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Deliver Happy   作者: 水門素行
一章 アルフィスト王国動乱記 一部 ~邂逅~
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8 蚊帳の外

 真っ赤な紅葉を頬に貼り付け、ずぶ濡れた服を上だけ脱いでその部分をさすりながらギフトは川の淵に座り込んでいた。岩を挟んだ逆側でローゼリアは服を着ようとしている。


「事故じゃないか。そんなに怒らないでくれよ。」

「女性の着替えの最中に口を挟むな。デリカシーの無い男だ。」

「・・・うっへぇ。」


 ギフトはその言葉の端々に刺を感じざるを得ない。見てしまったものは仕方がないだろう。お互い予測など出来る訳もなかったのだから。ただ、その後の行動に関してはギフトが全面的に悪い。

 直ぐ様視線を逸らすなり、謝罪するなり方法はあったはずだ。それで怒られないかと問われればそうもいかないだろうが、少なくとも現状より多少はマシになってるはずだ。

 今は何も言わないことが正解だろう。なのでギフトはそちらに注意を払う事なく、濡れた服を乾かすために薪を拾い集め、火を起こす。

 そして手頃な木を立て、服と帽子を被せ火の上に持っていく。後はやることはない、燃えないよう見張るだけだ。ローゼリアはまだ着替え終えていないのだろうか、顔を出してくる事はなかった。

 鼻歌を歌いながら服を乾かし、ついでに食事も取ろうとリュックの中を確認する。中には煙草や保存食の乾パンや干し肉が入っていたのだが一律ずぶ濡れだ。雨程度ならリュックは水を弾いてくれたのだろうが、さすがにそれで川に飛び込むことまでは予想していない。

 ギフト自身もそんなことは考えていなかった。つまり、このリュックの中身は全て使い物にならなくなっていた。


「マジ?嘘?タバコもメシも無いなんてどんな拷問だ?」


 保存食は食えないことはない。だが、ただでさえ美味しいものではないのだ。それがビチャビチャになったものなどギフトは美味しく食べられるとは思えない。少なくともギフトの腕前と脳ではそれを美味しくする方法は無かった。

 絶望に打ちひしがれ地面を見つめるギフトを余所に、ローゼリアは着替えを終えたのだろうかこちらにやってくる。しかしその手には剣が握られている。王家の物には相応しくないだろう。派手な装飾もない無骨な、普通より少し長い剣。


「さて、まずは聞かせてもらおう。貴様は何者だ?」


 眼前に剣を突きつけながらギフトを問いただすローゼリア。しかし、ギフトはそれを気にすることなく打ちひしがれたままだ。

 剣を向けられていることに気付いていないのだろうか、ローゼリアは更に剣を近づける。その顔は険しく答えしだいでは切りつけるつもりかも知れない。

 ギフトは近づけられた剣をチラリと見ると、視線を上げていきローゼリアと目が合う。が、それは一瞬の事。再び地面に視線を戻す。


「おい。聞いておるのか?返答如何によっては貴様の命は無いぞ?」

「こっちもこのままじゃ死活問題だ。ただでさえ不味いメシにうんざりしていたのにこの仕打ちだぞ?ひどいと思わない?」


 まるで話が噛み合わない。いや、話は聞いているのだろうが、答える気が無いのだろうか。

 ローゼリアは自分が舐められていると思うが、それ以上の行動を取れない。拷問や尋問は苦手なのだ。人と戦うことはできるが痛めつけるような行為は自分には出来無い。

 どうするべきか悩む。ギフトに悪意があるならばこのまま放置するわけにも行かないが、ただの偶然という可能性もある。というか、上から落ちて来たのだから、自ら飛び込んだとは考えづらい。

 そして考えた末にローゼリアはある事を思いつく。


「妾は今遠征の最中だ。騎士の居る場所に戻れば、簡素ではあるが食事くらいは用意できるぞ。」

「マジすか姉さん!いよ!男前!グラマラス!天使たぁまさに姉さんのことよ!!」


 ガバッと立ち上がり笑顔満開のギフトにローゼリアは若干引く。餌で釣ったのは自分だが、その食い付きが予想以上だった。あまりにも必死なその様子に少し面食らう。

 だが、戸惑うだけではいられない。正体によってはそれもする訳にはいかないのだ。


「改めて問おう、貴様は何者だ?」

「ギフトだよ。届け屋のギフト。」

「・・・届け屋?」


 聞きなれない単語にローゼリアは首を傾げる。運び屋なら聞いたことがある。表から裏へ裏から表へあらゆるものを運ぶ、いけ好かない商売をしている物たちだ。その商売で潤うのは金のあるもの、金がないものは被害に遭うしかできない。奴隷として連れ去られることもあると聞いたこともある。

 ギフトもそういった人間の一人かと嫌悪感を顕にするが、それは違うとヘラヘラ笑う。


「言っとくけど運び屋とは違うからね。あいつらと同列には見ないでよ?」

「むう。それはすまん。では一体貴様は何をするのだ?」

「それは・・・。」

「姫様!そちらにおられますか!?」


 ギフトがニヤリと笑い、セリフを決めようとしていた所に別の人間の声がかかる。肩透かしを喰らい唇を尖らせるギフトを気にせず、ローゼリアは返答する。


「グラッドか?もう良いぞ。着替えも終えておる。何があった?」

「ハッ!姫様、至急お耳に入れたいことが・・・。と、お主は?」

「今はそのことは良い。至急なのだろう?早く申せ。」


 グラッドはギフトを気にしつつもローゼリアの耳元で何かを告げる。そしてそれを聴き終えたローゼリアは動揺するも直ぐ様行動の指示を出す。


「分かった。すぐに向かうぞ。騎士たちの用意は?」

「恥ずかしながら、突発的な事態故・・・。」

「そうか。ならば動けるものだけで行くぞ。」

「姫様!それは危険です!」

「今危機にあるのは妾ではない。その為の騎士で力であろう?」


 二人で何やら相談をしているようだが、ギフトは首を右へ左へ向けるだけで会話には入らない。

 そしてそれが視界に入ったのだろうか、ローゼリアはギフトに顔を向ける。


「貴様が何者かはもう良い。今回の事も今は不問とする。去って良いぞ。」


 それだけ言うと二人はギフトから離れていき、やがて木々が邪魔でその背中も見えなくなる。それをギフトは黙って見ていたのだが、しばらくしてから口を開く。


「あれ?俺のメシは?姉さん?嘘つくなんて酷い!」


 そう言っても上半身裸で彷徨くつもりも、生乾きの服を着るつもりもなく、早く乾けと火の勢いを強くすることしか出来なかった。




続きは明日10時。

誤字脱字は気をつけていますが、

あれば報告お願いします。

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