるのさ。」

「・・・わかった。いつか話してくれるのを待とう。」

「そうさな。いずれわかるさ。・・・っと。」


 ギフトは言葉の終わりと共に視線を他に向けて鼻を揺らす。すると何かに気付いたのか顔を綻ばす。


「あーそっか。ミーネは知らないか。」

「何?この匂い、ギフト兄は知ってるの?」

「ああ。もうすぐ着くな。」


 ギフトからすれば懐かしい匂い。故郷の匂いとかでは無いが、随分前に見たときの印象が未だ忘れられないくらいに脳裏に焼き付いている。


「む?確かに何か匂うな。何の匂いだ?」

「見たらわかるさ。俺の好きな物の一つだな。」

「・・・お前は時に要領を得ないな。まぁ行けばわかるのか?」


 ロゼは鼻を擦ってその匂いを注意深く嗅ぐ。別段嫌いでは無いのか何度も深呼吸を繰り返し、初めての体験に興味を向ける。


 この中で誰より嗅覚の鋭いミーネはくすぐったいのか鼻をぐじぐじ擦り、ロゼにハンカチを渡されて鼻をかむ。


「うー。嫌じゃ無いけど慣れない・・・。」

「暫く滞在するかもだし早めに慣れとけよ?キツいならすぐ移動するけど。」

「うん。大丈夫。無理なら言うよ。」


 三人は会話をしながら藪道をひたすら歩く。もうこんな道を歩くことも慣れたもので、心地よい鳥の声を聞きながら森を抜ける。


 森を抜けるとそこから先には道がなかった。緑の道は途切れ、代わりに大地を空が多い尽くしていた。


「なんだこれは?」

「・・・ギフト兄・・・。」


 ロゼが興味深そうに身を乗りだし、ミーネが少し怯えてギフトの服を掴む。


 不安を取り払うようにギフトは笑い、ミーネの頭を撫でる。そしてその正体の名前を告げる。


「これが海さ。大陸の端。昔は世界の終わりと言われていた場所さ。」


 見渡す限りに青が広がり、太陽は水面に煌めいて輝きを放つ。


 初めて見るものの心を奪い、懐かしきものの心を癒す。全ての始まりの場所がそこには佇んでいた。


 ◇


 ロゼとミーネが初めて見る海に興味津々の様で目が離せないでいる。一方ギフトは若干宛が外れたのか腕を組んで悩み始める。


 海に行けば町か国が見えると思っていた。流通の起点となり、終点とすることのできる海沿いには発展した人の住む世界がある。


 ただ、今ここには後ろに森、切り立った崖から先が海で、目的とするべき場所が見えずにいた。


「んー。海沿いに歩くか?問題はどっちに行くかだなー・・・。」


 森に戻る選択肢はない。かといって前に進むことは当然だが出来ない。要は右か左だが、どっちに人がいるかわからない。


「海かー・・・。ちょっと怖い。」

「そうか?妾はもう少し近くで見たいな。」


 悩むギフトを余所に、二人は海についての所感を語り合う。ギフトもどうせ答えの無い問いに悩むのが馬鹿馬鹿しくなったのか、空を見上げる。


「太陽は・・・右寄りかな?」


 迷ったら適当に指針を付けて。今は昼中で太陽は中天にあるが、少し右側にずれている。


「ギフト?」

「初の海だが悪いな。どっかに村なり町なりあるだろうからそれを探すよ。」

「はーい!どっちに行くの?」

「取り敢えず右に。海沿いに行けば何かあるだろ。」


 ギフトの言葉に二人も特に否定せず、黙って頷く。


 目的地などあってないようなもの。それに海を見ながら歩くのもミーネとロゼからすれば飽きないらしく、話は尽きない。


「海か。泳げるのか?」

「当然。基本的にはただの水だから。」

「・・・僕泳げない。」

「妾が教えてやろう。海で泳いだ事は無いが、水なら問題ない。」

「俺は釣りかなー。久しぶりに。」


 とりとめの無い話をしながら進んでいると、ふとミーネが立ち止まり周囲に視線を巡らせる。


「・・・?んー?」

「どうしたミーネ?」

「誰かいるな。んー・・・。」


 ミーネは嗅覚で、ギフトは直感で何かいることに気付く。ミーネは海の近くだからか、鼻が鈍ってしっかりと認識は出来なかった様子。


「・・・どう思うミーネ?」

「人だと思う。音が止まないからこっちには気づいてない?それほど遠くないよ。でも人数が多い・・・かな?」

「だいたい正解かな。」


 耳を忙しなく動かして出来るだけ情報を集めようとする。そしてそれはギフトの予想と大まか一緒だった。


 それに満足しつつ、ギフトは警戒心を抱かず歩く。


「おい?大丈夫なのか?」

「さあ?ただこの辺の人なら案内も頼めるだろ。」

「ギフト兄って恐い物無いの?」

「怒ったロゼは恐いかなー。」


 ギフトが不敵に進むことで、二人も少し警戒を解く。当然油断しきる事は無いが、それでも今から精神を磨り減らすのは得策ではない。


 三人は会話を止めて歩き、やがて標的の近くに辿り着いたのかギフトが動きを制するため腕を二人に向けて手を広げる。


「・・・いた。・・・ん?」

「あれは・・・。」


 崖のちょっとした出っ張り。そこには白いローブに身を包んだ者が数名と、明らかに服装の違う二人の女性がいた。


 馬車は一台で森の方には馬が人数分程繋ぎ止められている。どうやらこの人数で旅をしている様だ。


「ギフト。」

「旅の楽しみの一つだが・・・。こんな場所でか?」

「何?」


 ミーネだけがわからず首を傾げる。ギフトとロゼは無造作に集団にちかづいていく。


 さすがにこの距離まで来れば気づくのか、白いローブの一人が杖を掲げて大声を上げる。


「止まれ!何者だ!」


 声からして女性。芯の通った声はそれだけで心の弱い者は萎縮しそうだが、生憎と三人には意味がなかった。


 へらへら笑うギフトと一点を見つめるロゼ、訳のわからない様子のミーネに視線が集まり、一人の女性が三人を見つけて呟く。


「え?何でここにいるの?」


 ロゼからすれば間違える筈もない、かつて共に戦った仲間。損も得も関係なく、ロゼの味方になってくれた友達。


「久しぶりだな。リカ、ルイ、ミリア。元気そうで何よりだ。」


 初めて出来た同姓の友達を忘れるわけがない。引き留められたロゼに変わって、リカ達がロゼに近づいていく。

毎日投稿は難しいです。

週に一回から三回投稿を目指します。


朝10時投稿は固定です。

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