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Deliver Happy   作者: 水門素行
二章 獣人闘争 三部~亜龍~
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19 族長リバル

今回も短い・・・。



「お兄ちゃん!」

「来るなミーネ!」


 ミーネが慌てて駆け寄ろうとするもリバルに怒鳴られ足を止める。今ミーネがリバルに近づいて何もすることは出来ない。ならば離れていたほうが戦いやすいのだろう。


 だがロゼはその会話を無視して突撃し、人狼族(ワーウルフ)の戦いに介入する。戦っている理由などわからないが、これが普通な自体だとは思っていない。状況を整理する時間が必要だった。


 ロゼは剣を振るって人狼族(ワーウルフ)を遠ざける。呼吸を整えて敵を見るが、その人狼族(ワーウルフ)は先程まで一緒にいた者たちだった。


「どういう事だ?」

「俺もわからん。突然襲われた。」


 ロゼの独り言にリバルが応える。そしてそれはロゼにとっての答えなのだろう。覚悟を決めて剣を構え、周囲を見渡し本命を探す。


「奴隷の首輪の力はどこまでいけるのだろうか?」


 今人狼族(ワーウルフ)達が戦っている理由は奴隷の首輪による支配なのだろう。奴隷の首輪に行動を自由に決めさせる方法があるとは思えないが、ロゼもそこまで詳しいわけではない。


 ただ奴隷の首輪に効力があるのかどうかはともかくやるべきことは一つだ。自分の意志で戦っていないのなら首輪の主人を倒せばいい。


 主人は確定している。この場には見えないが狐以外にいないだろう。その狐を探しているが周りには見当たら無い。


 そしてロゼの頭上に影が差す。平原で一体何が自分を影で覆ったのかと空を見上げると、巨大な生物がロゼと空を遮り旋回していた。


「なっ・・・!あれがワイバーンか・・・?」


 そこに映し出されたのは大きな翼を広げ尻尾の先が膨らんだ灰色の生物。上空にいるせいか細部までは見る事は出来ないが、その存在感は圧倒的だった。


「おい!」


 と見とれていたロゼにリバルが大声を張り上げ、ロゼが視線を地上に戻すと目の前に人狼族(ワーウルフ)が迫ってきていた。


 引くことは出来ないと自ら前へ飛び出して体当りするも、体重差があるからか吹き飛ぶことはなかった。だがロゼはそのまま左手を上に持ち上げて顎を射抜く。


 大した攻撃にはならないだろうが、一瞬の隙の内にその場を離れて態勢を整える。一息ついて剣を構え直して冷静に状況を整理する。


「リバル。ワイバーンに勝てるか?」

「・・・地上に降りてくればな。上空にいると打つ手がない。」


 リバルも自分の現状を見つめ直す。ここで嘘を付いたところで何も良い事は無いと、正直に話してロゼの反応を伺う。


 だがロゼも遠距離で戦うことを得意としているわけでもない。魔法は使えるが恐らくワイバーンに当たらないだろう。仮に当たったとして鱗と革を貫いて痛手を与える事は難しいだろう。


「先ず地上をどうにかしなければならぬが・・・。」

「気絶もしない。さっきから試しているがな。」


 対策はされているのだろう。気絶してもすぐに奴隷の首輪を起動させ、痛みを与えて意識を戻す。それを繰り返してこちらに休む暇を与えないのだろう。


 そして仮に全員気絶させても上空のワイバーンも倒さなければならない。地上と上空に気を払いながら地上を制圧して、その後ワイバーンを倒すために体力も残さなければならない。


「さあさあ!舞台の幕は上がったよ!最後まで踊ってどんな結末を送りたい!?」


 ロゼとリバルがどう対応するのかを楽しみにするかのような声が二人を更に苛立たせる。声が上空から聞こえている事からワイバーンに乗っているのだろうか。


 姿が見えずとも軽薄な笑みが脳裏に浮かんで不快になる。それをどうしようも無い現状も更に気持ちを焦らせていく。


「ワイバーンは無視だ!どの道不利だが仕方無い!」

「お前はそれで良いのか?」


 威勢良く飛び出そうとしたロゼにリバルが声を掛けて邪魔をする。その質問の意味がわからず、ロゼは鬱陶しそうに振り返る。


「何だ?」

「逃げても文句は誰も言わねぇ。お前が命を賭ける理由は何だ?」

「下らぬ。命を賭ける真似など妾はしない。生きるための戦いだ。」

「生きるためだけなら逃げれば良いだろ。」

「自分から逃げて生きられるか。それだけだ。」


 ロゼは話は終わりと人狼族(ワーウルフ)の群れに飛び込みひたすら注意を引く様に暴れまわる。碌な手段は思い浮かばないが、何もせずに立ち止まるわけにはいかない。


 リバルはその背中を見て少しだけ考える。リバルからすればこの件には人族が首を突っ込んで欲しくない。人族と共闘するのもできればやりたくはなかった。


 だが今ロゼにそう言っても聞き入れないだろう。戦いぶりからわかるのは良くも悪くも真っ直ぐな性格なのだろうということだ。


「何も嘘は無いか・・・。」


 恐らくロゼは本音でしか話していない。だからリバルは迷っているのだろう。ここで共闘する事はロゼを認めることで、それは人族を認めることだった。


 まだリバルは人族を認められない。未だ脳裏にこびり付くあの憎たらしい笑みをかき消すことはできない。それでも今リバルの目の前に突きつけられた選択肢は共闘するか逃げるかの二つだ。


 ここに来てロゼを倒すという選択肢は無かった。紛いなりにも自分を倒した相手を不意打ちで倒すことは誇りに反する。今更保つ面木等ないかもしれなくとも、最後の最後に線引きを超えることが出来なかった。


 ロゼの周囲に群がる人狼族(ワーウルフ)にリバルは拳を打ち込む。同じ人狼族(ワーウルフ)だ。多少本気で打ち込んだところで死ぬことは無いだろう。それで罵倒されることになってもリバルはそれを受け入れるつもりだった。


「・・・覚悟は出来た。人族。俺の仲間を助けてくれるか?」

「当たり前だ。そのために妾はここに来た。」


 何も迷うことなく言い切るロゼは、人族の中でもダントツにどこか抜けているのだろう。


 ロゼの中では何も違和感が無くても、リバルはロゼの行動を理解できてはいない。何故戦うのか何故自分を狙った相手に無防備に背中を晒すのか。


「名前は何だ?」

「ローゼリアだ。お主はリバルだな?」

「ああ。改めて名乗らせて貰おう。」


 リバルは自分達を取り囲む人狼族(ワーウルフ)を睥睨して高らかに宣言する。覚悟を決めたのならそれは声に出すべきだ。その覚悟から逃げないために。


 苦しそうに自分達に爪を向ける仲間達。痛みに耐え忍んで動きを止めようと抗う戦士たち。誇り高い仲間達に、これ以上情けない姿を晒せるものかとリバルは声を張り上げる。


「俺の名はリバル!人狼族(ワーウルフ)が族長リバル・ハーケン!お前達を救い出す者の名だ!」


 リバルは踏み込み人狼族(ワーウルフ)は笑みを浮かべる。絶対の信頼を持つ者が帰ってきたかの様な笑顔を浮かべて、彼らも自らの運命に抗い出す。




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