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Deliver Happy   作者: 水門素行
二章 獣人闘争 四部~未来に向けて~
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30 仕事終わり

 宴は恙無く終りを迎え、そこから三日の時が経った。


 ギフトは届けの仕事を終えてから一切動くことはせず、町の中を彷徨いては店を冷やかしたり、ワイバーン討伐の武勇伝をせがまれたりとまったりとした日々を送っている。


 ニコが服を作り終えるまでは町を離れるわけにはいかない。いや、別に素材さえ渡してしまえばもう終わりと言ってもいいのだが、ロゼがその服を見たいと言ったので、だらだらと毎日を過ごしている。


 正確にはだらけているのはギフトだけで、ロゼはそれなりに忙しく動き回っている。人狼族(ワーウルフ)が町に定住するならば不安に思う人もいるだろう。その時に仲介役として動ける人が必要だった。


 それにロゼは自分から志願した。この町に関わりも無ければ人狼族(ワーウルフ)にもそれほど深い情愛があるわけでもない。それでも自分に出来ることがあるのならやりたいと言い出し、ギフトもそれを止めることなく諦観している。


 因みにギフトは一切動かない。どれだけ今頑張ろうと、未来を決めるのは彼らだ。だからギフトは今ここでお節介を焼くつもりはないが、かと言ってロゼのやっていることが間違いだとも言えない。


「暇だねー。」

「仕方あるまい。簡単に服など作れまい。」


 今ロゼは休憩中。暇そうに町を歩いていたギフトを見かけたので話しかければ、案の定退屈に飽き始めていた。


「ワイバーンの素材で作られた服だぞ?気になるではないか。」

「俺はこの服が気に入ってるからねー。」

「・・・たまには変えても良かろう?何着もあるから不潔とは言わぬが・・・。」


 ロゼも服のセンスがあるとは言えないことはわかっている。それでもそれなりに見れる服装は選んでいるつもりだ。だがギフトは放っておけば年柄年中同じ服を着ていそうで、気温が変わらなければ変えるつもりも無いのだろう。


 ギフトはこだわりが強いのではなく、着れれば何でも良いと思っている。唯一問題があるとすればそれは素材。自分が本気で戦った時に燃えるような服では困るのだ。故に燃える素材は着れないとなったら、今の服を着続けるのが一番良いと考えている。


「俺の服はちょっと特殊なのさ。燃える素材だと戦ったあとに裸になっちゃうでしょ?」

「・・・それは困るな。うむ。変態と旅しているとは思われたくない。」


 それを想像してロゼは言い淀む。流石にどんなに格好よく戦っていても、その後に裸の男が煙草を吸って笑いながら近づいてくれば逃げる以外に選択肢はない。


 褒められたいとは言わないが、せめて避けられたくはない。ギフトの正体を知った上で避けていくなら怒りもあるが、そんな理由で避けられたら言葉も出ないだろう。


「む?ならばワイバーンの素材はいいのではないか?」

「んー・・・。帽子くらいは欲しいかな?お前の国で結局失くしたし。」

「そういえば忘れていたな。」


 最初に会った時は帽子を被っていた。ゴタゴタがあって結局放置し、対して執着も無かったから忘れていた事だ。


 帽子を被る理由も魔法使いと思われるからで、それをお洒落の為と思っていない。あくまで絡まれた時に相手を油断させたいが為の一つの道具として使っていた。


「ところでミーネは?」

「ミーネなら今は仲間と共にいるはずだ。それは忙しそうにな。」


 最後のは昼中からだらけているギフトに対する皮肉なのだろうか。それでもギフトは適当に相槌だけ打って話を聞き流す。


 届けの仕事は終わったのだ。お金も多いわけではないがそれなりに蓄えた。贅沢さえしなければそれなりの日程は越せるし、どうせ次の町へ行くまでの間は野宿なのでお金を必要としない。


 それなら休める時に休むべきだと、退屈に飽き飽きしながら動こうとしない。もしギフトが酒好きなら恐らく昼間から酒を嗜んでいたかもしれないと思うとロゼは溜息を吐きたくなる。


 それからも二人は下らない会話をしながら時間を浪費する。穏やかな天気の下で緩い会話を続けていると、遠くの方から小さな影がこちらに近づいてくる。


「ギフト兄ー!ロゼ姉ー!」


 大声を振りながら手を振ってミーネが走ってくる。それを町の人は見るがミーネは既に受け入れられているのか、それとも怖くないだけなのか少し視線を向けるだけで何も言わない。


 人の波を器用にするする抜けてきてギフトに突撃をかます。それをギフトは正々堂々受け止めて、ミーネの体を空に持ち上げてそのまま口を開く。


「上機嫌だな?良い事あったか?」

「うん!良い事ばっかりだよ!」

「そうか。それは最高だな。」


 尻尾を千切れんばかりに振ってミーネは気持ちを伝えてくる。ミーネの体を地上に降ろして頭をくしゃくしゃになでると嬉しそうにはにかんで、ロゼがそれを見て声を漏らす。


「ミーネ。今度は妾に来い。妾も受け止めてやる。」

「ロゼ姉ー!」

「うむそうだ!」


 ロゼは向かってきたミーネを受け止めて同様に持ち上げる。二人で笑いながらくるくる回っていると、ミーネが来た方向から人が走ってくる。


「待って・・・!ミーネちゃん・・・。早い・・・!」


 息を荒くしてやってきたのはニコだった。ニコはギフト達の近くに来ると、膝に手をついて顔を下げて呼吸を整える。


「おお?どうしたのさニコ?お守りか?」

「ちょっとギフト兄!」


 ミーネは子ども扱いされたことに不満を漏らすが、ギフトはそれに取り合わずはいはいとミーネの頭を撫でる。それだけで満足してたまるかと最初は頬を膨らましていたが、次第に顔が緩み始めていくのを見るとどうやらギフトの行動は間違っていないようだった。


「魔法の手だな。」

「俺何も魔法使ってないよ?」

「そうではない。そんなに良い物か?」

「ギフト兄の手は暖かいんだー。」


 緩みきった顔で幸せそうにミーネが言うと、ロゼは自分の手をじっと見つめた後ミーネの頭を撫で始める。するとミーネはギフトの時と同じくらいに幸せそうな顔をしてロゼはふふんと勝ち誇った笑みを浮かべる。


「いや勝負じゃないし。」

「もっと悔しがるが良い。」

「はいはい。負けました負けました。」


 適当に返すと、ロゼはもういいと顔に出してミーネをギフトの手の届かない自分の背中に回す。ギフトは肩を竦めるだけで何も言わずに、未だ息の荒いニコに話しかける。


「で?何さ?」

「ああ・・・。ふー・・・。えっとですね。服が、完成しました!」


 ニコは割れんばかりの笑顔を浮かべ二人に告げる。するとミーネがニコの元に駆け寄って講義の声を上げる。


「あー!それ僕が言うって言ったのに!」

「あっ!ごめんなさいミーネちゃん。つい・・・。」


 ニコも嬉しかったのだろう。と言うか興奮しているのだろう。滅多に無い素材で服を作れるのなら張り切りもする。作るには早い時間と思っていたが、ニコ自体の気合が乗って素早く終わったのだろう。


 だがそれよりもロゼはミーネが楽しそうなのが微笑ましい。最初は人に怯えていたのにこれだけ明るく笑えるようになった。その一端となった事が出来たのは何よりも嬉しいと感じている。


 ここに来てロゼはギフトが届け屋の道を選んだ理由がわかった気がする。正直に言ってもどうせはぐらかされるだろうから言いはしないが、きっとそうだと信じたい。


「なるほどな。これは良い物だ。いや、最高と言うのか?」

「どうしたロゼ?」

「何でもない。ニコ。服は店にあるのか?」

「はい!来てください!」


 ニコは上機嫌に、徹夜明けの一周回った様な気分なのかも知れないが、元気よく返事して店へと歩き出す。


 ギフト達はその後に続いて店に向かう。ミーネを中央に挟んでギフトとロゼに手を繋がれ、仲睦まじく買い物に出かける家族の様に。


次で二章終わります。

たぶん。

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