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Deliver Happy   作者: 水門素行
二章 獣人闘争 三部~亜龍~
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18 轟く咆哮

短いです。すいません。

 誰もいない部屋でギフトは目を開く。覚醒したばかりだが思考も冴えている。というより普段よりもずっと頭が冷えた感覚だ。


 眠りの後はどこかふわふわした気分になりいつになっても慣れない。


「・・・って。あら?」


 少し気づくのが遅れたが、周囲に人の気配がない。視線を巡らしてもロゼの姿もミーネの姿も見当たらない。


 後頭部を掻いて口をへの字にして考えるが、寝ている間に何か起きていたとしても気づきようはないし、考えた所でわかるはずもない。


 煙草に火を点けて窓も開けずに部屋を煙で満たす。ベッドから降りてリュックを背負うと窓を開けて外に煙を吐き出す。


「さて。どうしようかな?」


 今あの二人がどんな状況になっているかも知らず、ギフトは呑気な声を出す。空は青白く染まってきていてもうすぐ朝が来ることはわかるが、眠ってから何日経ったのかが検討もつけられない。


 とりあえずはその辺も話を聞くべきかと煙草を吸いきって火を消すと、宿の食堂へと降りていく。日の出てない時間だが少しだけ人がいて、ギフトはその人物たちに近づいていく。


「おじさん方。銀髪の女の子とフードの子どもを知らないかい?」


 知っていても知らなくても別に構わない。すぐ帰ってくるかも知れないし、仮に何か問題が起きていたとしてもそれを今すぐ知るすべはないのだから焦っても仕方がない。


「おいおい。人に物を頼む態度を知らないのか?」


 話しかけた男は酔っているのか顔を赤らめて不遜な物言いでギフトを睨めつける。だがギフトはそれを気にせず懐から銅貨を一枚取り出す。


「酒も買えないぜ。」

「じゃあ二枚だな。教えてくれる?」


 男の顔は綻び上機嫌に酒を呷る。グラスを机に叩きつけて男は酒精混じりに話し出す。


「フードの子どもは知らないが、銀髪の姉ちゃんは見たぜ。でお前と一緒で誰か探してた。」

「それって何時間前?」

「昨日の日暮れくらいさ。俺たちはそれ以降見てないぜ。」

「そっか。ありがとう。」


 ギフトはお礼にもう一枚銀貨を取り出して机の上に置く。男達から歓声が上がるがギフトはそれを無視して宿の外に出て煙草を吸い始める。


「ロゼはミーネを探していたのかな?ミーネが最初にどっか行ってそれをロゼが追いかけた。何日寝たか知らないけどあいつらが消えてから時間は半日くらいか。」


 煙を空に吐き出しながら思考を纏めていく。半日くらいならそこまで遠くにいないだろう。だが逆に半日帰ってきていないのだから何かあったと考えて間違いない。


 問題はどこに行ったかだ。部屋の中に書置きも無かったし、言伝を誰かに頼んだわけでもなさそうだ。それほど急いで行く用事があって、且つミーネが最初に消えた。


「なら人狼族(ワーウルフ)かな?ただ半日か・・・。」


 それだけの時間があれば別の場所に移動した可能性もある。それに町の中でトラブルに巻き込まれた可能性だって捨てきれないのだから、もう少し情報を集めたいところではある。


 ギフトがそう思って座りながら空を見上げて時間を潰していると、遠くの方で何かの声が聞こえた気がしたのか立ち上がり音がしたと思われる方向に目を向ける。


 そこには何もなく、穏やかな風景が広がるばかりだが、ギフトは煙草を口から落として靴底で踏み消す。


「ロゼも大概危険な事に首を突っ込むよね。」


 確証は無くとも確信している。ギフトの耳に届いたのは大きな生物の鳴き声だ。そしてこの辺りで大きな生物と聞いてギフトが思いつくのはナメクジか翼の生えたトカゲのどちらかだ。


 ナメクジは咆哮などあげないならこの声の持ち主は一匹だろう。だがギフトは厄介事の気配を感じても悲壮感は全くない。それどころかこの状況に笑みを浮かべる。


 厄介事など世の常だ。それを乗り越えられるものだけが勝者になり生き残る。その上その厄介事は自分達の狙いでもあるのなら、問題は何もなかった。


「行くか。届け屋ギフト。依頼を遂行してみせますよ。」


 獰猛に笑いギフトは目標地点に向けて走り始める。正確な位置はわからないが、近くに行けばなんとかなるだろうと、頭が冴えても行き当たりばったりな性格は変わっていなかった。




「何の音だ!?」


 体を震わす音にロゼは思わずたじろいでしまう。ミーネ耳を澄まして音の発生源を探り当てるがその場所の検討が付いて顔を青ざめさせる。


「ロゼ姉!皆が!」

「考えてる時間は無いか・・・!走れるかミーネ!?」


 ミーネを抱えたまま走るのでは遅くなる。ミーネは戦闘行為こそ苦手だが、身体能力が劣っているわけではない。体力も体の身軽さも、同じ年の人族よりはずっと高い。


 ミーネは頷くと、ロゼを先導するように走り始める。ロゼはミーネの後に続いて走り出して二人は人狼族(ワーウルフ)達が居た場所へと戻っていく。


「ミーネ!あの音が何かわかるか!?」


 見ればわかるかも知れないが、先に知っておいたほうが見た時に怯まないで済む。ほんの少しの油断が命取りになるのだから、どんな情報でもあるに越したことはない。


「たぶんワイバーンだよ!見たことは無いけどこの辺りであんな声を出すのはワイバーンくらいしかいない!」

「・・・どれほど強い!?大きさは!?」

「強さはわからないけど皆怖がってた!大きさは馬車が二台ぐらい!」


 その情報はロゼとって喜ばしくない物だった。人狼族(ワーウルフ)が恐るほどの魔物で大きさは代替十メートルぐらい。


 純粋な龍種には及ばなくとも力の象徴である龍を司る存在はロゼにとって未知数の敵で、恐らく挑むにはまだ早い相手。


 それでも逃げることは出来なかった。約束もそうだが、生来の性格が逃避を許してはくれなかった。自ら死に近づくなど愚かな事かも知れなくても、ロゼは誰も切り捨てられない。


 ロゼとミーネが走り出して数分経つと声がより大きく猛々しい物に変わる。聞くだけで威圧される気分になる声はその存在の恐怖をまざまざと知らしめる。


「・・・ロゼ姉・・・。」

「大丈夫だ。心配はいらぬ。」


 心配そうな顔のミーネにロゼは笑いかける。何一つ自信など無いがそれをそのまま伝えるわけにはいかないのだろう。口だけと思われようともロゼは言いら無ければならなかった。


「お前もお前の仲間も誰も死なせない。妾が必ず守ってやる。妾が必ずお前に笑顔を届けてやる。」


 そしてロゼとミーネが目的の場所にたどり着くと既に戦闘は始まっていた。だがワイバーンと戦う者は誰もおらず、そこには人狼族(ワーウルフ)同士での戦闘が繰り広げられていた。




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