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Deliver Happy   作者: 水門素行
2章 獣人闘争 一部 ~新たな出会い~
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8 一歩

 届けの依頼を受けた三人はまだ町を出ていない。この町に詳しくないギフトとロゼが、何が売れるか、珍しいかを探るため様々な商店で冷やかしを行っているからだ。


 ギフトは好奇心は旺盛だが物欲が高いわけではない。気に入ったものについて聞きはしても買う迄には至らず、店員から鬱陶しそうな目を向けられている。


 ロゼも何か欲しいと言うことはなく、現状調査の方に気が向いているからか、見るだけで手に取ることもしない。結局二人とも好意的な何を買うこともなく、時間だけが過ぎていった。


「難しいな。」


 ロゼは物の良し悪しは判別出来るが、何が売れるかを見る目はない。買うことはあっても売りに行く事は無かったのだから当然だが、これでは金を稼げない。


「狙いは金持ちだから簡単だよ。」  


 一方でギフトはある程度当たりを付けたのか暇を弄び、冷やかしに力を入れている。話を聞いて値段を聞いてそれでも買うことなく店を離れていく後姿に冷たい視線が突き刺さる。


「お前は何か買わぬのか?というかさっきは何を買ったのだ?」

「ミーネの服だよ?俺が選んだものじゃないから大丈夫。」

「気前が良いな。」

「これで全財産無いけどね。」


 その一言はロゼとミーネの目を丸くさせる。特にミーネは自分の所為でという思いが強くなって委縮する。だがギフトは事も無げに朗らかな顔をする。


「だから今日は野宿ね。町の外へ行っくぞー。」

「・・・。」


 二人は未だ状況が呑み込めない。特にロゼは宿で休むと思っていたのだから、また野宿と思うと疲労が押し寄せてくる。それを今言えばミーネに気を遣わせると思うと何も言えなくなる。


「そんな顔するな。今日だけだからさ。」

「なぜ言い切れる?」

「何人かが買い取ってくれるってさ。薬草でも魔物の素材でも物によっては高価で買い取ってくれるよ。」

「・・・逞しいな。」

「情報収集は旅の鉄則だよ。って言われたからね。」


 一人で旅をする上で必要なことは心得ている。教えられた訳では無いが、優秀と思える人が近くにいたからその人の真似をしているだけなのだが、それでも今日まで生きてこれたのはその真似事が上手くいっているのだろう。


 実際にギフトは今は無一文だが、ロゼに出会ったときはそれなりに金を持っていた。様々な事情で金は無くなったが、その事に後悔していない以上振り返る必要もない。


「まずはビースパイダーの羽と糸を取りに行こう。ここから西側の山の中に生息地があるらしいし。」

「ふむ。人の話も財産か。大切なことだな。」

「大袈裟だね。」


 ロゼはギフトの言葉を記憶する。ギフトに同行したは良いが、ロゼは旅に関しては素人だ。現状は甘んじるしか出来ないが、そのままでいいと思う性格でもない。


「あ、あの・・・僕は・・・。」

「ミーネも一緒に行くよ?色々手伝ってもらわないと。」

「でも、僕戦闘はあまり得意じゃ・・・。」

「戦うだけが助けじゃないさ。お前の力はそんなつまらないところに無いよ。」


 その言葉の真意はミーネにはわからない。ギフトと出会ったのは今日で、碌に会話もしていないのに、まるでミーネがどんな力を持っているのかを理解しているような口ぶりだった。


 当然ロゼもその言葉に違和感を持つ。ギフトは偶に良くわからない自己完結をする事はある。それでも何か未来を確信しているような物言いをした事は無い。


「どういうことだギフト?」

「そのままの意味だよ?戦うだけの力なんてつまらないじゃないか。」


 ロゼもミーネも何か裏があると真意を探ろうとする。だが実際にはギフトの言葉に大した意味は無く、本当に額面通りに受け取って間違いは無い。


 ギフトは自分の事を戦う以外で何か役に立つ人間だとは思っていない。だからこそミーネにはそんな存在になって欲しくないと言うだけの話で、それ以上の意味は無かった。


 強いて言うならミーネは獣人族としてのある特性がある。それを鑑みての言葉だが、それを聞かれているとは思わずギフトも何を聞かれているのかわからない。


「んん?まぁ何でもいいでしょ。とにかく行きましょ。」

「・・・ふむ。確かにどうでもいい事か?」

「どうでもいい事だよ。俺は割と適当なんだから。」


 それ以上の話をせずに三人は町の外へと向かって歩き始める。疑問は晴れないままだがギフトがミーネに対して不都合な事はしないとロゼは確信を持って言える。


 ギフトは基本心根は優しい。他人に対しては鏡の様に接して、気に入った人間にはやり方はともかくとしてもお節介も焼くし、自分の不都合を顧みない。そんな男が今更ミーネを騙しはしないとロゼは思考を切り替える。


 三人は横並びに歩いてミーネを間に挟む形で山の中に入る。別に逃げるとは思っていないが、何かあった時に守りやすいから自然とこの形になった。


「僕本当に戦えないよ?弱い魔物くらいには勝てるだろうけど・・・。」

「いや手は出さなくて良いよ。基本はロゼが戦うし。」

「聞いてないぞ?」

「俺が二人共守ってやっても良いけどね?」


 ギフトは厭らしい笑みを浮かべてロゼを見る。それを受けてロゼは顔を顰める。


「なるほど。妾を挑発しておるのか?」

「受け取り方は人それぞれだよ?でもお前がそう取るならそれで良いよ。」


 それは明らかに挑発だろうとロゼは思う。ただ確かにロゼも強くはなりたいと思っている。その機会を与えられたのならここは食いつくべきだろう。


「良いだろう。受けて立つ。」

「そう来なくちゃ。」


 ロゼもギフトも見合って笑い合う。ロゼはギフトに並び立つことを目指し、ギフトはそれに負けじと上を目指す。その関係で無ければ二人は成長しない。張り合う相手が側にいることは良い刺激になる。


「危なくなったら助けるだろうけど、その時はなんか罰ゲームしようか。」

「確かにな。死にたくは無いが安心しきって戦うのも違うだろうしな。」

「じゃあ罰ゲームはミーネに決めてもらおうかな?」

「ええ!?僕!?」


 ミーネは予想外の言葉に戸惑う。二人の会話の心地良さに身を委ねていたのに、その輪に自分が入るとは思わなかった。というよりかはある程度完成された空気に自分が入ることをしたくは無かった。


 慌てて思考を切り替えて何か言葉を探す。とはいえ急な話で今までもそんな事をした事も無いのにポンと答えが出てくるわけもない。


「え、えっと・・・。」

「後で考えとけよ?有力候補は俺の手作り料理な。」

「妾を殺すつもりか?それだけは勘弁してくれ。」

「ロゼを生かすも殺すもミーネ次第になったね。」

「・・・そんなに酷いの?」

「食い物を無駄にしたくないならギフトには頼むな。」


 ミーネの質問はロゼにバッサリと切り捨てられる。そのあまりにも淡泊な反応にミーネは笑ってしまう。この二人は何か変だとは思っていたが、決定的に他の人とは何か違う。


 仲が良いのに言い合うし、言い合いっても互いを理解しようとする。馬鹿にすれば馬鹿に仕返し、互いに褒め合う事も恥ずかしがらない。


「ローゼリアさんは料理上手なの?」

「俺よりはな。」

「ギフトは下手とかの次元では無いだろう?」


 焼く煮るは出来ると言っていたのにそれすら出来ないのだから基本生で食うしかない。唯一切る事だけは一人前以上に出来るが、それでは料理と呼べるものではない。


「馬鹿にしやがって。いつか俺も作れるようになるからな。」

「それまでの間の食材が無駄ではないか?」

「罰ゲームでロゼが食うから良いでしょ?」

「ああ。何も良くないな。」


 ロゼはギフトの作った料理は食べたくない。如何に愛情があろうと手間が掛けられていようとそれでは越えられない壁がある。ただの炭化した物質は流石に食いたいとは思えないし、死が近づく。


「いいなあ。僕も料理出来るかな?」

「出来るさ。一緒に頑張ろうぜ。」

「ミーネには妾が教えてやろう。」

「あれ?」


 ギフトの惚けた声を無視してロゼは笑いかける。ミーネはその視線をくすぐったそうに受け取り、照れ笑いをする。


「お前も兄弟みたいじゃないか。」

「姉妹であろう?だが妾は妹はいなかったからな。良いものではある。」


 ミーネはその言葉を心底嬉しく受け取る。そしてこの二人の変な部分が分かった気がする。


 二人共何一つ飾っていないのだ。自分を良く見せようとかを考えていない。ただ思ったことをそのまま行動に移しているだけだから、他の人とは違うと感じるのだろう。


 そして二人に感化されたのか、ミーネも幾分か素直になる。そしてその素直さからか一番聞いておきたい事を初めて聞き出す。


「二人はさ、僕が怖くないの?」


 正直なんて言われるかを考えればそれは聞きたくは無い。それでももしかしたらと言う淡い期待を抱いて疑問を口にする。


 ミーネは今まで人から避けて避けられて生きて来た。家族はもうバラバラになって会えるかもわからない。人のいる場所に行けば見つからないように隠れて、見つかれば痛い目を見るだけ。そんな人生だから多少は卑屈にもなってしまう。


 知りたいのは本当の事。悪い人では無いとわかっている。それでもここまで助けてくれる理由がわからない。それが知りたいがための疑問だった。


 そしてギフトとロゼは顔を見合わせて悩む。一瞬の沈黙が流れた後ギフトは口を開いた。


「俺の方がたぶん怖いぞ?」

「いや、そう言う事ではなかろう?」


 悩んだ結果ギフトが出した答えはミーネの欲しかった答えでは無かったが、少なくとも二人はミーネに思うところは無い事だけはわかり、少しだけ踏み込むことを決意する。


「だって僕は人狼族(ワーウルフ)だよ?皆僕を怖がって話も聞いてくれないのに・・・。」

「ああ。そう言う事ね。でもお前だって人が怖いだろ?」


 ミーネは問われてこくりと頷く。だから最初はギフトとロゼから逃げようとしていた。今でこそ信用とまではいかなくても一緒に居ることに不安は無いが、それでも他の人が居ると恐怖が顔を覗かせる。


「俺らも怖い?」

「・・・最初は。でも今はそんなにだよ。」

「ちょっと怖いのかー。信用を得るのは難しいな。」


 言いながらギフトは笑いながら煙草に火を点ける。ロゼももう答えは出ているのだろうか、呆れた顔で笑っていた。


「俺はたぶん人狼族(ワーウルフ)は怖いよ。」

「じゃあなんで・・・?」

「ミーネは怖くないから。」


 そういうと空を見上げて煙草を吐き出す。ギフトだって似た経験はしてきた。それを気にしなくなった理由、自分の存在を受け入れられた理由は自分にあるとは思っていない。


「俺は人も怖いし亜人も怖いし、獣人も怖いし魔人も怖い。この世の全ての人族が怖かったよ。」


 全くそうは思っていないように見えるがギフトは本当にそうだった。この世の全てを敵と思って生きて来たし、事実何人も殺してきた。


「そんな俺に色々教えてくれたのは馬鹿と阿呆の二人だったのさ。この世界と人はそれほど悪いもんじゃないと教えてくれた。だったら今度はそれを俺が教える番だと思ってな。」


 これは半分ほど嘘だ。その気持ちが全くなかったわけでは無いが、それよりも勝っていたのは単純に腹が立っただけだ。


 そう生まれただけで辛い人生を歩むなど納得できない。人生はもっと広くて美しいと教えられたギフトが理不尽に嘆く人間を放置する道理は無い。そんな理不尽を破壊してこそ人生とギフトは笑う。


「大事なのは人だよ。そこに種族は関係ないさ。そう思ってる馬鹿は意外と多いかも知れないぞ?」


 ギフトはロゼを指さして言うと、ロゼも何も否定せず肯定する。ミーネにはそれを見て自分でもわからない感情がせりあがってくるのを感じる。


「お前がお前である限りは俺らは味方さ。何も心配しなくていい。」


 ギフトは立ち止まるのは終わりと歩き始める。その背中を見つめていると、ミーネの肩に手が置かれる。


「立ち止まっていると見失うぞ?早く行こうではないか。」


 ロゼの言葉にミーネは自分の意志と考えでギフトの後を付いて歩き始める。それは目に見えた一歩で目に見えない一歩を踏み出した瞬間だった。



ここで一部終了です。


続きはちょっと所用で間が開きます。

20日くらいには投稿できると思います。

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